2018年2月11日/映画番長・堀切日出晴
決して、ひとりでは見ないでください
Release Dates (Theater): February 1, 1977 (ITALY)
Domestic Total Gross: ₤1,430,000,000 (Lira italiana)
※当時のレートで1億リラは約3000万円
1970年代。イタリアの社会情勢は悪化の一途をたどっていたが、イタリア映画界も巨匠たちの死去が相次いで大きな打撃を受け(74年/デ・シーカ/ジェルミ、75年/パゾリーニ、76年/ヴィスコンティ、77年/ロッセリーニ)、社会不安を象徴する時代であった。同時に多彩な才能が国際的舞台に躍り出た時代でもあり、オルミ、ヴェルトミューラー、カヴァーニ、ベルトリッチに加え、フェッリーリ、スコーラ、ゼッフィレッリ、そして本作の監督ダリオ・アルジェントといった面々である。アルジェントの作風がジャーロからオカルトへと変わる転換点となった作品であり、シッチェス国際恐怖映画祭でグランプリを受賞した『サスペリア2』に続いて演出を手掛けて驚異的なヒットを記録、いよいよ巨匠の仲間入りを果たすことになる(日本では『サスペリア』のヒット後に公開されたため、"パート2"の邦題となっている/関連性もまったくナシ)。
ドイツにあるバレエの名門校に入学するために、バレリーナ志望の娘スージーが遠くニューヨークからやって来た。この名門校は寄宿制度が建前だが、なんらかの秘密を知った寄宿学生が惨殺されるところから怪異な事件が連続し始める。次々と発生する殺人事件の犯人だけでなく、殺人そのものが起きる理由もまったく不明のまま、強引に寄宿生にされたスージーが怪異に悩まされながら真相を探っていく。このイタリアン・ホラー十八番の作劇、ハッタリ感が大変ヨロシ。イタリアの著名な映画評論家マリオ・ヴェルドーネによれば、本作は「グリム童話『白雪姫』の影響が濃い」とされるが、当のアルジェントによれば(60年代後半から70年代にグロテスクで、シュルリアリスティックなホラーを発表していた)プピ・アヴァティ監督作にもっとも影響を受けているという。『白雪姫』の影響に関してもアルジェントは肯定しており、脚本草案の舞台は少女たちが学ぶ学校であった(その後、草稿のアイデアは『フェノミナ』で実現させる)。
出演はジェシカ・ハーパー(『ファントム・オブ・パラダイス』『スターダスト・メモリー』)、アリダ・ヴァリ(『第三の男』『夏の嵐』)、ウド・キア(『悪魔のはらわた』『O嬢の物語』)。
HI-RES SCREENSHOT (1080pix × 608pix) - The included screenshots are sourced from a blu-ray disc
撮影は『さすらいの二人』『運命の逆転』のルチアーノ・トヴォリ。35mm/イーストマン・カラー撮影作品。セット撮影のいくつかのシークエンスは、オリジナル捺染式テクニカラー/3色分解ネガを使用(現像はボローニャのテクニカラー・ラボ)。35mmオリジナルネガからの4Kデジタルレストア(3色分解ネガは現存しない)。4Kデジタルレストア総監修は米ミシガンにあるシナプスフィルムス。修復プロジェクトは2013年に開始。オリジナルネガは汚れや損傷が激しく、ポーランド/ワルシャワの復元施設で約1年半のネガ修復を行い、11900フレームを4Kスキャニング。そののちロサンゼルスに場所を移し、デジタルレストア、撮影監督トヴォリが監修したカラーグレーディングが完了したのは2017年6月。およそ4年の歳月を修復・復元作業に費やしている。DIファイルは4K。但し、HDRエンハンスは施されておらずSDR/BT.709仕様となる(イタリア版UHD BLU-RAY『ゾンビ』と同様)。
間違いなくアルジェント・ジャンキーを驚かせ、歓喜させる、『サスペリア』パッケージ史上最高の出来栄え。アルジェントとトヴォリは、テクニカラーによる『白雪姫』の現像データを参照にしながら、同作の色彩デザインや配色演出を積極的に取り入れている。カラーグレーディング工程では当初の創作意図の再現に力点が置かれているが、その成果は本盤で十二分に満喫できよう。開幕から色彩光彩のインパクトが強烈で、赤、青、緑、黄色等の大胆な原色、鮮度の高い白、艶やかな漆黒、落ち着いた二次色の再現に瞠目する。暗色の再現や色彩の階調表現は「これがHDRなら」と惜しまれるところだが、透明でアンチームな光線と艶めかしい色彩の対位法によるダイナミックな光彩操演は本盤の最大の観どころとなっている。とりわけナイトシーン(室内外)の醸し出す感応性や幻想性、さらに異質な色彩とぶつけ合った大胆なカラーパレットはただごとではない。肌色は一貫してナチュラル。肌への色彩の映り込みも素敵だ。解像感もズバ抜けており、大顔絵からロングショット、風景や建造物、衣装や小道具やディテイルが鮮やかに再現されている。ローライトレベル・ショットの映像情報量、その再現も予想をはるかに上回る実力をみせる。フィルムグレインの安定感も美味。時おり表出するアナモフィック・レンズによる歪みやフレーム周囲のボケ感も、映画通には嬉しいプレゼントなのでは。
HI-RES SCREENSHOT (1080pix × 608pix) - The included screenshots are sourced from a blu-ray disc
サウンドデザイン/リレコーディング・ミキサーは、本作以降ドルビー音響コンサルトとして映画にかかわるようになるフェデリコ・サヴィーナ。劇場公開(限定劇場)はサーカム・サウンド上映。日本ビクターには1970年に開発した4チャンネル・ステレオ技術CD4(ディスクリート・4チャンネルレコードシステム・CD4)を使用した4ch立体音響であり、4チャンネル磁気録音トラック採用プリントが使用された(一般公開は光学式プリント)。
