
ファーゴ
FARGO
FARGO
2009年8月09日
BLU-RAY COVER ART
人はおかしくて、悲しい。
【 THE MOVIE 】
96年オスカー主演女優賞、脚本賞受賞の他、数々の賞を獲得したジョエル(監督・脚本)&イーサン(製作・脚本)・コーエン兄弟による絶品映画「ファーゴ」。
『これは、本当にあった話である。1987 年にミネソタで起こった事件を、この映画では描いている。生存者の要望によって、当事者の名前は変えてある。死者への敬意から、それ以外は事件が起こった通りに伝えている。』
このタイトルで開幕するコーエン兄弟による第6作目は、実話に基づいた傑作スリラーである、とは真っ赤なウソ。幾つかの犯罪事例をリサーチしてはいるが、実はコーエン兄弟創作によるフィクション。と同時に、ミネソタ州ミネアポリス出身のコーエン兄弟の故郷を舞台にした映画でもあり(※1)、緻密で独創的なストーリーテリング、野蛮なまでのオリジナリティ、そして毒の利いたユーモアが冴えわたる。借金の返済に困り、自分の妻の偽装誘拐で大金をだまし取ろうとした、ミネアポリスの中古車販売店の営業部長。この男を物語の軸に置き、様々な登場人物が入り乱れ、やがては人間不在の不可解さという深刻なテーマを投げかける。
出演は、フランシス・マクドーマンド(近作「バーン・アフター・リーディング」)、スティーヴ・ブシェミ(近作「パリ、ジュテーム」)、ウィリアム・H・メイシー(近作「団魂ボーイズ」)、ピーター・ストーメア(近作「プリズン・ブレイク」)、ジョン・キャロル・リンチ(近作「グラン・トリノ」)、ハーヴ・プレスネル(近作「父親たちの星条旗」)。撮影は、いまやアメリカ映画を代表するシネマトグラファーであるロジャー・ディーキンス(近作「ノーカントリー」「告発のとき」「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」)。音楽はカーター・バーウェル(近作「トワイライト〜初恋〜」「バーン・アフター・リーディング」)。
■1996年アカデミー賞
★主演女優(フランシス・マクドーマンド)、脚本賞受賞
☆作品、監督、助演男優(ウィリアム・H・メイシー)、撮影、編集賞ノミネート
■1996年カンヌ国際映画祭
★監督賞受賞
☆パルム・ドール・ノミネート
(※1):ファーゴは実在する町の名前だが、実際にはミネソタではなくノースダコタに位置する。本作を通じて使われる言葉は、ミネソタ地域の方言だ。例えば、『Yes』を『Yaw』、『You Bet』を『You Betcha』、『〜Like』を『〜Here』といったように発話され、この声の響きがドラマに奇妙な滑稽さを加味することになる。ちなみにファーゴが登場するのは開幕間近の酒場でのシーンのみ。ほとんどのシーンはミネソタやブレーナードが舞台となる。
【 THE MOVIE 】
96年オスカー主演女優賞、脚本賞受賞の他、数々の賞を獲得したジョエル(監督・脚本)&イーサン(製作・脚本)・コーエン兄弟による絶品映画「ファーゴ」。
『これは、本当にあった話である。1987 年にミネソタで起こった事件を、この映画では描いている。生存者の要望によって、当事者の名前は変えてある。死者への敬意から、それ以外は事件が起こった通りに伝えている。』
このタイトルで開幕するコーエン兄弟による第6作目は、実話に基づいた傑作スリラーである、とは真っ赤なウソ。幾つかの犯罪事例をリサーチしてはいるが、実はコーエン兄弟創作によるフィクション。と同時に、ミネソタ州ミネアポリス出身のコーエン兄弟の故郷を舞台にした映画でもあり(※1)、緻密で独創的なストーリーテリング、野蛮なまでのオリジナリティ、そして毒の利いたユーモアが冴えわたる。借金の返済に困り、自分の妻の偽装誘拐で大金をだまし取ろうとした、ミネアポリスの中古車販売店の営業部長。この男を物語の軸に置き、様々な登場人物が入り乱れ、やがては人間不在の不可解さという深刻なテーマを投げかける。
