本田雅一のオレ的アメリカリポート〜380インチの大画面で観るHDコンテンツ
これまでの視聴スタイルは通用しない。HDタイトルの詳細レビュー

前回のリポートに引き続き、パナソニックハリウッド研究所の話題。編集部ヤス氏のリポートにもあるように、PHLの品質評価用映写室(PHLにはクリスティの3板DLPデジタルシネマ映写機と380インチワイドスクリーンがある)で、松下電器DMP-BD10(BDプレーヤー)、東芝HD-XA1(HD DVDプレーヤー)を用いて様々な北米盤のHDパッケージディスクを再生させてもらったのだ。約半日ほどの間、自由に業務用映写機材を提供していただいたPHLに感謝したい。

HDパッケージは、DVDと見方を変える必要がある

 さて、ここでいろいろなタイトルの画質をチェックし、以前から朧気ながらに感じていたことが確信となった。それは画質を観る際の視点と、目の前に見えている現象の切り分けを、DVD時代よりも正確に行なわなければ、正確に読者へと各画質の違いを伝えられないということだ。DVDとHDパッケージは、その見方を変える必要がある。

 まず、マスターの善し悪しと、画像圧縮の善し悪しの切り分け。それに映像圧縮前のプリフィルターのかけ方によって、大きく画質が変化する。このあたりをよく見ないと、パッと見にはキレイに見えるものの、実は本来のディテイルが失われ、オリジナルのフィルムとは異なる色味や質感になっているタイトルなどを高画質と思いこんでしまう。

 たとえば初期のVC-1コーデックを用いたタイトルの多くは、おそらくマスターの質はかなり高いと思われる。しかし、大量のプリフィルターが通されており、ところどころに不自然さが見える。

 これはVC-1というコーデックが、アニメなどのクリーンな素材には大変に有効である反面、フィルムグレインのようにランダムな粒子の集まりがあると、極端に画質が低下するためだ。グレイン感を残したままシャープなHD映像をVC-1圧縮を行なうと、特にブロック歪みが激増する。

グレインの扱いは、各映画スタジオによって異なる

 VC-1を採用する映画スタジオのうち、ユニバーサルはグレインを「可能な限り」落とさないという方針。その理由は後述するが、フィルムグレインを落とさないが故に、エンコードには相当苦労している。ツールでのチューニングでは間に合わず、50人体制(!)の開発力を用い、映像に合わせてエンコーダー自身のソースコードを変更しているそうだ。このノウハウが蓄積したことで、たとえば「アポロ13」の頃と比べると、「キングコング」などではブロックの出現頻度が少なくなった印象がある。ただ、VC-1という規格そのもののに、根本的にブロックが出やすいという弱点は引き続き残っている。

 一方、同じHD DVDでもワーナーは各種フィルターを重ねてグレイン感を緩和した上でVC-1エンコードしている。こうすることでVC-1の効率が大きく向上し、ブロック歪みの出現頻度が大幅に減る。高周波のテクスチャー部でのモスキートによるざわつき低減にも大きく寄与しているようだ。

 しかしグレイン(と一言でいっても粒度の大きさや粒子のシャープさなど様々だが)だけを落とし、ディテイル感をそのままということは技術的に不可能。粒子を潰していくと、どうしても細かい情報が平均化され、ヌルリとした妙に現実感のない絵になりやすい。加えて全体に白っちゃけたメリハリのない映像になる。

 そこでグレインを落としたあとに輪郭のエンハンス処理を行ない、さらにコントラスト感を補強する処理が行なわれている場合が多い(この処理が行なわれていないものもあり、その場合はメリハリ感や解像感が落ちる。「スーパーマン・リターンズ」などが典型例)。さらに圧縮を邪魔しない程度のグレインノイズを、あとからそれらしく加算していると思われる例もある。だが、多くの処理を経る結果、原画とは全く違った質感の映像になってしまう。果たしてそれでフルHDの映像パッケージを作る意味があるのだろうか? と思うほどの作品もある。

MPEG-2やH.264も、映画スタジオの方針でフィルタリング処理が異なる

 ここではVC-1を例に挙げたが、同じコーデックを採用している場合でも、映画スタジオの方針によって、フィルタリング処理が大きく異なるのはMPEG-2やH.264の場合も同じだ。同じMPEG-2でもグレインを落としすぎていたり、逆にグレインをそのままにしてビット不足から階調のジャンプなど悲惨な結果になっているタイトルがある。

 たとえばライオンズゲートの「クラッシュ」のオープニング。グレイニーなフィルムの雰囲気をそのまま引きだそうとしているのだが、グレインがあまりにも多くビットが不足して階調が完全に不足してしまう。BDの1層ディスクでMPEG-2を採用しているためだ。今後、数ヶ月というレンジで見れば、1層でMPEG-2というタイトルは減っていくだろう。

 ではMPEG-2は全部ダメか? というと、そんなことはない。映画のカテゴリにも依存する部分があるからだ。20世紀フォックスは、ソース本来のシャープさやグレイン感を活かす方針のようだが、オーサリングのキャパシティの問題もあり、中には1層のMPEG-2で平均18Mbpsというソフトもある(フォックスはパッケージにエンコード形式と平均ビットレートをきちんと記載している)。

 BDソフトの「プラダを着た悪魔」は平均18MbpsのMPEG-2でオーサリングされた1層BDソフトだが、本編の大部分はグレインが少なめ。ニューヨークの街並みを空から撮したシーンなど、一部ではブロックやモスキートがかなり目立つものの、通常のショットでは白ベタの壁にブロックが見える以外は、さほどノイズを気にせずに本編に集中できる。動きが少なく、人物のアップが多いドラマ系の映画だからだ。もちろん、マスターのクォリティが高いことも印象を良くしている。

 ソフトの画質に関して、BD対HD DVDのように語られることも多いが、実際にはコーデックの種類、コーデックの善し悪し、フィルムグレインの質と量、マスターの仕上げ、ビットレート。これらの組み合わせが画質を大きく変える。

H.264の場合、エンコーダーによる画質差が激しい

 H.264の場合、さらにエンコーダーごとの質の差が激しく、原画をそのまま残す傾向が強いPHL製エンコーダーのようなものもあれば、あらかじめ不得手なグレインやノイズ成分を除去してからエンコードするものもある。グレインをどのように処理するかで、得手不得手が非常に大きい。

 たとえば、東芝製H.264エンコーダーで圧縮されたタイトルは、比較的グレインを落とすフィルターが多めにかかっているものが多い。それによって「ブラザーズ・グリム」のようにクリーンな印象を与えられることが多いものの、「戦場のピアニスト」のようにマスターにグレインが多いソースは、それにプリフィルターをかけるために画面全体がモヤモヤとしてしまうこともある。

 一方、PHL製H.264エンコーダーはグレインをほとんど再現してしまうため、グレイニーなフィルムを使った映画では、かえってノイズっぽく見える。しかしスッキリとノイズ感が少なく、見通しの良い映像は独特。たとえばスピードのマスターは解像感こそやや甘めだが、やや古めの映画が持つ質感を損なわず、なおかつクリア。

 今後はソニー、トムソン、ソニックなどが開発するH.264エンコーダーが続々と登場し、パッケージソフトの中で使われていくだろう。当然、それぞれに得手不得手、性能の善し悪しは違うとみられる。1社が提供するVC-1や、技術的に枯れているMPEG-2は、ほぼどのような振る舞いになるかが予測できるが、H.264に関してはひとくくりに「H.264だからこうだ」と決めつけてしまうのは危険だろう。


2007年1月17日
本田雅一

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