HOME > 連載 > 藤原陽祐のfrom inside > 第十四回:意外な所で真価を発揮した、ソニーのスーパービットマッピング
2013年3月17日/藤原陽祐
先日、「HiViグランプリ2012」の頂点<ゴールドアウォード>に輝いたシャープの4Kディスプレイ、LC-60HQ10(ICC PURIOS/アイ・シー・シー ピュリオス)の量産版(量産といっても手作りに近いようですが)を取材することができました。専用に開発した高解像度パネルを活かした傑出した表現力は、すでに試作機で確認済みでしたが、今回はいわば最終版、放送の画質、外部入力の画質、さらには画質調整の使いこなしと、いろいろとじっくりと検証することができました。
さすがと言うか、やっぱりと言うか、アイ・キューブド研究所の光クリエーション技術(一種のアップコンバート技術)、ICCは凄かった。このモデル、映像モードや入力信号によって、ICC処理と非ICC処理(通常の2K/4K変換)が切り替えられる仕組になっているのですが、見た目のフォーカス感といい、テクスチャーの描写力といい、その画質の違いに愕然としてしまいました。
私がICC画質にもっとも驚いたのは、アップコンバートによる癖っぽさをまったくと言っていいほど感じさせないこと。2K/4K変換ともなると、画素数にして4倍のアップコンバートとなるわけですから、どうしても映像の鮮度が目に見えて落ちて、もさっとした感じの描写になりがちなのですが、ICC処理で4K化した映像は、微小な信号を曖昧にすることなく、細部まで明確に描き出して、実に生き生きとしています。
ICC考案者はソニー在籍時代、DRC(デジタル・リアリティ・クリエーション。現在、ブラビアの高級機を中心に採用されているX-realityプロのベースとなったアップコンバート技術)の礎を築いた近藤哲二郎氏、ただ者ではありません。詳しくはHiVi4月号で特集していますので、ぜひそちらをご覧ください。
実は今回、HDMIによる外部入力の再現性について、ひとつ大きな発見がありました。デジタル放送、BD、DVDを問わず、我々が日常的に楽しんでいるデジタル映像は8ビット(2&sup8i=256)階調で収録されているわけですが、映像機器内において様々な信号処理を行なうと、どうしても端数が生じ、8ビットの帯域では収まりきれなくなってしまいます。
そこで画質を重要視する高級機の多くは、回路のバンド幅を14ビット、16ビットと拡げて、画像処理の過程で生じる情報の欠落を最小限に抑えるという対策をとっています。
各種信号処理がテレビ単体内で完結できる放送画質については問題ありませんが、BDプレーヤー/レコーダーといった外部の映像機器との連携となると、そう簡単ではありません。もっともやっかいなのが、HDMI接続時のビット長の制約です。現在のHDMI(Ver1.4)の4K伝送規格では、30p(24p)/4:4:4(Y:Cb:Cr)伝送が可能ですが(ICによっては4:2:2伝送となる)、この場合のバンド幅は8ビット。
夏前には、噂の4K放送(スカパーで行なう可能性大)で必要になる60p伝送(未確認ながら、規格としては4:4:4まで対応可能となる模様)が規格化される予定になっていますが、これもハンド幅は8ビットに制限されてしまいます。4K放送のグレードからして、業界内では12ビット、14ビット伝送を求める声が根強いのですが、現行のHDMIケーブル1本の接続では8ビット伝送が限界だということのようです。
「256階調が最大限に活かせればそう大きな問題ではない」(某メーカー技術者)という意見もありますが、ビット長の制限は階調性だけの問題に止まりません。濃淡の描きわけが大味になってしまうことで、微妙なディテイルがつぶれてしまったり、色の表現が単調になったり、本来その映像が持つ風合い、きめ細かな質感が犠牲になってしまいます。
そして最終的には映像全体の品位感がダメージを受け、総合的な表現力が大きく後退してしまうというわけです。最近、私の友人でもある東芝の技術者(HiViでもお馴染の住吉肇さん)が、「BDレコーダー/プレーヤー側での4Kアップコンバートはいいことがない」と公言しているのも、HDMIの8ビット伝送を危惧してのことです。
ただ私の中には「画質調整はできる限りソースに近いところで行ないたい」という気持ちも少なからずあります。川下で色々といじり倒すよりも、汚れの少ない(情報量が多い)川上で好ましい方向に微調整する方が、最終的に高品位の鮮度の高い映像表現につながることは、これまでの経験から明らかです。でもHDMI伝送で8ビットの制約を受けるとなると、そのアドバンテージが大幅に削られてしまうのも、悩ましいところです。
ここで話はLC-60HQ10視聴取材に戻ります。それはBDレコーダーからの4Kアップコンバート映像(外部入力)の画質を検証していたときのこと、あるレコーダーにつなぎ変えたとき替えたとき、柔らかなタッチの、いい雰囲気の映像が描き出されました。そのレコーダーはソニーのBDZ-EX3000。フォーカス感、きめ細かさではICCアップコンバートにかないませんが、力みのない自然な風合いの描写が心地よく、変に意図的に作った感じもありません。甘めといえば、甘めですが、人工臭を感じさせない自然な4K映像なのです。
この質感のよさは一体どこからくるものなのか。色々と考えていく中で、行き着いたのがスーパービットマッピング(SBM)という技術でした。これは人間の視覚感度の低い高周波帯域に量子化誤差を拡散させて(ノイズシェーピング)、ノイズ感を抑えながら、限られたビット数で豊かな階調表現を実現するというもの。オーディオの世界では広く実用化されているDレンジ拡張技術の映像版と言っていいていいでしょう。
8ビット伝送、10ビット伝送でも、16ビット(=65,536階調)相当の階調表現が可能で、もともとはEX3000の画像処理で作った16ビットの高階調映像の恩恵を、すべてのテレビ(大半の普及機は8ビットでの受け渡ししかできない)で享受できるようにと用意された技術と言われています。
高級ディスプレイ、プロジェクターを相手にした2K出力では、12ビット伝送が可能となるため、それほど大きく取り上げられることがありませんでした。ところが、意外にも4K伝送でにわかにクローズアップされ、大きな恩恵をもたらす可能性を秘めています。8ビット伝送でいかに画質を上げていくのか、4K時代の大きなテーマになりそうです。
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