HOME > 連載 > ナベさんのマストバイ > ナベさんのマストバイ<23>ヤマハのサウンドバー「YAS-207」は買って損ナシ! DTS Virtual:Xの臨場感がケタ違い
2018年1月31日/渡部法之
テレビの前に棒状のスピーカーを置くだけで手軽にサラウンドシステムを構築できる「サウンドバー」はリビングシアターの強い味方だ。この分野を革新的な技術と充実したラインナップで黎明期から牽引しているメーカーがヤマハである。
ビーム状に音を放出して壁や天井に反射させてサラウンドを実現する、独自の「デジタル・サウンド・プロジェクター」技術を搭載した製品は、マルチチャンネルスピーカーを使用したサラウンド再生に迫るクォリティを実現。サウンドバーのステイタスを向上させると同時に、その普及にも大きな役割を果たしたといえる。
今回の取材機に選んだのは、そんなヤマハのサウンドバー「YAS-207」(想定市場価格¥40,000前後)だ。先ほどさんざんデジタル・サウンド・プロジェクターを持ち上げたが、本機は壁の反射を用いずにサラウンド再生をする「フロントサラウンドシステム」シリーズに属するモデル。
それはナゼか? 私の部屋は、試聴位置の左側がカーテンで右側がクローゼットのため、音を反射させる要素に乏しい。このような環境では、デジタル・サウンド・プロジェクターでは性能を充分に発揮できないのは明らか。その点で、フロントサラウンドシステムの方が安定したサラウンド再生ができるはずと考えたからである。
さらに、YAS-207は高さ方向の音場も再現するというバーチャルサラウンド技術「DTS Virtual:X」をサウンドバーとして世界で初めて搭載していると聞き、その実力を検証してみたいと思った。
「DTS Virtual:X」は、ドルビーアトモスと並ぶオブジェクトサラウンド技術「DTS:X」を彷彿させるネーミングだが、実はオブジェクトベースではなくチャンネルベースで処理を行なっている。
本機が対応する入力フォーマットは、最大5.1chまでのリニアPCM、ドルビーデジタル、DTS、AACで、DTS Virtual:Xは、これらの信号を元に高さ方向の成分を含んだバーチャルサラウンド音声を作り出す。トップスピーカーやイネーブルドスピーカーを設置する必要がないばかりか、サウンドバーに搭載するチップでも演算できるほどプログラムの処理が軽いというのも大きな特長だ。
DTS Virtual:Xについては詳細な処理方法などは公開されていないため、後ほど実際の音を聴きながら具体的な効果を紹介していこう。
YAS-207の製品構成は、寸法が幅930×高さ60×奥行108mmというやや長めのバースピーカーと、幅180×高さ437×奥行401mmと縦長かつスリムなサブウーファーがセットになっている。両機器間は2.4GHz帯によるワイヤレス接続を採用している。
接続端子はバースピーカーにまとめられており、HDMI入出力各1系統、デジタル音声入力(光)1系統、アナログ音声入力(3.5mmステレオミニ)1系統を備える。
HDMI入出力端子はいずれも著作権保護規格HDCP2.2に対応。4K/60pのHDR(ハイ・ダイナミックレンジ)映像信号のパススルーも可能なため、UHD Blu-rayプレーヤー→YAS-207→テレビといった接続をHDMIケーブル2本で実現できる。
Bluetoothレシーバー機能も備えており、スマートフォン/タブレット経由での音楽再生や、iOS/Android用アプリ「HOME THEATER CONTROLLER」によるコントロールにも対応する。
なお、本機はLAN端子やWi-Fi機能を装備していないため、ネットワークプレーヤー機能やストリーミング再生には非対応となっている。
サラウンドモードはDTS Virtual:Xの他に、アナウンサーや出演者の声が強調される「テレビ番組」、音像定位とサラウンド感のバランスが好ましい「映画」、長めの残響音が付加されライブやコンサート映像に最適な「音楽」、声にフォーカスしながら適度に広がりを感じさせる「スポーツ」、過度なサラウンド効果を抑えた「ゲーム」の5つのモードが用意されている。そして、サラウンド効果をかけずに2chでストレート再生するステレオモードも備える。これに、セリフなど人の声を聞き取りやすくする「クリアボイス」や、低音を増強して音に迫力をプラスする「バスエクステンション」機能を組み合わせられる。