出演は、フランシス・マクドーマンド(近作「バーン・アフター・リーディング」)、スティーヴ・ブシェミ(近作「パリ、ジュテーム」)、ウィリアム・H・メイシー(近作「団魂ボーイズ」)、ピーター・ストーメア(近作「プリズン・ブレイク」)、ジョン・キャロル・リンチ(近作「グラン・トリノ」)、ハーヴ・プレスネル(近作「父親たちの星条旗」)。撮影は、いまやアメリカ映画を代表するシネマトグラファーであるロジャー・ディーキンス(近作「ノーカントリー」「告発のとき」「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」)。音楽はカーター・バーウェル(近作「トワイライト〜初恋〜」「バーン・アフター・リーディング」)。
■1996年アカデミー賞
★主演女優(フランシス・マクドーマンド)、脚本賞受賞
☆作品、監督、助演男優(ウィリアム・H・メイシー)、撮影、編集賞ノミネート
■1996年カンヌ国際映画祭
★監督賞受賞
☆パルム・ドール・ノミネート
(※1):ファーゴは実在する町の名前だが、実際にはミネソタではなくノースダコタに位置する。本作を通じて使われる言葉は、ミネソタ地域の方言だ。例えば、『Yes』を『Yaw』、『You Bet』を『You Betcha』、『〜Like』を『〜Here』といったように発話され、この声の響きがドラマに奇妙な滑稽さを加味することになる。ちなみにファーゴが登場するのは開幕間近の酒場でのシーンのみ。ほとんどのシーンはミネソタやブレーナードが舞台となる。
BLU-RAY CAPTURE
【 HiVi-SHOWCASE 】
コーエン兄弟の作品と言えば、前述した物語の面白さ、味のある演技は勿論、秀逸なセンスが窺える撮影やサウンドの完成度も観どころ、聴きどころとなっている。今回はサウンド派映画の先鋒的存在であるコーエン作品の、音の聴きどころに的を絞ってみよう。サウンドデザイン/サウンド編集監修は、コーエン兄弟の劇場映画デビュー作である「ブラッド・シンプル」からの盟友であり(全名作品担当)、80~90年代のマーティン・スコセッシやスパイク・リー作品を支えたスキップ・リーヴセイ。リレコーディング・ミキサーは、そのリーヴセイとマイケル・バリー(近作「マンマ・ミア!」「愛を読むひと」)の共同作業。映画の編集はコーエン兄弟によるもので、映像とサウンドのシンクロ度にも隙がない。オスカー作品賞、監督賞ほかに輝いた「ノーカントリー」、そして新作「バーン・アフター・リーディング」においても、劇伴以外のサウンドトラックはまるで音楽を振りつけるように慎重に配置されているのがわかる。
人間的状況を表現する理想の世界とは無縁。しかも道徳的に曖昧で、安心とはほど遠い世界の構築がコーエン映画の特長のひとつである。ここでフランシス・マクドーマンド扮する妊娠中の警察署長マージ・ガンダーソンは、最終的に事件を解決するのだが、その終幕に満ちているものは人間という悲しい種族に対しての悲観的で悲惨な空気だ。映画の中の犯罪者たちはどこか滑稽であるが、いつしか魂を見失ってしまう宿命を背負わされている。
「ファーゴ」の(コーエン兄弟の映画の)もっとも注目すべき点は、癒えぬまま麻痺してしまった社会によって与えられた傷を、独特な聴覚ロジックで仔細に見つめていることだ。映画の映像はスクリーンという枠(フレーム)に囲い込まれているが、「ファーゴ」のサウンドに与えられたフレーミングは映像のそれより遥かに広く、映像や脚本で敢えて説明することを避けているものを聴かせようとする。
