HOME > 連載 > 麻倉怜士のまるごと好奇心 > 67回 マランツの最新SACD/CDプレーヤー「SA-10」の凄い中身とは?(後編)
2016年11月15日/麻倉怜士
満を持して登場したマランツSACD/CDプレーヤーの新フラッグシップモデル「SA-10」。前編では同社サウンドマネージャーの尾形好宣さんと、シニアサウンドマネージャーの澤田龍一さんにその概要および開発エピソードを詳しくうかがったが、後編となる今回はそのパフォーマンス編。麻倉さんが持参のSACD/CDを聴き、先代の実質的フラッグシップモデルであるSA-11S3との比較を交えながら、SA-10の音楽再生機としての魅力を語り尽くす。(編集部)
麻倉 SA-11S3とSA-10を、クラシックやポップスのディスクで聴き比べてみました。結論から言ってしまうと、ものすごく違いますね。SA-11S3が劣っているというわけではなく、これはすでに平均的なSACD/CDプレーヤーの水準を大きく超えた音なのですが、並べて比較すると「そこに音楽がある」という実体感、確実な造形力という点においてSA-10が遥かに優れています。
尾形 ありがとうございます。
麻倉 まず、パーヴォ・ヤルヴィがNHK交響楽団を指揮したSACDハイブリッド『R.シュトラウス:交響詩チクルス2』から「ドン・キホーテ」を聴きました。これは2015年10月にサントリーホールで録音されたものですが、なかなか再生の難しいソフトです。
ソノリティで聴かせるか、直接音で聴かせるか、というポイントが機器によって変わることが多いのです。SA-11S3で聴くと前者、つまり雰囲気的なところは気持ちよく出るものの、リヒャルト・シュトラウスの楽曲において重要な色彩感や色気にやや曇りが感じられました。もう少し後者の要素や、音そのものの煌めきが欲しいなと思いながら聴いていたのですが、SA-10ではまさにそこがズバリ再現されていたのです。微細な部分まで気が行き届いています。
加えて空間がひじょうに豊かなことも美点ですね。分厚く濃厚なのに、とても透明度が高い。そしてその中で、楽器の輪郭や造形が明確に描かれている。クラリネットの木管楽器らしい発音のニュアンスなど、たいへん素晴らしい表現力です。
尾形 その辺りは特に意識して音を追い込みました。
麻倉 この曲の冒頭はクラリネットでゆっくり始まり、そこにフルートが加わるという流れですが、その合奏ぶりが本当に綺麗です。SA-11S3ではそこにヴェールを被ったようなくぐもりがわずかに感じられます。SA-10では、スコアとして当然異なる旋律を奏でている、その違いが明瞭に聴き分けられながらも同時に一体感もしっかり出ている。実体的な音の流れ、とでも言うべきこの楽曲のツボを的確に捉えているのですね。
尾形 それはとても嬉しいご指摘です。
麻倉 それから解像感。単に解像度が高いだけではなく、それが音楽的な表現にきっちりつながっているところがいいと思います。シュトラウスの曲はヴァイオリンの1弦(E線)で高音を奏でることがとても多いのですが、SA-11S3で聴くとその表現はややフラットです。しかしSA-10で聴くとフラット感は皆無で、N響らしからぬメリハリと艶の豊かさを感じさせてくれました。
澤田 N響らしくないところがよく出ていたと(笑)。
麻倉 そうですね。SA-11S3ではまだN響らしさが残っている(笑)。もちろんヤルヴィの指揮者としての能力がまずすごいのですが、解像感を音楽表現、音楽を聴く楽しさにつなげるSA-10の個性はまさに名指揮者だと思います。シュトラウスが要求するツヤっぽさや色気、音楽の抑揚感をとてもよく出していて、サウンドが前に迫ってくる。
もうひとつ音楽的なことを言うと、この「ドン・キホーテ」はハーモニーだけでなくユニゾンで聴かせるパートが多いんです。つまり、ひとつの音階を塊として聴かせるわけです。ハーモニーで雰囲気よく、気持ちよく聴かせるのはある意味で簡単です。
