映画番長の銀幕旅行
恋する惑星:クライテリオン・コレクション
CHUNGKING EXPRESS:THE CRITERION BLU-RAY COLLECTION
BD_USA
恋する惑星:クライテリオン・コレクション CHUNGKING EXPRESS:THE CRITERION BLU-RAY COLLECTION
COVER AND DISC ART
その時、ふたりの距離は0.1ミリ、57時間後、彼は彼女に恋をした。その時、ふたりの距離は0.1ミリ、6時間後、彼女は彼に恋をした。

【 THE MOVIE 】
 「欲望の翼」から4年間の沈黙を破り、ウォン・カーウァイがその名を世界に知らしめた「恋する惑星」は、重慶大厦(※1)を舞台にすれ違う2つの恋愛模様を描いた傑作だ。2つの恋の中継地点は一軒のテイクアウトの軽食スタンド。女に振られてばかりの刑事223(金城武)と麻薬ディーラーの女(ブリジット・リン)との不思議な出会いとふれあい。これが第1章。第2章は、スチュワーデスの恋人に振られて傷心の警官633(トニー・レオン)を好きに軽食スタンドの女の子(フェイ・ウォン)、そのちょっと危ない片思いの話。ストーリーテリングを強調せず、瞬間的なシーンをクローズアップする斬新な手法が花開く。

 静かな恋のハラハラドキドキをたっぷり詰め込んで、この4人をトンデモなく魅力的に活写する。映像の感覚がすこぶるよくて、これはまさに活字では描き出せない世界。映像の掴みどころが巧いため、ヴィスオーバーの手法、そのひとことひとことが生きてくる(※2)。これはアジアならではのちょっぴり乱雑な映画精神に溢れ、恋愛映画と娯楽映画の2つを掴んで観客を楽しませんとする映画本来の心掛けを魅せ切った御馳走映画。タランティーノが惚れ込んだのも、なるほど頷ける(※3)

(※1) チョンキン・マンション。じゅうけいたいか。1960年代に香港の九龍・尖沙咀地区の彌敦道に面して建設された複合ビル。香港に旅したら是非とも足を運んでほしい名所である。
重慶大厦への招待


(※2)ウォン・カーウァイ映画の楽しさのひとつでもあるが、この映画でも洒落たセンスのヴォイスオーバーが楽しめる。「失恋すると僕はジョギングする。体の水分を蒸発させ、涙が出ないようにするためだ。」「雑踏ですれ違う見知らぬ人々の中に将来の恋人がいるかも知れない」「タオルが泣くのを見てう嬉しかった。本質は前と同じ多感なタオルだ」などなど。ちなみに第1章の劇中語は広東語だが、ヴォイスオーバーとなると北京語になる。第2章はすべて広東語。

(※3)タランティーノが作った全米映画配給会社ローリング・サンダーの第1回配給作品。これで一躍カーウァイの名は全米に知れ渡ったが、その時の雑誌評が愉快。「クエンティン・タランティーノ?忘れちまえ、そんな名前!今はウォン・カーウァイの時代だ!」
恋する惑星:クライテリオン・コレクション CHUNGKING EXPRESS:THE CRITERION BLU-RAY COLLECTION
HI-RES CAPTURE
【 DISC-INFO 】
 世界随一の映画愛にあふれるクライテリオン。この26年間で、LD総数273作品、エクリプス・シリーズを含むDVD総数500作品超を輩出したが、どのタイトルも手がかかったクライテリオンの子供たち。異なる国々の映画を等価なものとして共存させるポリシーが、そのライナップを豊かで愛すべきものとしているのだ。その四角い枠にはまった世界を覗き込むと、時代と人間が見えてくる。

 そのクライテリオンが贈るBlu-Ray、記念すべきテイクオフ作品(12/16リリース/同時リリース「第三の男」「地球に落ちてきた男」「アンソニーのハッピー・モーテル」)。リージョンは全作A仕様。近年ではリージョン1仕様のDVDの割合が多いクライテリオンだったが、国内再生機種でHi-Def視聴が可能となったことをまずは喜びたい。パッケージは紙質の肌触りのカスタム・カードボード・スプリットケース(※4)。ケースをあけると左に冊子、右にディスクが小奇麗に配置される。再生ローディング中は画面左上にロゴマークの「C」が表示され、メニュー画面へと移行する。メニューは簡素化されており、「TIMELINE」を選択すると本編・解説共にブックマーク設定可能となる。
 
 クライテリオンBDの基本仕様は、50Gバイト/2層式。コーディックはAVC/MPEG-4/H.264。サウンドはロスレス音声、又はリニアPCM音声が必須となる。トランスファーはDVDと同様に各国で行われ、その後の修復・復元等の作業はニューヨーク本社で行われる。テクニカル・ディレクター、リー・クライン氏によれば、「我々にとってBDはまだまだ大きなマーケットではないが、より高品位なフィルムマスターが見つかればそれを新たに使ってトランスファーを行う」とのこと。こうして仕上がった「恋する惑星」は、個人的に生涯BDベスト10になると思う逸品だ。

