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【麻倉怜士の秋のヨーロッパ音楽紀行2011】 - 春・夏に続いて、麻倉怜士さんがヨーロッパから現地レポートを届けてくれる連載コラム。音楽紀行あり、オーディオ・ビジュアル関連の最新ニュースあり、と、麻倉さんならではの読み応え充分の内容でお届けします


【第9便】
 エレーヌ・グリモーのピアノ、M.ホーネック指揮ピッツバーグ交響楽団
 (2011/09/28公開)

 
 〈当日の演目〉
  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調
  チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調

 
 フランスのピアニスト、エレーヌ・グリモーは8月に予定されていたルツェルン音楽祭でのクラウディオ・アッバードとの協演を拒否。コンサート・キャンセルはかなり頻繁なので心配しましたが、見事に登場してくれました。そこにいるだけで幸せというアーティストは、ピアニストでは内田光子さんが最右翼ですが、グリモーさんも、私にとっては登場してくれで、ほんとうによかったという人です。
 

▲ 1階席
 

▲ 舞台の正面では凸型の桟が音響効果を高める
 

▲ 舞台下では音響効果のため、凸型と平面の桟が交互に貼られている
 
 ベートーヴェン・ピアノ協奏曲第4番はロマン派への橋渡しをした曲。第1楽章冒頭のピアノが静かな中にも、豊かな感情を湛えています。グリモーの左手の低音部の剛性感と、右手の高域の燦めき感の対比が素晴らしい。第2楽章冒頭、ホーネックはオーケストラを強力にドライブし、強く主張し感情の高まりをアピールするのですが、グリモーはその挑発には直接は答えず、無視しているように淡淡と自分の世界に浸ります。音色がすごくきれい(楽譜1)。
 

▲ 楽譜1
 第3楽章ではうって変わって、華麗な響き。右手の音階の速いパッセージの清冽さ。上行旋律と下がっているトリルの連続のブリリアントさ。オーケストラも伴奏に徹するのではなく、雄弁に語ります。協奏でなく競争です。昨日のアンナ・ゾフィー・ムターのメンデルスゾーンでは、静かに伴奏に徹していましたが、今日は積極的に攻めます。競演はスリリングでした(楽譜2)。
 
 エレーヌ・グリモーは音楽ばかりか、全身が美しい。あまり背は高くないのですが、ピアノに向かう存在感は抜群です。席が2列目の左だったので、きれいなお顔は拝見できず残念。しかし、指だけでなく全身で表情濃く弾くお姿は、実にセクシーでした。
 

▲ 楽譜2
 
 休憩の後は、チャイコフスキーの交響曲第5番ホ短調。もともとセンチメンタルさと、ベートーヴェンの運命にも似たホ短調→ホ長調の第1楽章から第4楽章に渡る勝利の凱歌が特徴づけられる交響曲。チャイコフスキーの後期三大交響曲の中では、もっとも聴き映えがする曲で、ホーネックはキビキビした手綱捌きで爽快に聴かせてくれました。とにかく溜めもつくらず速いのですが、最後のホ長調のトニック和音だげは、ジャジャジャジャーンと、一音符ずつマルカートして、劇的な最後を飾りました(楽譜3)。見せ所満載の演奏にお客さんは大喜び。全員総立ちでした。私は、こんなに派手派手で、メカニカルな演奏は苦手ですが。
 

▲ 楽譜3

▲ ピッツバーグ交響楽団
 

▲ チャイコフスキーの写真が掲載されたプログラム
 


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