HOME > 連載 > 麻倉怜士のまるごと好奇心 > 77回 高音質スイッチングアンプ採用のマランツ「PM-10」は、"アナログ"プリメインアンプの最上位モデルだ(前編)
2017年4月20日/麻倉怜士
昨年、マランツのSACD/CDプレーヤーのフラッグシップモデル「SA-10」は、本連載において第66回と67回で詳細なインプレッションをお伝えした。今回は「PM-10」は、SA-10とのコンビネーションを組む「10シリーズ」のプリメインアンプを全2回で研究しよう。前編となる今回はSA-10と同じく、マランツのサウンドマネージャー、尾形好宣さんが手がけたこのモデルについて、麻倉さんがマランツ試聴室にてご本人を直撃、開発の仔細とエピソードをうかがった。(編集部)
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マランツの新フラッグシップライン「10シリーズ」のプリメインアンプ
麻倉 このPM-10は、位置づけとしてはマランツのプリメインアンプの新たな最上位モデルですね?
尾形 はい。SACD/CDプレーヤーのSA-10と同じく、「マランツの今後の10年を支えるモデル」という思いから企画された「10シリーズ」です。現在、マランツのアンプのラインナップにセパレート型がありませんが、セパレート型の良いところを活かした一体型を作りたいと思いました。
麻倉 前のフラッグシップモデルにあたるPM-11S3は2012年の発売でしたから、約5年ぶりの刷新ですね。となると、少なくとも3~4年ほど前から今回のプロジェクトは動き出していたのですか?
尾形 そうですね。2013年あたりから「次はどうする?」という話は出ていました。タイミングとしてはSA-10と同じです。
麻倉 パワーアンプにハイペックス社製スイッチングアンプモジュールのNCore NC500を採用するなど、これまでにはない斬新な仕様になっていますから、かなり時間をかけて取り組まれたのですね。
尾形 このプロジェクトが始まった頃は、サウンドマネージャーは先代の澤田(龍一)だったのですが、当初は「無帰還アンプでいこう」という話もありました。しかしそれは言ってみればマイナーチェンジで、PM-11S3からS4に変わるレベルぐらいの変化でしかありません。
麻倉 「11」を「10」に変えるだけの大きなイノベーションにはならないと。
尾形 はい。同じやるならもっと革新的なことをやろう、と。「セパレート型の長所を持った一体型」を企画することになりました。具体的には「大出力」「フルバランス駆動」「プリ/パワー段それぞれに独立した電源」という3つがキーポイントとなります。これらを一体型の筐体に収めるためにまず問題となるのが、AB級アナログアンプに求められる電源の大きさや発熱です。
麻倉 これはもう大前提の物理的な問題ですね。
尾形 ええ。ですので今回は発想を変えて、以前から検討していたスイッチング増幅、つまりDクラスアンプの採用にチャレンジすることにしました。
麻倉 スイッチングアンプの採用は、マランツのオーディオアンプとしては初めてですか?
尾形 実は昨年のHD-AMP1は、同じハイペックス社製のスイッチングアンプモジュールをすでに採用しています。そこで良い手応えを得ることができたことが、今回の採用につながりました。
麻倉 世の中にはさまざまなスイッチングアンプがありますが、ハイペックス社製モジュールを採用したのはなぜですか?
尾形 アナログバランス入力に対応するなど、マランツの伝統的なテクノロジーとの相性が良いということがまず挙げられます。加えてハイペックスはフィリップスから独立したメーカーという成り立ちがあり、かつて20年ほどフィリップスのグループ内にいたことがあるマランツとも、もともと近い関係にあります。デバイスの供給という点でもメリットが大きかったんです。
麻倉 プリ段は当然アナログで、パワーの最終増幅段のみがスイッチング回路になっているわけですが、他社の素子もいろいろと試されたのですか?
尾形 はい。スイッチングアンプには必ず最後にローパスフィルターが搭載されており、高域のノイズをカットしてスピーカーへ電流を送り出しますが、通常はローパスフィルターの手前でフィードバックをかけ、特性を良くします。しかしこのNCore NC500の特徴は、ローパスフィルターの後でフィードバックをかけるところにあります。
麻倉 その方が音質的なメリットが大きい?
尾形 ローパスフィルター手前でフィードバックをかける場合、スピーカーの負荷によって高域が暴れてしまうことがあります。その点、NC500はアナログアンプに似た特性を持ち、50kHzあたりまで周波数特性が大きく乱れることがありません。他社のスイッチングアンプでは20kHzあたりから乱れが出てくるケースが多いのですが、それはつまりスピーカーを替えると音が変わってしまうということを意味しています。そうした点を防げることも、ハイペックス社製を選んだ理由です。ちなみにこの技術は、同社が特許を取得しています。
麻倉 このメーカーはオランダが本社ですね。他のブランドでも採用例はあるのですか?
尾形 ハイエンドオーディオブランドとしてはジェフ・ロゥランドで採用されているようです。それからB&Wの最新のサブウーファー(現時点では日本未発売)にも採用されていますね。
麻倉 お話を聞いていると、このハイペックス社製NCore NC500はとても良い素子のようですが、なぜ採用例が少ないのでしょう。
尾形 実はこのスイッチングアンプ、そんなに使いやすいものではないんです(笑)。アナログ入力、しかもバランス伝送しか受け付けませんから、使う場合はすべての信号をバランスに変換してあげなくてはならない。ですからバランス入力を持たないアンプでは、とても扱いづらいんです。しかしマランツはそういった分野の技術を得意としていますから、問題ないです。PM-11S3と大きさはほぼ変わりませんが、このスイッチングアンプを使うことで、重さは5kgほど軽くなっています。
麻倉 ここで3つのキーポイントに話が戻りますが、「大出力」については今回、4Ω負荷で400Wになっています。
麻倉 ご存知の通り、200Wでもスピーカーは充分に鳴らすことができます。しかし、細かい部分や鳴り方の余裕といったところに違いが出てくる。今回はハイエンドモデルですから、そういったところに余裕を持たせたかったんです。3つのキーポイントの残り2つ、「フルバランス駆動」と「プリ/パワー段それぞれに独立した電源」も、そのために必要な条件と言うことができます。
麻倉 音の追い込みに関しての試行錯誤は?
尾形 実は内部レイアウトを現在の最終的な形に整えた時に、開発段階の音とガラッと変わってしまったんです。質感は良くなったのですが、力強さが薄れてしまった。その力強さを取り戻すために、けっこう苦労しました。
麻倉 具体的にはどんなことをやられたのですか?
尾形 シャーシへの取り付けを頑丈にすることや、各パーツに使っているビスの太さの検証など、エンジニアが意図せず変えてしまった部分から見直していきました。
麻倉 それだけ小さな変更にも敏感に反応するようになったということですね。音づくりとしては従来のマランツサウンドを継承しながら、大出力ならではの良さを活かす方向で?
尾形 そうですね。SA-10との組合せで、われわれがリファレンスとして使っているB&Wの800D3をいかにうまく鳴らすかを第一に考えました。
麻倉 スイッチングアンプを採用してはいますが、アンプとしてはほぼアナログですね。
尾形 おっしゃる通りです。入力もアナログしかありませんし、DACチップなどを搭載しているわけではありませんから、事実上、アナログアンプと言っていいと思います。
麻倉 わかりました。次回はPM-11S3との比較を交えながら、PM-10の音をじっくり聴かせていただきます。それでは引き続き、よろしくお願いします。
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