「あなたには見せたくない映画」第15回
たまにはアナログ回帰も。VHSが巻起こす騒動「僕らのミライへ逆回転」

今の若者は、「巻戻して……」というフレーズを知らないかも?

 原題の「BE KIND REWIND」は、“巻戻してご返却ください”という意味である。この作品の舞台となるのは、このご時勢にVHSしか置いていないレンタルビデオ店。ひょんなことから全身に強力な磁気を帯びた主人公(ジャック・ブラック)が、友人(モス・デフ)が働くビデオ店の、商品のテープの中身を全部消してしまう。そこへ「ゴーストバスターズを借りたい」というお客さんが。困った2人は、身の回りのものをかき集めて映画をリメイクし、急場をしのごうとするが……というストーリー。これだけ読むと、まったくわけがわからないだろう。

ミシェル・ゴンドリーの世界観は、今回も健在!

 ジャック・ブラックが磁気帯び人間になるきっかけも、リメイク映画の撮影の過程も「そんなアホな!」といった感じである。「それ、普通死ぬから!」とか、「撮影も編集も早すぎなんですけど?」とか、突っ込みどころが盛りだくさんだ。簡潔に言えば、強引で荒唐無稽。

 なんだけど、その有り得なさを楽しんでこそ、ミシェル・ゴンドリー映画というものだろう。監督・脚本を務めたゴンドリーは、ミュージックビデオ出身。「エターナル・サンシャイン」「恋愛睡眠のすすめ」などで知られ、おもちゃ箱のような独特の映像センスと、不思議なストーリー展開が特徴の人だ。今回の作品も、その持ち味が全開である。

 ちなみに彼は、「バットマン」の続編の監督を依頼されて断った、らしい。ゴンドリーがバットマン!? 続編ということは、「バットマン ビギンズ」の次、つまりは「ダークナイト」のことだろうか。となると、もし彼がオファーを受けていたら、クリストファー・ノーランは監督続投の危機だったのね。それにしたって、なぜゴンドリーなんだろう。作風から何から、ハリウッド大作とは対極にいる監督に思えるのだが。

キャスト・スタッフ一堂、楽しんでリメイクしています

 チープでその場しのぎのリメイク映画は大好評を博し、閑古鳥が鳴いていたビデオ店にはお客さんが溢れる。やがては街の人々を巻込んでの、大撮影大会となっていく様子が痛快だ。彼らがリメイクする映画は、実に40本以上。ジャックが2005年のリメイク版に出演した「キング・コング」がラインナップに入っていたり、「ゴーストバスターズ」のダナ役であるシガーニー・ウィーヴァーが登場したりと、思わずニヤリとさせられる仕掛けもある。

 リメイク製作の過程を、ゴンドリーをはじめとするスタッフや、演じるジャック・ブラックらが本当に楽しんでいるんだろうなぁ、と思わせてくれるのが何ともよいのだ。「お金をかけなくても楽しい映画は作れる!」というハリウッドへの皮肉とも、単純に自分たちが作りたくて作ったんだとも、どちらとも受け取れる。どちらにしろ間違いないのは、彼らが映画への愛情に溢れているということだろう。

 潰れかけた店を救い、街も活気づくかと思われたそのとき、思わぬ壁が立ちはだかる。ラスト近くのシーンでは、「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出す人も多いのではないだろうか。賛否両論あるようだが、温かいけれど甘くないこの終り方が、私は結構好きである。今週末から公開。

出演:ジャック・ブラック/モス・デフ/ダニー・グローヴァー/ミア・ファロー
監督・脚本・製作:ミシェル・ゴンドリー
製作:ジュリー・フォン / ジョルジュ・ベルマン
撮影:エレン・クラス
原題:BE KIND REWIND
2008年/101分/ドルビーSR/シネスコ/
配給:東北新社
10月11日(土)、シネマライズ、シャンテ シネ、新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C) Newline Productions / Junkyard Productions

●「僕らのミライへ逆回転」オフィシャルサイト
●第14回:豪華共演! N・ポートマン×S・ヨハンソンの配役の妙「ブーリン家の姉妹」
●第13回:カンヌで審査員賞を受賞。不協和音を奏でる家族の肖像「トウキョウソナタ」
●第12回:ひき逃げ事件の遺族と加害者の心理は……「帰らない日々」
●第11回:今年の夏休みは絶対山へ行くぞ! 「ジャージの二人」
●第10回:ある男の奇想天外な夢の行方は? 「庭から昇ったロケット雲」
●第9回:コメディタッチで16歳の妊娠を描く「JUNO/ジュノ」
●第8回:橋口亮輔監督が描く、ある夫婦をめぐる10年の物語「ぐるりのこと。」
●番外編:「JUNO/ジュノ」で妊娠する16歳を演じたエレン・ペイジは、普通の女の子
●第7回:幸せな老夫婦に迫る影は? 「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
●第6回:“ボブ・ディラン”のイメージを形にした万華鏡「アイム・ノット・ゼア」
●第5回:トニー・ギルロイ、初監督にして高評価! クライムサスペンス「フィクサー」
●第4回:ダニエル・デイ=ルイスの狂気が光る「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
●第3回:ポール・ハギスから突き付けられた課題は重い…… 衝撃の実話「告発のとき」
●番外編:サイコキラー、日本上陸! 「ノーカントリー」ハビエル・バルデム来日記者会見
●第2回:コーエン兄弟、アカデミー賞4部門受賞で一躍有名に? 「ノーカントリー」
●第1回:アカデミー賞4部門ノミネート! 「潜水服は蝶の夢を見る」


2008年10月7日
映画コラムニスト 鈴木晴子

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