たとえば本作の中で、もっとも人間性を欠き、心の深淵が理解できぬキャラクターとして登場するのが、ピーター・ストーメア扮する誘拐犯のひとりゲア・グリムスラッドだ。このキャラクターを取り囲むサウンドは、とらえどころのない悪意ある凶暴さを一手に引き受けている。例えばチャプター4(8:31〜/以下US BD表示)。ゲアは、誘拐犯の仲間であるスティーヴ・ブシュミ扮するカール・ショウォルターと、車中でこんなやり取りをする。
『パンケーキ屋はないのか?』と言うゲアに対して、カールは『朝飯食ったろ。俺は酒とステーキがいいんだ。パンケーキなんか食えるか』と答える。その台詞に対してゲアは無言でカールを見る(Hi-Defキャプチャー?)。感情のない表情であり、台詞も書き込まれていないのだが、コーエン兄弟はここでサウンドを変調させるのだ。『パンケーキなんか』と演ったカールの切り返しのショットでゲアをとらえているのだが、このゲアの表情に変調させた車の走行音をかぶせる。低音域から高音域に変調させられた走行音が劇伴の役目を果たし、音楽以上の異様な緊張感を醸し出すわけだ。その緊張感に耐えられなくなって、カールは『勘弁しろよ!』と叫ぶのだが、カールは勿論、鑑賞する観客にじわりと沁み込んでくるのは、ゲアの人を威圧する異常さ、静かな凶暴性である。
これは続くチャプター8(14:22〜)でも同様であり、カールが発した癇に障る言動によって、車中のラジオの音楽が一度途切れ、また鳴り、すぐに消える。これは表向きには、放送の電波の状況を描くことによって別の町にやってきたことを示すものではあるが、これはコーエン兄弟ならではの聴覚ロジックによって2人の緊張を表現したものだ。そしてこれだけでは終わらないのが、コーエン兄弟の凄さである。ラジオの音が消えると、走行音が車中を満たす。カールの『(お前は)変った男だよ』という台詞をきっかけに、走行音が単調だが早いリズム音を刻み始める。ゴトン、ゴトン、ゴトン、ゴトン。カールはしつこくゲアに文句を言うのだが、ゲアのバストショットにカールの声の響きと打楽器のような走行音がかぶっていく。怖いね、この音の演出は(※2)。凶悪なゲアの殺意の昂りとして聴くと、もっと怖い。カールの命の結末とこの音の周波数は、音量の違いこそあれど全く同じ。いやはや、コーエン兄弟とサウンド・デパートメントの面々には、細密な楽譜があるのだろう。このあたりは、さすがに見事。
(※2):この走行音は、高速道路の継ぎ目の音。しかしアメリカのハイウェイはこれほど早く音を刻まない。ある意味で嘘の音作りなのだが、静かなサスペンスや物語の伏線を語っている。こうした意味で思い出されるのがクロサワの「天国と地獄」。こだま号を利用した身代金強奪の知的トリックは、設定や映像において語られることが多いが、実はサウンドも然りである。サウンド演出においても天才であったクロサワは、ここでこだま号の走行音を操演する。酒匂川までの走行区間は長い直線コースとなっており、(当時でも)レールの継ぎ目の間隔は長かった。これをリアリズムで演出、音を振りつけると締まりがない。そこでクロサワは(厳選された)通常の電車走行音を配置した。つまり、『ゴトン....ゴトン....ゴトン』が『ゴトンゴトン..ゴトンゴトン..ゴトンゴトン』となったわけだ。これにより、劇伴がなくともサスペンスが盛り上がる。
常日頃クロサワは、『大抵の映画は凄んだ伴奏やベタな音楽を入れてしまうから、駄目になってしまう。僕の音の入れ方は違う。大抵の人が入れているところに入れていない。ちゃんとした街の空間を作って、そこから流れてくる現実音として出なきゃだめなんだ』と語っていた。「天国と地獄」と身代金強奪シーンでは、ゴトンゴトンが緊張を高めるアンダースコアとなる。このシークエンスのおける楽器による音と言えば、権藤と誘拐され解放された進一が抱き合う時に流れるトランペット、その突き抜けるひと吹き。権藤の絶叫。『しんいちーっ!』、そしてパーッ!パッパー!あの長き緊張のシーンに続いての解放の叫び。それを、この音、一発で描いてみせたのだ。いやはや見事!
