「鉄男 THE BULLET MAN」、BDで登場!
塚本晋也監督、製作の裏側について語る

「鉄男 THE BULLET MAN」、塚本作品初のBDで登場!

 映画監督・塚本晋也。映画ファンで、その名前を知らない人はいないだろう。1989年、劇場長編デビュー作である「鉄男 TETSUO」がいきなり一大センセーションを巻き起こし、国内で驚異的なヒットを記録。さらには、ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリも獲得した。「鉄男」を境に、海外映画祭における日本映画の評価が変ったともいわれており、その影響力は今なお絶大だ。以後、「鉄男 II BODY HAMMER」「六月の蛇」「悪夢探偵」など、数々の作品を意欲的に発表。また、監督業のほか、俳優・製作・脚本・美術・撮影など様々なポジションをこなす、たいへん多才な人物でもある。

 11月4日、その塚本監督の2010年劇場公開作、“鉄男シリーズ”第3弾となる「鉄男 THE BULLET MAN」が、BD(ブルーレイ・ディスク)とDVDでリリースされる。全身が金属へと変化していく男の恐怖を描くこのシリーズは、熱狂的なファンを持つことでも有名だ。なお、塚本作品がBD化されるのは、本作が初めて。それだけでも嬉しいのだが、さらには、ストーリーボードなどの素材を活かして編集された特典映像“マルチ・マテリアル・バージョン”も収録。そんな新しい発想を取り入れた特典映像を含む超豪華版ディスク、その名も「鉄男 THE BULLET MAN 【パーフェクト・エディション】」の見どころや作品について、監督ご本人にお話を伺った。

1992年の「鉄男 II BODY HAMMER」から、これだけ時間が経過した理由とは?

――伝説となった「鉄男 TETSUO」から約20年が経ちましたが、なぜこのタイミングで続編を作ろうと思われたんですか?

「『鉄男 TETSUO』(1989)を20年前、『鉄男 II BODY HAMMER』(1992)を17年前に作ったんですが、ちょうど『II』の頃に、アメリカのとあるプロデューサーから“鉄男のアメリカ版を作らないか”という打診があったんですね。当時32歳ぐらいだったし、やっぱりそういうのって嬉しいんですよ。“やー、アメリカ映画になったらいいなぁ”って。やる気満々だったんですが、実際に話を進めてみると、なかなかスムーズにはいかないな、と」

――それはなぜですか?

「そのプロデューサーは脚本家でもあったので、脚本は全部自分で書きたがったんですね。でも、僕は“任せるなんてとんでもない、自分も混ぜてくれ”って言ったんです。自分はアメリカのことはよくわからないので、その人のアメリカの知識と、僕の“鉄男スピリット”を合体させたら、面白いものができあがるんじゃないかと思いました。ところが、提示してくる脚本のアイディアが、どれもこれも本当につまらなくてですね(笑)」

――そうなんですか(笑)。クエンティン・タランティーノ監督と一緒に「鉄男」を作る、というお話があったのも有名ですよね

「そうなんです。いろいろな会社が“やりたいやりたい”と言ってくれていたのですが、タランティーノ監督との話は、その中のひとつだったんですね。以前、ウィリアム・モリス・エージェンシー(現ウィリアム・モリス・エンデヴァー・エンターテイメント)というところから依頼をいただいたとき、僕はその会社のすごさも知らずに“考えさせてください”なんて言って、怒らせてしまったことがありまして(笑)。『鉄男アメリカ』製作のためのプレゼンテーションでアメリカへ行ったとき、“あのときは失礼しました”と謝りに行ったんです。そうしたら、アメリカにいる理由を聞かれたので“『鉄男アメリカ』を作る話をしに来ている”と答えたら、興味を持ってくれて。その会社はタランティーノのエージェントだったので、すぐに会う段取りを付けてくれました」

――それでは、その話は順調に進んでいたということですか?

「そうですね。打合せが始まる前から、“やろうやろう!”と盛り上がっていました。その件は、監督は僕でタランティーノがプロデューサー、脚本はタランティーノ一派のロジャー・エイヴァリーということで、この組合せだったら、今度こそ“鉄男スピリット”が実現できるかな、と思いました。タランティーノは“監督の権利は守る”とまで言ってくれていたし、僕は俳優の起用にも選択権があった。主演はティム・ロスなんていいな、などと考えていました。今振り返ってみても、“あのときやっておけばよかった”と思うこともあります。人生で後悔していることってほとんどないんですが、この件はちょっと失敗したかもしれないなと」

――条件的にはよさそうですが、なぜお断りしたんですか?