■Disc Title:
・CHUNGKING EXPRESS
■Region code:
・R-A
■Studio:
・THE CRITERION COLLECTION
■Release date:
・16 December 2008
■Disc Size:
・35,377,471,281 bytes
■Feature Size:
・31,393,892,352 bytes
■Length:
・1:42:56 (h:m:s)
■Total Bitrate:
・40.66 Mbps
■Video:
・1.66:1 Aspect Ratio
・MPEG-4 AVC Video 34754 kbps(avg) 1080p/23.976 fps/16:9/High Profile 4.1
(※1)
■Audio:
・English DTS-HD MA 5.1 48 kHz/24-bit/3654 kbps(avg)
 (DTS Core: 5.1 48 kHz/24-bit/1509 kbps)
・English Dolby Digital 2.0 48 kHz/192 kbps

■Subtitles:
・English 31.038 kbps
■Extras:
・Audio commentary by noted Asian cinema critic Tony Rayns
・Episode excerpt from the British television series Moving Pictures featuring Wong and cinematographer Christopher Doyle
・U.S. theatrical trailer
・New and improved English subtitle translation
・PLUS: A booklet featuring a new essay by critic Amy Taubin and excerpts from a 1996 Sight and Sound interview with Wong by Rayns


(※4)最新BD「恐怖の報酬」「愛のコリーダ」からBDケースが変更。仕様は透明厚口のオリジナル・BDサイズケース。

(※5)
■Video(CHAPTERS/avg/max 1-sec rate):
・Chap.1: 25,372 kbps(avg) 38,702 kbps(max)
・Chap.2: 36,220 kbps(avg) 36,964 kbps(max)
・Chap.3: 35,519 kbps(avg) 38,207 kbps(max)
・Chap.4: 35,950 kbps(avg) 38,240 kbps(max)
・Chap.5: 35,972 kbps(avg) 40,836 kbps(max)
・Chap.6: 31,630 kbps(avg) 39,579 kbps(max)
・Chap.7: 35,267 kbps(avg) 37,184 kbps(max)
・Chap.8: 35,910 kbps(avg) 37,768 kbps(max)
・Chap.9: 35,767 kbps(avg) 37,136 kbps(max)
・Chap.10: 33,132 kbps(avg) 37,302 kbps(max)
・Chap.11: 32,467 kbps(avg) 36,812 kbps(max)
・Chap.12: 35,462 kbps(avg) 40,348 kbps(max)
・Chap.13: 32,757 kbps(avg) 37,860 kbps(max)
・Chap.14: 36,133 kbps(avg) 38,214 kbps(max)
・Chap.15: 34,793 kbps(avg) 38,776 kbps(max)
・Chap.16: 35,450 kbps(avg) 38,213 kbps(max)
・Chap.17: 36,015 kbps(avg) 37,500 kbps(max)
・Chap.18: 35,251 kbps(avg) 37,125 kbps(max)
・Chap.19: 35,349 kbps(avg) 37,530 kbps(max)
・Chap.20: 35,444 kbps(avg) 37,116 kbps(max)
・Chap.21: 34,383 kbps(avg) 37,123 kbps(max)
・Chap.22: 35,255 kbps(avg) 39,310 kbps(max)
・Chap.23: 35,027 kbps(avg) 37,335 kbps(max)
・Chap.24: 35,873 kbps(avg) 37,335 kbps(max)
・Chap.25: 35,873 kbps(avg) 37,474 kbps(max)
・Chap.26: 33,115 kbps(avg) 37,703 kbps(max)

恋する惑星:クライテリオン・コレクション CHUNGKING EXPRESS:THE CRITERION BLU-RAY COLLECTION
HI-RES CAPTURE
【 IMAGE-TRANSFER QUALITY 】
評点9.5-10
 クライテリオンはマスター素材に良質なオリジナルネガティヴ、インターポジティヴ等を使用する。それはより良質なレゾリューションを得られるからだ。本作は35mmオリジナルネガティヴに戻って、オリジナルの質感をたたえたローコントラスト・プリントを制作。その後のDIアーカイヴによる修復・復元作業にも抜かりはない。クライン氏によれば、トランスファーはDVD以上に注意を払う作業となり、高品位なフィルム・マスターの選択も時間がかかるようになったという。勿論、本盤でも多くの作品同様に、撮影監督クリストファー・ドイル(※6)がトランスファー監修として立ち会った。

 猥雑でありながら柔らかな質感を湛えた絶品絵画(※7)。シュートの弊害は皆無。こんな映像見たことがない。溢れ出るおびただしい光彩と色彩と、意外性に満ちたその挑戦と操演はさすがに観ごたえがある。自然光と温かみのある光彩を愛しつつ、アグフア(※8)ならではの柔らかい質感にこだわるクリストファー・ドイルのカメラ美術、そのHi-Def再現の美味なこと。感光したネガの味わい。薄汚れた触感ながら、どこか古風な黒が目に沁みる。何にも増して素晴らしいのは、フィルム・グレインの絶品舞踏会。グレインの再現・描写へのこだわりはただことではない。的確なフィルムのニュアンスの伝達がここにある。
 