コーエン兄弟の作品と言えば、前述した物語の面白さ、味のある演技は勿論、秀逸なセンスが窺える撮影やサウンドの完成度も観どころ、聴きどころとなっている。今回はサウンド派映画の先鋒的存在であるコーエン作品の、音の聴きどころに的を絞ってみよう。サウンドデザイン/サウンド編集監修は、コーエン兄弟の劇場映画デビュー作である「ブラッド・シンプル」からの盟友であり(全名作品担当)、80~90年代のマーティン・スコセッシやスパイク・リー作品を支えたスキップ・リーヴセイ。リレコーディング・ミキサーは、そのリーヴセイとマイケル・バリー(近作「マンマ・ミア!」「愛を読むひと」)の共同作業。映画の編集はコーエン兄弟によるもので、映像とサウンドのシンクロ度にも隙がない。オスカー作品賞、監督賞ほかに輝いた「ノーカントリー」、そして新作「バーン・アフター・リーディング」においても、劇伴以外のサウンドトラックはまるで音楽を振りつけるように慎重に配置されているのがわかる。
人間的状況を表現する理想の世界とは無縁。しかも道徳的に曖昧で、安心とはほど遠い世界の構築がコーエン映画の特長のひとつである。ここでフランシス・マクドーマンド扮する妊娠中の警察署長マージ・ガンダーソンは、最終的に事件を解決するのだが、その終幕に満ちているものは人間という悲しい種族に対しての悲観的で悲惨な空気だ。映画の中の犯罪者たちはどこか滑稽であるが、いつしか魂を見失ってしまう宿命を背負わされている。
「ファーゴ」の(コーエン兄弟の映画の)もっとも注目すべき点は、癒えぬまま麻痺してしまった社会によって与えられた傷を、独特な聴覚ロジックで仔細に見つめていることだ。映画の映像はスクリーンという枠(フレーム)に囲い込まれているが、「ファーゴ」のサウンドに与えられたフレーミングは映像のそれより遥かに広く、映像や脚本で敢えて説明することを避けているものを聴かせようとする。
たとえば本作の中で、もっとも人間性を欠き、心の深淵が理解できぬキャラクターとして登場するのが、ピーター・ストーメア扮する誘拐犯のひとりゲア・グリムスラッドだ。このキャラクターを取り囲むサウンドは、とらえどころのない悪意ある凶暴さを一手に引き受けている。例えばチャプター4(8:31〜/以下US BD表示)。ゲアは、誘拐犯の仲間であるスティーヴ・ブシュミ扮するカール・ショウォルターと、車中でこんなやり取りをする。
『パンケーキ屋はないのか?』と言うゲアに対して、カールは『朝飯食ったろ。俺は酒とステーキがいいんだ。パンケーキなんか食えるか』と答える。その台詞に対してゲアは無言でカールを見る(Hi-Defキャプチャー?)。感情のない表情であり、台詞も書き込まれていないのだが、コーエン兄弟はここでサウンドを変調させるのだ。『パンケーキなんか』と演ったカールの切り返しのショットでゲアをとらえているのだが、このゲアの表情に変調させた車の走行音をかぶせる。低音域から高音域に変調させられた走行音が劇伴の役目を果たし、音楽以上の異様な緊張感を醸し出すわけだ。その緊張感に耐えられなくなって、カールは『勘弁しろよ!』と叫ぶのだが、カールは勿論、鑑賞する観客にじわりと沁み込んでくるのは、ゲアの人を威圧する異常さ、静かな凶暴性である。
