HOME > オートサウンドレビュー > ビッグデータを活用した独自アルゴリズムで楽曲解析。新技術Gracenote Dynamic EQ
2016年3月22日/Auto Sound Web
2016年1月にアメリカ・ラスベガスで開催されたCESでユニークな技術が公開された。膨大な量の楽曲メタデータベースを有するグレースノート(GRACENOTE)が提案したGracenote Dynamic EQがそれだ。3月中旬に同社では日本においても正式にリリースを発表、新たな市場展開を狙う。
グレースノートは世に発表されている楽曲の実に2億曲におよぶ情報を整えて保有しており、そのメタデータベースはオーディオプレーヤーやPCなどのハードウェア、ストリーミング配信、ラジオ放送などで活用されている。
たとえばアップルのiTunesで、CDをリッピングしようとすると、ディスクをローディングするやいなや、アルバムタイトルやアーティスト名ジャンルなどが自動的に表示される。まさにここに同社のメタデータベースが使用されているのだ。また、カーナビにCDを挿入した時に、曲名やアーティスト名が勝手に表示されるのも、同じである。決してCDに記録されている情報がそのまま表されているわけではなく、同社が整えたメタデータベースから情報を表示している。
同様の情報サービスを展開する企業は他にも存在するが、グレースノートのグローバルシェアはなんと51%! 市場において圧倒的ともいえる普及率を誇る最大手企業なのだ。とはいえ、自社のロゴバッジを着けた製品を販売しているわけではないため、どこに使われているの??? という方も少なくないだろう。取扱説明書などを見ると、同社の技術が使われている場合、ブランドロゴが記載されていることが多いので、自身の愛器で採用されているかどうか、確認してみてはいかがだろうか。
前置きが長くなったが、グレースノートのGracenote Dynamic EQがどのようなものか、ご紹介しよう。まず、多くのオーディオファンがご存知のイコライザー(EQ)とはひと味違う。従来、イコライザーといえば、試聴環境における音圧の帯域バランスを整えるためのアイテムで、その目的は再生する楽曲をより忠実に再生するためだ。対してGracenote Dynamic EQは楽曲再生の忠実度ではなく、楽しく聴かせるように帯域バランスをアレンジする。
そのため、熱心なオーディオファンは眉間に皺を寄せそうな話だが、このGracenote Dynamic EQのアレンジが意外と悪くない。効果の印象は後述するが、このアレンジにおけるデータ処理をグレースノートではデータ駆動型EQと表現しており、かなり複雑な情報解析をおこなっている。シニアディレクターのスティーブ・マテウスさんが説明してくれた。
そのプロセスを簡単に紹介すると、以下のようになる。
○2億曲を、およそ8万のグループに分類。
○各グループの中でもっともよく聞かれている楽曲を指標として解析。
○解析データに基づき、EQの目標カーブを生成。
○同グループに含まれる曲の帯域バランスを目標カーブに沿わせるようにEQデータを生成。
○楽曲ごとに生成されたGracenote Dynamic EQを自動的にかけて再生。
同社の楽曲データの分類は、ジャンルやアーティスト名などといった項目だけに止まらず、テンポや曲調、年代など細部にまでわたっておこなわれている。メタデータベースのを活用したもののひとつが、リコメンド機能(お気に入りの曲に似た曲をお勧めとして紹介する機能)といった先進的な使える機能がすでに市場に浸透している。この独自の解析技術により、上記のプロセスの自動化を実現したという。解説してくれたマテウス氏は音楽製作分野で仕事をしてきた人物で、ひときわ音楽への愛情が深い。マテウス氏、曰く「データに基づくイコライジングだけれど、機械的に処理したようには聴こえませんよね? Gracenote Dynamic EQを使って多くの曲を聴くことで、音楽好きな方なら必ず『!』となる瞬間に出会えるはずです。邪道と言う音楽ファンの方もいらっしゃると思いますが、ぜひ聴いていただきたいです」とのこと。
グレースノートでは、この技術をカーオーディオで提案。運転中に再生している楽曲を「もう少し聴こえ方を変えたい」といった時に、細かなイコライザー調整(あるいはトーンコントロール調整)をせずに自動的にアレンジすることで、安全に新しい音楽の楽しみ方を実践できるとしている。CES2016の会場では、いままで体験したことのないカーオーディオの活用方として注目を浴びたとのこと。同社でカーオーディオ市場への事業展開を担当する鬼沢和広氏は「これまでにない聴き方のご提案ですので、お話だけではなかなか理解しにくいかもしれません。でもこの楽しさは、聴いていただければすぐにおわかりいただけることでしょう。今後、多くの方に聴いていただける機会がもてたらと思います」と語り、この技術への自信をうかがわせる。
現在、最終リリース版に向けて細部の仕様を調整中ということだが、その効果を聴かせてもらうことができた。誤解を恐れずに言えば、オリジナル楽曲をカバーした演奏のように聴くことができる。またEQ効果の強弱が調整できるような仕様にも対応できるとのことで、少しアレンジした聴き方や、大幅にアレンジした聴き方まで楽しみ方は無限に拡がりそうだ。
新たな楽しみ方を掲げて、リスニングスタイルのブレークスルーを狙うグレースノート。Gracenote Dynamic EQが今後、どのような形でクルマに実装されていくのか、期待したい。
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