 クライン氏は語る_クライテリオンBDは絶対的なグレインに支えられています。グレインは映画のコンテンツのひとつです。消去するつもりはありません。BDではDVD以上にグレインの見せ方が大きな課題になると思いますが、オリジナルを再現するための我々の挑戦はずっと続いていくのです。

(※6)代表作:欲望の翼(90)、恋する惑星(94)、天使の涙(95)、ブエノスアイレス(97)、サイコ(98)、花様年華(00)、裸足の1500マイル(02) 、HERO -英雄(02)、愛の落日(03)、2046(04)、美しい夜、残酷な朝(05)、 レディ・イン・ザ・ウォーター(06)、パリ、ジュテーム(06/兼監督・脚本)、パラノイドパーク (07)

(※7)撮影にはケン・ラーワイ(「インファナル・アフェア」シリーズのアンドリュー・ラウ!)がカメラオペレーターとして参加おり、その大半がハンドヘルドによるもの。照明もそれに追従する。許可なしのゲリラ撮影も随所に登場するが、そのすべてにドイルのフレーミングの的確さと光源コントロールの大胆さが見て取れる。クライテリオンBDは、高域情報優先のハイキーで尖鋭なHi-Def映像とは一線を画す。HiVi2009年4月号/視聴対談『BDは本当に高画質なのか/ハイビジョン時代の【映像品質】について考える』で、本盤を視聴したところ、吉田伊織氏、本田雅一氏も絶賛。本盤が魅せる映画のトーンの再現には、HiViゴールデン・アイズも舌を巻く。

(※8)アグフア・ゲバルト。AGFA-GEVAERT。 1867年に独化学薬品メーカー・アグフア社(1867年設立)とベルギーの印画紙メーカー・ゲバルト写真製造社(1894年設立)が、64年に事業統合して誕生。81年から99年までは世界的な化学薬品メーカー独バイエル社の子会社。世界で初めてカラーフイルムを作ったメーカーであり、かつては世界第3位の写真用フィルム・メーカーとして知られる。『伝統的にアグフアはソフトで中間調が豊かという傾向があります。(中略)実はフィルムには、アグフアは赤、イーストマンは黄色、フジは緑が得意という伝統があるんです』(吉田伊織氏/HiVi2009年4月号より)

【 AUDIO-TRANSFER QUALITY 】
評点8.5-9
 視覚的イメージが語らないものを明らかにする、派手な音響設計とは無縁の甘美なサウンド。映画の独特な“旋律”を発見させる声(※9)。変幻自在の音楽の味わい。恋心に染まる男と女を、仔細な聴覚ロジックでみつめており、その1音1音が聴きごたえたっぷりだ。サラウンドは活気に溢れ、開幕早々ブリジット・リンが闊歩する雑踏シーンから全開となる。LFEは(落雷や航空機の効果音においても)最小限にとどめられるが、その使い方、サジ加減は的を外さない。

 語り草となったカリフォルニア・ドリーミング(「夢のカリフォルニア」)。毎日の単調な反復のリズムとシンクロし、この曲は恋心の化身となり、恋の応援歌となる。それゆえこの大音量のカリフォルニア・ドリーミングによって、フェイは恋するトニー・レオンと大接近で会話ができるし、やがてはレオン自身を変えてしまうのだ。カリフォルニア・ドリーミングだけに限らず、劇中の音楽の使い方のセンスに、ゴダールの映画を思い浮かべた方は、これは相当の映画通。

(※9)ヴォイスオーバーの台詞以外、劇中の台詞はほとんど同時録音で収録され、整音。アジア映画には珍しくサウンドトラックの保存が良かったため、BDにおけるサウンド修復作業も順調に終了したという。
by 映画番長・堀切日出晴
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タイトル
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Disc Specs
■Title
CHUNGKING EXPRESS
THE CRITERION BLU-RAY COLLECTION

■Released
16 December 2008

■SRP
$39.95

■Run Time
※左欄

■Technical Specs
※左欄

■Codec
※左欄

■Aspect Ratio
※左欄

■Audio Formats
※左欄

■Subtitles
※左欄

■Supplements
※左欄
Film Specs
恋する惑星
重慶森林

Year
1994年

監督
ウォン・カーウァイ

製作
ジェフ・ラウ

脚本
ウォン・カーウァイ

撮影
クリストファー・ドイル
ケン・ラーワイ

美術
ウィリアム・チャン

音楽
チャン・ファンカイ
ロエル・A・ガルシア

出演
トニー・レオン
フェイ・ウォン
ブリジット・リン
金城武
ヴァレリー・チョウ
Score


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