これは続くチャプター8(14:22〜)でも同様であり、カールが発した癇に障る言動によって、車中のラジオの音楽が一度途切れ、また鳴り、すぐに消える。これは表向きには、放送の電波の状況を描くことによって別の町にやってきたことを示すものではあるが、これはコーエン兄弟ならではの聴覚ロジックによって2人の緊張を表現したものだ。そしてこれだけでは終わらないのが、コーエン兄弟の凄さである。ラジオの音が消えると、走行音が車中を満たす。カールの『(お前は)変った男だよ』という台詞をきっかけに、走行音が単調だが早いリズム音を刻み始める。ゴトン、ゴトン、ゴトン、ゴトン。カールはしつこくゲアに文句を言うのだが、ゲアのバストショットにカールの声の響きと打楽器のような走行音がかぶっていく。怖いね、この音の演出は(※2)。凶悪なゲアの殺意の昂りとして聴くと、もっと怖い。カールの命の結末とこの音の周波数は、音量の違いこそあれど全く同じ。いやはや、コーエン兄弟とサウンド・デパートメントの面々には、細密な楽譜があるのだろう。このあたりは、さすがに見事。
(※2):この走行音は、高速道路の継ぎ目の音。しかしアメリカのハイウェイはこれほど早く音を刻まない。ある意味で嘘の音作りなのだが、静かなサスペンスや物語の伏線を語っている。こうした意味で思い出されるのがクロサワの「天国と地獄」。こだま号を利用した身代金強奪の知的トリックは、設定や映像において語られることが多いが、実はサウンドも然りである。サウンド演出においても天才であったクロサワは、ここでこだま号の走行音を操演する。酒匂川までの走行区間は長い直線コースとなっており、(当時でも)レールの継ぎ目の間隔は長かった。これをリアリズムで演出、音を振りつけると締まりがない。そこでクロサワは(厳選された)通常の電車走行音を配置した。つまり、『ゴトン....ゴトン....ゴトン』が『ゴトンゴトン..ゴトンゴトン..ゴトンゴトン』となったわけだ。これにより、劇伴がなくともサスペンスが盛り上がる。
常日頃クロサワは、『大抵の映画は凄んだ伴奏やベタな音楽を入れてしまうから、駄目になってしまう。僕の音の入れ方は違う。大抵の人が入れているところに入れていない。ちゃんとした街の空間を作って、そこから流れてくる現実音として出なきゃだめなんだ』と語っていた。「天国と地獄」と身代金強奪シーンでは、ゴトンゴトンが緊張を高めるアンダースコアとなる。このシークエンスのおける楽器による音と言えば、権藤と誘拐され解放された進一が抱き合う時に流れるトランペット、その突き抜けるひと吹き。権藤の絶叫。『しんいちーっ!』、そしてパーッ!パッパー!あの長き緊張のシーンに続いての解放の叫び。それを、この音、一発で描いてみせたのだ。いやはや見事!
