2012年11月29日/Stereo Sound ONLINE 編集部
またしても関わることになった、通称100本(1000本?!)ノック企画。「DigiFi」VOL.7ではヘッドフォン71機種を、そして発売されたばかりの最新号VOL.8ではノイズキャンセリング機能を搭載したヘッドフォン&イヤフォンを32機種、さらに12月17日に発売される「HiVi」1月号ではヘッドフォンアンプを内蔵したUSB-DACを44台聴いた。これは「HiVi」の試聴後記でも綴ったことだが、聴くのも書くのも大変なことはわかっていたのに引き受けたのは、必ずや耳と脳を驚かせるモデルと出会えると信じていたからだ。また、ハードとソフトが共に進化するという、オーディオのありかたの移り変わりを目撃してみたいという好奇心があるからに他ならない。
とは言うものの、約2日間にわたって44機種ものヘッドフォンアンプを聴き、正当な評価をするためには、サウンドのクオリティと音楽的な面白さが両立した楽曲をリファレンスとしたいものである。そこで、いつものとおり、伊藤ゴローの「グラスハウス」やエスペランサ「ラジオ・ミュージック・ソサイエティ」をチョイスした。
そう、ゴローさんといえば、12月11日に青山・草月ホールで、このアルバムにも参加したマエストロ、ジャキス・モレレンバウムと、一夜限りのデュオライヴを敢行する(詳細は伊藤ゴローHP http://itogoro.jp/で)。「グラスハウス」の世界が生で体験できるまたとない機会だ。僕もこの日が来ることを心待ちにして、日々の辛苦に耐えている(?!)。
それらのファイルに加えて、e-onkyo musicから配信されたばかりの楽曲を早速購入し、試聴に使ってみた。同サイトは、国内初のワーナーミュージックのハイレゾリューション作品や、深町純の5.0chハイレゾサラウンドなどの配信を開始し、ここへ来て俄然勢いが増して来た。また、ユニバーサルミュージック作品のリリースも開始したことも大きなトピックスだ。マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダー、ローリング・ストーンズ、ビル・エヴァンス、ヒラリー・ハーンなど、僕の好みのアーティストが結構並んでいるところが嬉しい。
実は、こうしたハイレゾ配信サイトを眺めるたび、どうも自分の趣味と合わない(それは僕の趣向が偏っているからだが)ものばかりだった。だが、今回は違う。「聴きたいファイルがないからハイレゾはちょっと...」とお嘆きの貴兄にこそアクセスして欲しい。
それに山中千尋やハクエイ・キムといったこれまで何度もインタビューさせていただいている、今を生きるアーティストも含まれている。そんなわけで、早速、山中の「レミニセンス」とハクエイの「ブレイク・ジ・アイス」(共に192kHz/24bit WAV)を購入した。
さらに驚いたのはSaigenjiのニューアルバム「ONE VOICE,ONE GUITAR」(48kHz/24bit)が配信されたことだ。ブラジル音楽を独自に吸収し、咀嚼し、自身の詞と曲、演奏で表現するシンガーソングライターである。彼が登場する前にこうしたスタンスのアーティストはいなかったし、彼の後に続くミュージシャンもいない。それほど、オリジナリティに溢れる音楽活動を続けているのだ。そんな彼がアルバムデビュー10周年という節目に、ギターと歌だけで、ブラジル音楽やジャズのカヴァー、自作曲のリメイクなどに取り組んだ作品である。アナログテープでの一発録りによる、勢いと暖かみが両立したサウンドを体験できる。
実はSaigenjiとは彼のデビュー以前から何度もライブを観ているし、本人とも幾度となく話もしている。僕が主催していたイヴェントにも出演してもらったこともある。下北沢でばったり出会ったこともある(笑)。そんな比較的身近にいる人物の作品がハイレゾで配信されたとなれば、購入せずにはいられないだろう。
これらの新しく入手したファイルから、山中千尋とSaigenjiを「HiVi」での企画、USB-DAC付きヘッドフォンアンプの試聴に使用した。各製品の詳細なレポートはもちろん誌面をお読みいただきたい。ここではそれらの楽曲の聴きどころと、100本ノックを通して聴こえてきたこと、違いがわかったポイントなどを挙げておきたい。
山中千尋は2曲目の『ソウル・サーチン』を主に聴いた。ピアノの低域から高域までをダイナミックに使用したプレイが印象的で、その音色がいかにくっきりとした輪郭をキープしているかをチェックした。また、やや手数が多いドラムスがきびきびと躍動しているか、シンバルやスネア、タムがしっかりと鳴り、立体感があるかどうかも検証の対象となった。
Saigenjiは4曲目の『ハミングバードワルツ』を使用した。冒頭からと飛び出してくるスキャットの立ち上がりや、声の滑らかさ、ブレスのリアリティをチェック。とくに歌声のニュアンスやブレスの生々しさは、機器によって大きく差が出た。試聴に使ったのはシュアのインナーイヤーSE535。つまり、僕は知人に耳元で40回以上もささやかれていたことになる。Saigenjiの餌食と化したのである。