しかし、ユニゾンのようにひとつの音階で空気を振動させて、それを気持ちよく聴かせるというのは、実はとても難しい表現なんです。SA-10の解像感の高さ、清涼感と言い換えてもいい見晴らしのよさは、そういったところから寄与しています。
また「ばらの騎士」で言うと、この曲はものすごい重厚で華麗なトゥッティで始まります。SA-11S3はそれをまとまりよく聴かせてくれるのですが、やや淡白に感じる部分もある。SA-10では個々の楽器、チェロやコントラバス、ヴァイオリンが明確にそこにあるかのように描き分けられていて、なおかつそれらが同じひとつの空間で一体になっている。音楽の時間軸のドキュメンタリーとでも言うような、とてもワクワクさせられる再生が楽しめました。
澤田 ありがとうございます。そう感じていただけて光栄です。
麻倉 次は、サイモン・ラトルがベルリン・フィルを指揮した『ベートーヴェン:交響曲全集』(5CD+3BD)から聴いた「交響曲第2番」のCDです。この曲の再生にも大きな違いが感じられました。ベルリン・フィルのホームグラウンドであるフィルハーモニーで演奏する彼らの音には総じて透明感が際立っているのですが、ともするとそれが薄さにつながりかねない危うさも持っています。SA-10では音の最小単位となる粒子にいたるまで造形力が見事で、エッジまでをくっきりと明瞭に聴かせてくれます。
尾形 SA-11S3とSA-10ではエッジの表現が違うと?
麻倉 そうですね。冒頭の全合奏からしてベルリン・フィルの透明感がSA-10ではいい方向に表現されています。それと同時にベルリン・フィルは、音楽における感情表現がとても豊かです。実際にホールで観ても、またBDなどで観ても、ベルリン・フィルほど演奏者が身体を揺らしながら演奏するオーケストラはない(笑)。そういった演奏にかける気合い、抑揚感が、SA-10では如実に表れていました。
また、この録音では第1ヴァイオリンが左、第2ヴァイオリンが右で、異なる旋律を対向配置で聴く面白さがあるのですが、SA-10はその面白さも色濃く表現してくれました。第1楽章第2主題のコードがBmに転じる際のトーン変化のメリハリも見事です。
麻倉 続いて女性ヴォーカルも2曲ほど聴いてみました。クラシックでは音場表現の向上が特によく分かりましたが、ポップスを聴くと音像の屹立が明確に感じられます。まず、ジェニファー・ウォーンズの『Shot Through The Heart』からタイトル曲を聴くと、冒頭のピアノの切れ込み、弾力感が豊かになり、ヴォーカルも艶やかです。もともとの録音では若干声が細めに録られているのですが、フォーカスの明瞭さや力強さも加わり、とてもいいですね。SA-11S3に比べるとヴェールが2枚ほど剥がれた感じで、よりテイストが濃厚です。
もう1曲、ホリー・コール・トリオ『Don’t Smoke in Bed』のタイトル曲を聴いて一番違ったのは、低域の再現です。ベースの弾む様子がヴィヴィッドに描き出され、やはりここでも音像のフォーカス感が素晴らしかった。ただクリアーで前に出てくるのではなく、音像の身体性がリアルになることで、歌い手の感情まで聴き取れるようになりました。
尾形 ありがとうございます。
麻倉 CDってだいたいこれぐらいの音だよね、と思っていたレベルから2段階ほど上がるイメージです。ここまで情報が入っていたのかと。SACDにしてもCDにしても、聴く楽しみが確実に増します。何度も言いますが、SA-11S3も充分に素晴らしいプレーヤーです。
しかし今回のSA-10と比べると、やはりその差は明らか。まだここまで向上の余地が残っていたことに驚きを禁じ得ません。澤田さんや、さらにそれ以前から培われたマランツの音が、尾形さんの代に変わってもしっかり継承され、尾形さんらしいカラーも加わっている。そのことを実際の音から確かに感じることができました。
澤田 そう言っていただけると光栄です。私も引き続きオブザーバー的な立場でマランツに残りますが、新世代のマランツの音を心から楽しんでいただきたいと思います。ありがとうございました。
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