BLU-RAY CAPTURE
こうしたサウンドの操演は、ゲアだけでなく、相棒のカール、そして偽装誘拐を企てるジェリー、その父親のウェイド、女性署長のマージ、その夫ノームにおいても規則的なルールが定められている。映画の中では、ゲアとカール、ジェリーとウェイドのキャラクターが対照的に設定され描かれているが、このあたりの音の仕掛けにも注意して鑑賞して頂きたい。このペア同士ではかろうじて緊張の糸が保たれていたサウンドが、対象が入れ替わると音のバランスが微妙に変調を帯び、映画のテーマがぬるりとこぼれてくる仕組みとなっているのがわかるはずだ。
その最たる例が女性署長マージ・ガンダーソンである。彼女の周囲に散らばるサウンドは、凶悪なゲアと異なり、常に穏やかなテンポと周波数を維持している。大きなお腹を抱え慎重に1歩1歩進む妊婦としての動き。コーエン兄弟は、サウンドとマージの動きや感情には互いに同じ原則を持たせている。そして残酷にも、映画の終幕でこの原則を崩してみせるのだが、ここで観客は悪夢に飲み込まれていくことになる。
チャプター33(1:25:55〜)。マージはゲアの隠れ家を突き止める。それまでに彼女を取り巻く温かさを感じさせる周波数が僅かながら後退していたが、ここでマージは凶悪極まりないサウンドを耳にする。終幕についての描写ゆえ、未見の方のために詳細は語らぬが、ゲアによる残忍極まりない所業が発する音、マージの絶叫、そして効果音と絶叫に覆いかぶさっていくようなカーター・バーウェルの劇伴が、密度感イッパイに絡み合うこのクライマックスは聴き逃せない。「ファーゴ」は13年前の作品となるが、この音の妙味こそロスレス・サウンドフォーマットで聴いて頂きたい。近ごろ脅かしのトリック・サウンドよりどれだけホンモノか。
この音をきっちりと再生すること。たとえば異様なサウンドの昂りの中で、彼女の耳に届いていたはずの凶悪な音が、再生されるか否かは重要な問題であろう。なぜなら続くチャプター34(1:39:35〜)のシーンが内包するテーマの見え方、感じ方が大きく変わってくるからだ。
マージはゲアに語る(Hi-Defキャプチャー?)。『何のために?わずかなお金のため?...人生にはもっと価値があるのよ。』 ゲアがゆっくりと通過するポール・バニアンの像を見る(※3)。ここで雪道を走るパトカーの走行にともなった通過音が異様に変調する。マージはお構いなしに続ける。『バカなことを。こんないい日なのに』 もの悲しい劇伴がフェイドイン。『...理解できないわ。』
こうした緻密なサウンド操演の末に見えてくるもの。いつしか魂を見失ってしまう宿命を背負わされていたのは、実はマージだったとわかってくる。もはや彼女にはまともな出産、生活は望めない。なにかが変調してしまったのだ。ここが、怖い。そして、音の変調のあとゲアはマージを見つめるのだが、彼はこう考えたのだろう。『何のために人を殺した?それが俺にとっては価値があるんだよ。』 そしてゲアは、こう心の中で呟いたに違いない。
次は、お前の番だ。
(※3):劇中に幾度か象徴的に登場するポール・バニアンの像だが、ポール・バニアンはミネソタに伝わる民話『ポール・バニアンと青い牛ベイヴ』に登場する伝説の木こりである。民話の中でグランド・キャニオンやブラック・ヒルズを築き上げた。底知れぬ食欲のバニアンは、超巨大な鉄板で焼いたパンケーキが大好物。また相棒の青牛ベイヴが大きなバケツを引きずった跡にベミジ湖とアイタスカ湖が生まれたと伝えられる。ちなみに映画に登場した銅像は実在しない。この伝説は英雄物語であると同時に、ホラ吹き伝説でもある。しかし、このポール・バニアンの像(伝説)から見えてくるものに注視して頂きたい。英雄話とホラ話という対照的な物語。食欲に代表される貪欲さ。細かなところではパンケーキへのこだわり。そしてゲアたち誘拐犯が隠れ場所である湖。さらにクライマックスの凶悪な音を発していたもの、それは木材破砕機だ。『この映画は事実と称したホラ話なんだよ』というコーエン兄弟流の鋭いジョークとしてだけでなく、誘拐犯のゲアをバニアンの、出来損ないの子孫としてこの映画と向かい合ったとしたならなら、また違った映画の観方が広がるはずだ。クライマックスの音の変調も、違った怖さが溢れてくる。
【 DISC-INFO 】
■Disc Title:
・FARGO(US)
■Region code:
・R-A/B/C
■Studio:
・MGM/FOX Home Entertainment
■Release date:
・12 May 2009(US)
■Disc Size:
・34,572,480,663 bytes
■Feature Size:
・31,857,076,224 bytes
■Length:
・1:38:11 (h:m:s)
■Total Bitrate:
・43.26 Mbps
■Video:
・1.85:1 Aspect Ratio
・MPEG-4 AVC Video 30470 kbps(avg) 1080p/23.976 fps/16:9/High Profile 4.1
■Audio:(Unrated)
・DTS-HD Master Audio5.1 48 kHz / 3675 kbps / 24-bit (avg)
(DTS Core: 5.1 / 48 kHz / 1509 kbps)
・French, German, Italian, Japanese, Spanish DTS-5.1 / 48 kHz / 768 kbps / 24-bit
・French, Portuguese, Spanish Dolby Digital 5.1 / 48 kHz / 448 kbps
■Subtitles:
・English, Chinese, Croatian, Czech, Dutch, French, German, Greek, Hebrew, Hungarian, Italian, Japanese, Korean, Polish, Portuguese, Spanish, Thai, Turkish
■Extras:
・Commentary with Director of Photography Roger A. Deakins
・Minnesota Nice Documentary (1.33:1; 480i/60)_This MAKING OF featurette gives a detailed account of the development of the film and the Coen’s, native Minnesotans, connection to the area.