本機は、ポンと置いただけでほぼセッティングが終わってしまう手軽さが魅力だが、最適な音を引き出すにはそこからの調整が欠かせない。今回は、私が視聴前に実施したセッティングを紹介しよう。
拙宅では視聴室兼リビングルームを視聴方向に対して横長に使用しているため、左右に広い空間がある反面、奥行がそれほど確保できない。おのずとリスニングポイントはフロントスピーカーとサブウーファーに近くなる。そこで、低音を膨らませないようにコントロールしつつ、いかにスピーカーの存在を消すかがセッティングのポイントだ。
そこでサブウーファーはウーファーユニットが外を向くよう、テレビに向かって右手に設置したところ、サウンド全体がクリアーになった。前面に配置されたバスレフポートを視聴位置に向けていると、低音成分が直接聴こえることでサブウーファーの存在が目立ってしまうので、視聴者に正対しないよう角度をずらしている。
スマートフォンをBluetooth接続し、iOS/Android用アプリ「HOME THEATER CONTROLLER」で本体を設定する。付属リモコンと本体のLEDインジケーターでも可能だが、パラメーターの見やすさと操作性は圧倒的にアプリの方が勝っている。
まずは、映画ソフトを数本再生しながら映画用の調整を行なった。「クリアボイス」をオンにすると効果音が派手になりセリフも聴き取りやすくなるものの、とくにDTS Virtual:Xでは高域が強調されすぎるので『オフ』とした。「バズエクステンション」も迫力が増すいっぽうで、余計な低音成分まで出力されウーファーの存在感が強くなるため『オフ』を選んだ。その代わりにサブウーファーの音量を『+2』に上げて低音に厚みを持たせている。
DTS Virtual:Xの音を聴くために用意したのは映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(ドルビーアトモス音声)のBlu-rayだ。本機はドルビーアトモスなどのオブジェクトオーディオやロスレス音声のデコーダーには非対応のため、この場合はコア部分のドルビーデジタル音声が再生される。
ソフトを再生した途端、予想を遥かに越えたサウンドに度肝を抜かれた。「バーチャルサラウンドに高さ方向の音がプラスされる」なんてものじゃない。全く別物だ。バーチャルサラウンドにありがちな「なんとなく音が広がって聴こえる」「後ろで音が鳴っているような気がする」といったレベルではなく、実際にサラウンドスピーカーやトップスピーカーを設置して聴いているかのようなクォリティなのである。また、高域が華やかになるとともに、音全体にエネルギー感が増している。
スーパーマン、バットマンにワンダーウーマンが加わり、メインヴィランのドゥームズデイと戦いを繰り広げるクライマックスのチャプター13では、バットウイングの旋回音が縦横無尽に移動する様が見事だ。もっとも印象的だったのは、スーパーマンが太陽エネルギーを浴びて復活する際の効果音が波紋のように広がって聴こえたこと。ドルビーアトモスの聴きどころでもあるこのシーンは、音響特性の良い部屋で完璧にセッティングを行なったサラウンドシステムでなければ、簡単にサラウンド感が損なわれてしまう。それを本機はしっかり描ききっていた。
サラウンドモードを「映画」に切り替えて同じシーンを確認してみたところ、立体的だった音場が平面に変わり、360度包み込んでいた音場空間が消えて「目の前にあるスピーカーから音が出ている」という印象が強くなった。正直言って一度DTS Virtual:Xを聴いてしまうと、もう他のサラウンドモードは味の薄いラーメンを食べているようで映画を観る気にはなれないほどだ。
また、バーチャルサラウンド技術最大の弱点である、スイートスポットからズレた位置での聴取でも、本機は極端に音のバランスを崩すことなく、映画の音響設計を忠実に再現してくれた。これなら家族や友人との複数人の利用でも大いに活躍してくれるだろう。
