2013年5月20日/金子裕子
突然の歌手転向宣言やドキュメンタリー映画『容疑者、ホアキン・フェニックス』の<やらせ疑惑>などの奇行でスキャンダラスな存在だったホアキン・フェニックスが、5年ぶりにまともな(?)作品に主演した『ザ・マスター』で、2012年のアカデミー賞候補になった。しかし、授賞式に出席したホアキンは、やっぱり暗めで危うい雰囲気を身にまとっていた。
初めて彼がオスカー候補になった『グラディエーター』(2000年)の取材でローマに行った時も、偶然、共演者ラッセル・クロウとホアキンが会食をしている場面に遭遇したのだが、ワインのボトルを次から次へと空にしている姿に驚かされた。酔っぱらってご機嫌なんだけど、どこかペシミスティックな佇まい。そして、そんな彼を見るたびに、やっぱり亡き兄のリバー・フェニックスのことを、思い出すのだ。
リバー・フェニックスは、生きていれば42歳。急性多重薬物中毒により、1993年10月31日に23歳の若で亡くなった。リバーがいまだ青春映画の傑作と世界中の人に愛される『スタンド・バイ・ミー』(86年)に抜擢されたのは15歳。<ジェームズ・ディーンの再来>と称されるほどに期待され、輝かしいスター街道を歩むはずだった。
リバーに初めて会ったのは、『スタンド・バイ・ミー』のプロモーションで両親と一緒に来日した1987年4月。いまや有名な話だが、両親は60年代後半にドロップアウトをして、いわゆるヒッピーのコミューンを転々としながら、時には未開の地で自給自足の暮しをしながら、子供たちを育ててきた。その影響から、リバーも筋金入りのベジタリアンで、肉はおろか乳製品も蜂蜜も口にしないし、皮革製品も身につけない。ベルトもブーツもビニール製品だ。そうそう、日本の女性スタッフが持っていたワニ皮らしきバッグを見て、「なんで、そんなモノを持っているの!」と一瞬凍り付いた姿が忘れられない。もっとも、そのバッグはビニールのフェイクだったが。
「強者が弱者の命を奪って食べるなんて、とても残酷なことだ。絶対に、止めるべきなんだよ」という言葉通り、おやつも母親が持参したドライフルーツやナッツを食べる16歳。正直、どこか歪なものを感じていた。もちろん、俳優としての資質は、端正で哀愁をおびたルックスといい、感性の豊かさといい、抜群ではあったのだが……。
2度目に会ったのは、それから4年後の91年6月。ガス・ヴァン・サント監督の『マイ・プライベート・アイダホ』(91年)を携えた彼は、妹のレーンも参加するバンド<アレカズ・アティック>のメンバーと、『愛と呼ばれるもの』(92年)での共演がきっかけで恋に落ちたサマンサ・マシスを同伴していた。20歳になったリバーは、ストリートチルドレンを演じたこの作品でアイドルからの脱皮を模索しインディペンデント映画志向をアピール。
「これまで以上に、ものすごくのめり込んだ。親友キアヌ(リーヴス)とも『恋のドッグファイト』(91年)に続いての共演だけど、ふたりで夜のストリートに立って観察したりして。とにかく凄く刺激しあっていい経験だった。これからも、こういう仕事をしていきたい」
朝の10時にスタートしたインタビューで、敬愛するガス・ヴァン・サント監督の仕事ぶりや、親友キアヌとの共演を熱く語るリバー。まさに若きクセ者演技派の風情だ。しかし、その手にはブラッディ・マリーのグラスが握られている。思わず、「エーッ、朝からお酒?」と眉をひそめた私に向かって、「いいんだよ。トマトジュースとセロリは植物だから。ウォッカはちょっとだけしか入ってないし」と、お茶目に笑う。「いやいや、ちょっとだけでも、朝から飲むのはダメでしょ」と、なおも食い下がる私だったが、二杯目もお代わりしていたっけ。当時は決して書かなかったけれど、じつはこの時に「マリワナも植物だから、いいんだ」と、つぶやいてもいたのだ。
それから2年4ヵ月後、死のニュースが届いた。かなりのショックだったけれど、意外ではなかった。そう、最後に会ったリバーは、すごく純粋でひたむきな若者ではあったけれど、どこか歪でバランスを欠いていた。聞けば、当時の彼は外からの目と自分自身の内面のギャップが埋められず“自己崩壊”の道を辿っていたらしい。
人並み以上の才能を与えられながらも、それを生かしきれなかった早世のスター、リバー・フェニックス。弟ホアキン・フェニックスが、良くも悪くも同じ資質を持ちながら、なんとか生きながらえ、兄の跡を継ぐプレッシャーはいかばかりかと思うのは、うがちすぎかしらん?
映画ライター。美しい俳優や個性的なクリエイターに出会えるこの職業が天職と思い込みウン十年、ハリウッドに通い続ける。好きなジャンルは、出来の良いラブストーリーと青春映画。『SWEET』、『HANAKO』、『JILLE』、『CREA』『クロワッサンPremium』など女性誌を中心に、映画紹介やインタビュー記事を執筆中。