サウンド修復においては1年の歳月を費やし、オリジナル4トラック(L/C/R/S)磁気録音マスターからの5.1ch、及びモノーラル・リミックス化となっている。前者は音声平均転送レート2.8Mbps。総毛立つゴブリンのスコアがリスナーを包み込み、鮮明さとイントネーションでそれぞれの音符、楽器、高音域のノイズを伝えながら、巧みに拡張されたシネソニック・ステージを構築している。発声の明瞭度も良好で、攻撃的なショック音や神経症的なスコアの中で溺れることはない。最低音域は抑制されるものの、スコアや怪異アクションに重量と存在感を提供する低音は随所で楽しめる。サラウンドチャンネルはアンビエント効果に使用され、音場拡張による不気味なムードでリスナーを包み込む。トップスピーカーを設置されている方は、アップミックス再生による恐怖効果もお試しいただきたい。
FINAL THOUGHTS
本作はライティング、シネソニック、美術装飾を混交させて高度な様式化を試み、サスペンスと恐怖を生じさせた実験映画でもある。とりわけここにみる光彩色彩絵画には新たな発見がテンコ盛りだ。本盤は3-DISCバージョン(UHD BLU-RAY/BLU-RAY-R-B仕様/サントラCD)となるが、1-DISCバージョン(UHD BLU-RAY)も昨年12月に後発となっている。ちなみにサントラCDの完成度は、ランブリング・レコーズから発売中のDSDリマスタリング版『サスペリア』(96kHzハイレゾファイルあり)の方がはるかに高い。
前述のシナプスフィルムスでは、3月13日に4KリマスターBLU-RAYをリリース予定(本盤と同マスター/UHD BLU-RAYは予定されていない)。フルHD解像度でも蘇った怪奇美術画を十二分に堪能できよう。
HI-RES SCREENSHOT (1080pix × 608pix) - The included screenshots are sourced from a blu-ray disc
Title |
SUSPIRIA |
---|---|
Released |
Oct 11, 2017 / 3-disc, Dec 06, 2017 / 1-disc (from Videa Cde each) |
SRP |
€49.99 / 3-disc €21.24 / 1-disc |
Run Time |
1:39:28.462 (h:m:s.ms) |
Codec |
HEVC/H.265 (Resolution: 4K / SDR) |
Aspect Ratio |
2.35:1 |
Audio Formats |
English DTS-HD Master Audio 5.1 (48KHz/24bit), Italian DTS-HD Master Audio 5.1 (48KHz/24bit), English LPCM 2.0 (48KHz/24bit/mono), Italian LPCM 2.0 (48KHz/24bit/mono) |
Subtitles |
Italian, English, none |
Supplements |
Audio Commentary by critics Kim Newman and Alan Jones / An interview with Dario Argento and Claudio Simonetti / New Extra: The 4K Restoration Process / New Extra: Dario Argento Presents his Suspiria / New Extra: Dario Argento Introduction |
タイトル |
サスペリア |
---|---|
年 |
1977 |
監督 |
ダリオ・アルジェント |
製作 |
クラウディオ・アルジェント |
製作総指揮 |
サルヴァトーレ・アルジェント |
脚本 |
ダリオ・アルジェント, ダリア・ニコロディ |
撮影 |
ルチアーノ・トヴォリ |
音楽 |
ゴブリン, ダリオ・アルジェント |
出演 |
ジェシカ・ハーパー, アリダ・ヴァリ, ジョーン・ベネット, ステファニア・カッシーニ, ウド・キア, ミゲル・ボゼ, フラヴィオ・ブッチ |
解像感 |
★★★★★★★★★★10 |
---|---|
S/N感 |
★★★★★★★★★☆9 |
色調 |
★★★★★★★★★★10 |
階調 |
★★★★★★★★★☆9 |
解像感 |
★★★★★★★★☆☆8 |
---|---|
S/N感 |
★★★★★★★★☆☆8 |
サラウンド効果 |
★★★★★★★★☆☆8 |
低音の迫力 |
★★★★★☆☆☆☆☆5 |
Film |
★★★★★★★★★☆9 |
---|---|
Image |
★★★★★★★★★☆9 |
Sound |
★★★★★★★☆☆☆7 |
Extra |
★★★★★★☆☆☆☆6 |
Overall |
★★★★★★★★☆☆8 |
スティーブ・マックィーンとパッケージディスクへの情熱はハンパなく、これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。HiVi連載「www.ハイデフ.com」(「世界映画Hakken伝」から改題)は、前身の「今月の輸入盤」から数えて20年を越える、最も人気の高い連載のひとつとなっている。
上杉研究所 藤原伸夫氏設計・製作 6L6プッシュプル・インテグレーテッドアンプ
Sun Audio SVC-200 管球王国ヴァージョン (プリアンプ)
真空管と採用パーツの変更で音質と安定性の向上を図った限定高音質仕様
エレハモ製6550EHと優れた特性のトランスが活きたパワーアンプ