続いて音楽再生での効果を確認するため、音楽ライブBlu-ray『THE BIG 4 : LIVE FROM SOFIA BULGARIA』(DTS-HDマスターオーディオ5.1ch)からメタリカの「NOTHING ELSE MATTERS」をDTS Virtual:Xで再生した。サブウーファーの音量は先ほど調整した『+2』では大きすぎたため『0』に変更している。こういったパラメーターがサラウンドモードごとに記憶できればさらに便利になるだろう。
映画では圧倒的なサウンドを聴かせてくれたDTS Virtual:Xは、音楽再生ではやや印象が異なった。複数のソースを試聴したのだが、いずれも音像の位置や音量のバランスが不自然に感じられた。映画では迫力アップに効果的だった高域の強調も、音楽とは相性がいまひとつのようで「サ行」が耳に刺さる感じがする。DTS Virtual:Xは映画用と割り切るのが良さそうだ。
そこで「サラウンドモード」を『音楽』に変えて聴いてみた。このモードでは『映画』モードと異なり長めの残響が付加される。これが『THE BIG 4 : LIVE FROM SOFIA BULGARIA』の広い会場にうまくハマり、臨場感を高めてくれた。
最後にスマートフォンをプレーヤーにしてBluetooth経由で絢香の「三日月」(Appleロスレス)を聴いてみたところ、2chストレート再生のステレオモードが一番自然なサウンドを聴かせてくれた。この曲の後半に収録されている重低音も迫力充分だ。欲を言えばサブウーファーのクロスオーバーをもう少し低く設定できれば、全体の統一感をもう少し上げられるだろう。
サラウンド再生では、『音楽』はスタジオ収録の楽曲には残響時間が長すぎる印象で、その他のモードも音の加工感が若干気になった。どうしても2chの音楽ソフトをサラウンドで聴きたい場合は、一番効果が控えめな『ゲーム』がお薦めだ。自然さを損なわず心地良い広がり感を演出してくれる。
今回の取材では、本機が繰り出すDTS Virtual:Xの音に一発でノックアウトされてしまった。その凄さは立体的なサラウンド再生ということにとどまらず、これまでのバーチャルサラウンドに感じていたエクスキューズをいっぺんに解決してしまうほど革新的なものだ。
<マストバイ度>
★★★★★
YAS-207は、今までのサウンドバーを過去の遺物にしてしまうほど別次元に進化した製品で、間違いなく「買い」のひと言。ロスレス音声に非対応ということで、★4つ……とも思ったのだが、DTS Virtual:Xの臨場感があまりにも素晴らしいので満点とした。今回の試聴でバーチャルサラウンド技術に抱いていたネガティブな印象が一気に覆された。「バーチャルサラウンドはなぁ……」と思っている方は、ぜひ本機の音を一度聴いてみてほしい。音を壁に反射させる必要もないため、設置条件が厳しくないのも嬉しいところだ。
そんなわけで、本機は「テレビ本体のスピーカーで充分」や、「わざわざサウンドバーを買い足すのはビミョー」と思っているユーザーに一度聴いてみてもらいたいモデルである。ポロポロと「耳からウロコが落ちる」に違いない。
これまで様々なAV機器に触れてきた経験のなかで、AVアンプの必要性をも脅かすほどのサウンドバーに出会ったのは本機が初めてだ。こりゃ認識を改めねば。
<SPECIFICATIONS>
ヤマハ YAS-207オープン価格(想定市場価格¥40,000前後)
●接続端子:HDMI入力1系統、デジタル音声入力1系統(光)、アナログ音声入力1系統(3.5mmステレオミニ)
●寸法/質量:W930×H60×D108mm/2.7kg(バースピーカー)、W180×H437×D401mm/7.9kg(サブウーファー)
筆者プロフィール
渡部 法之(わたなべ のりゆき)
家電量販店のクロモノ担当からオーディオ&ビジュアルの世界に足を踏み入れ、AV機器専門店の店舗スタッフとして10年以上在籍した。イベントの企画/運営や数多くのホームシアター導入相談に携わるなかで知識や経験を積み重ね、2000年以降のAV機器には誰よりも多く接していると自負している。
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