・Trivia Track_This in-movie pop-up trivia track will display factoids on everything from trivia about the MGM Lion logo to the history of the founding of Fargo, North Dakota. It seems to be all over the place and isn’t always completely relevant to the film itself, but a lot of the information is interesting, nevertheless.
・Photo Gallery_Production stills
・Theatrical Trailer (1.78:1; 1080p/24)
・TV Spot (1.33:1; 480i/60)
・American Cinematographer Article_This a reprinting of an American Cinematographer Article about the Coen brothers and cinematographer Roger A. Deakins, with some nice production stills interspersed
ちなみに国内盤は5/22リリース済み。特典は、■撮影の舞台裏:ミネソタ・ナイス■フォト・ギャラリー■オリジナル劇場予告編■TVスポット が収録される。
その最たる例が女性署長マージ・ガンダーソンである。彼女の周囲に散らばるサウンドは、凶悪なゲアと異なり、常に穏やかなテンポと周波数を維持している。大きなお腹を抱え慎重に1歩1歩進む妊婦としての動き。コーエン兄弟は、サウンドとマージの動きや感情には互いに同じ原則を持たせている。そして残酷にも、映画の終幕でこの原則を崩してみせるのだが、ここで観客は悪夢に飲み込まれていくことになる。
チャプター33(1:25:55〜)。マージはゲアの隠れ家を突き止める。それまでに彼女を取り巻く温かさを感じさせる周波数が僅かながら後退していたが、ここでマージは凶悪極まりないサウンドを耳にする。終幕についての描写ゆえ、未見の方のために詳細は語らぬが、ゲアによる残忍極まりない所業が発する音、マージの絶叫、そして効果音と絶叫に覆いかぶさっていくようなカーター・バーウェルの劇伴が、密度感イッパイに絡み合うこのクライマックスは聴き逃せない。「ファーゴ」は13年前の作品となるが、この音の妙味こそロスレス・サウンドフォーマットで聴いて頂きたい。近ごろ脅かしのトリック・サウンドよりどれだけホンモノか。
この音をきっちりと再生すること。たとえば異様なサウンドの昂りの中で、彼女の耳に届いていたはずの凶悪な音が、再生されるか否かは重要な問題であろう。なぜなら続くチャプター34(1:39:35〜)のシーンが内包するテーマの見え方、感じ方が大きく変わってくるからだ。
マージはゲアに語る(Hi-Defキャプチャー?)。『何のために?わずかなお金のため?...人生にはもっと価値があるのよ。』 ゲアがゆっくりと通過するポール・バニアンの像を見る(※3)。ここで雪道を走るパトカーの走行にともなった通過音が異様に変調する。マージはお構いなしに続ける。『バカなことを。こんないい日なのに』 もの悲しい劇伴がフェイドイン。『...理解できないわ。』
こうした緻密なサウンド操演の末に見えてくるもの。いつしか魂を見失ってしまう宿命を背負わされていたのは、実はマージだったとわかってくる。もはや彼女にはまともな出産、生活は望めない。なにかが変調してしまったのだ。ここが、怖い。そして、音の変調のあとゲアはマージを見つめるのだが、彼はこう考えたのだろう。『何のために人を殺した?それが俺にとっては価値があるんだよ。』 そしてゲアは、こう心の中で呟いたに違いない。
次は、お前の番だ。
(※3):劇中に幾度か象徴的に登場するポール・バニアンの像だが、ポール・バニアンはミネソタに伝わる民話『ポール・バニアンと青い牛ベイヴ』に登場する伝説の木こりである。民話の中でグランド・キャニオンやブラック・ヒルズを築き上げた。底知れぬ食欲のバニアンは、超巨大な鉄板で焼いたパンケーキが大好物。また相棒の青牛ベイヴが大きなバケツを引きずった跡にベミジ湖とアイタスカ湖が生まれたと伝えられる。ちなみに映画に登場した銅像は実在しない。この伝説は英雄物語であると同時に、ホラ吹き伝説でもある。しかし、このポール・バニアンの像(伝説)から見えてくるものに注視して頂きたい。英雄話とホラ話という対照的な物語。食欲に代表される貪欲さ。細かなところではパンケーキへのこだわり。そしてゲアたち誘拐犯が隠れ場所である湖。さらにクライマックスの凶悪な音を発していたもの、それは木材破砕機だ。『この映画は事実と称したホラ話なんだよ』というコーエン兄弟流の鋭いジョークとしてだけでなく、誘拐犯のゲアをバニアンの、出来損ないの子孫としてこの映画と向かい合ったとしたならなら、また違った映画の観方が広がるはずだ。クライマックスの音の変調も、違った怖さが溢れてくる。
【 DISC-INFO 】
■Disc Title:
・FARGO(US)
■Region code:
・R-A/B/C
■Studio:
・MGM/FOX Home Entertainment
■Release date:
・12 May 2009(US)
■Disc Size:
・34,572,480,663 bytes
■Feature Size:
・31,857,076,224 bytes
■Length:
・1:38:11 (h:m:s)
■Total Bitrate:
・43.26 Mbps
■Video:
・1.85:1 Aspect Ratio
・MPEG-4 AVC Video 30470 kbps(avg) 1080p/23.976 fps/16:9/High Profile 4.1
■Audio:(Unrated)
・DTS-HD Master Audio5.1 48 kHz / 3675 kbps / 24-bit (avg)
(DTS Core: 5.1 / 48 kHz / 1509 kbps)
・French, German, Italian, Japanese, Spanish DTS-5.1 / 48 kHz / 768 kbps / 24-bit
・French, Portuguese, Spanish Dolby Digital 5.1 / 48 kHz / 448 kbps
■Subtitles:
・English, Chinese, Croatian, Czech, Dutch, French, German, Greek, Hebrew, Hungarian, Italian, Japanese, Korean, Polish, Portuguese, Spanish, Thai, Turkish
■Extras:
・Commentary with Director of Photography Roger A. Deakins
・Minnesota Nice Documentary (1.33:1; 480i/60)_This MAKING OF featurette gives a detailed account of the development of the film and the Coen’s, native Minnesotans, connection to the area.
・Trivia Track_This in-movie pop-up trivia track will display factoids on everything from trivia about the MGM Lion logo to the history of the founding of Fargo, North Dakota. It seems to be all over the place and isn’t always completely relevant to the film itself, but a lot of the information is interesting, nevertheless.
・Photo Gallery_Production stills
・Theatrical Trailer (1.78:1; 1080p/24)
・TV Spot (1.33:1; 480i/60)
・American Cinematographer Article_This a reprinting of an American Cinematographer Article about the Coen brothers and cinematographer Roger A. Deakins, with some nice production stills interspersed
ちなみに国内盤は5/22リリース済み。特典は、■撮影の舞台裏:ミネソタ・ナイス■フォト・ギャラリー■オリジナル劇場予告編■TVスポット が収録される。
by 映画番長・堀切日出晴
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