「いや、条件はかなりシビアだったんですよ。とくに製作費の面では。そのとき僕、“空飛ぶ鉄男”をやりたかったんですね。でも、“この予算じゃ絶対に空飛ばないわ”って。そして、タランティーノは弾丸のように喋るんですけど、僕は英語がわからない。そのペースに、何となく抵抗を感じてしまった、ということもあったんでしょうか。そんなこんなで、どこかでちょっと意気消沈したのかもしれません。いずれにせよ、自分の中で物語ができあがっていなかったのは大きいですね。『鉄男アメリカ』を作るにあたって、ただリメイクするだけではつまらない。『鉄男』『鉄男II』を経て、自分なりに成就した形のストーリーを見つけなければならなかったんですが、それがひじょうに難しかった。結局は、自分が納得するストーリーを見つけて本作を作り、ふと気がついたらこれだけ時間が経っていた、というだけなんですよね」

主人公アンソニーは、「ブレードランナー」から生れた!

――「鉄男 THE BULLET MAN」は、ほぼ全編が英語ですよね

「そうです。発端が『鉄男アメリカ』を作る、ということでしたから」

――英語の脚本は、どうやって書かれたのですか?

「僕が日本語で書いたものを、英語に翻訳してもらったんです。でも、僕が日本語で書いたセリフは少ないのに、英語になると妙に単語の数が多くて。“どうなのかな”と思ってはいたんですが、そのままセリフを収録して、一度はすべて完成しました。でも、結局納得できず、全部やり直したんです」

――えっ。完成したのに、またセリフを録り直したということですか?

「はい、主に日本人キャストの。僕が一番多かったですね。“日本人の設定なんだから、1人でいるときは日本語で喋るだろう”と考えて、セリフを日本語に変えたり」

――それは、一部日本語のシーンのことですよね。なぜあそこだけ英語じゃないんだろう、と思っていました

「そうです。もともとのセリフの英語が、すごくシンプルなんですよね。“おまえは、だめー”とか、“俺は、だめー”とか。それぐらいの英語力の人間が、1人でいるときも英語を喋るのはおかしいんじゃないか、と。そんな意見もあり、日本語に吹替えました」

――なぜそれほどまでして、“英語”や“アメリカ”にこだわったのでしょうか?

「僕は作品ごとに、はっきりとしたコンセプトというか、遊び道具がないとだめなんですね。そして、この映画の一番の遊び道具は“アメリカ映画”であるということだった。アメリカの映画を、アメリカで作ることができれば一番いいけど、それが無理なら“アメリカ風”の自主映画を作ればいいや、と。『鉄男』のときは劇場映画を作ったことがなかったので、“日本映画風の映画を作ろう”と取り組んだ。例えば、東宝の『電送人間』(1960)のようなイメージのものを、自分の思ったように作ってみようと考えたんです。そして今度の『鉄男 THE BULLET MAN』は、“アメリカ映画”のパロディ、もしくはオマージュですね。アメリカの映画は大好きなので、その感謝の気持ちを込めて、この作品を作ったともいえます」

――具体的に、オマージュを捧げた作品というのはありますか?

「設定は『ブレードランナー』(1982)へのオマージュです。今回の主人公のアンソニーは、『ブレードランナー』のデッカードとレイチェルの子供を想定しました。いろいろな説がありますが、あの2人が“人間とアンドロイドのコンビ”だと考えたとしても、観ているほうは“子供はできないだろうな”と思いますよね。でも、精巧なアンドロイドだったら、もしかすると出産も可能かもしれない。とすれば、生れた子供はどうなってしまうんだろう? と。そう思ったのが、発想のきっかけですね。『ブレードランナー』は1982年の映画だから、あのあたりに結婚して子供ができていたら、ちょうど計算も合う。僕としても、1作目から20年経ったという意味合いが出てくるわけです」

――『鉄男II』と『鉄男 THE BULLET MAN』は、設定が少し似てますよね。平凡なサラリーマンが家族と幸せに暮らしていたけど、息子が奪われてしまって……という

「確かにそうですね。それは『鉄男アメリカ』の際、『鉄男II』のことをイメージしていた、というところから始まっているんだと思います。その後、僕自身にも子供ができて、親の心境が実感を持って描けるようになった。前は子供が吹っ飛ばされるシーンを撮っていても“あー、子供がこういう目に遭ったら、親は怒るんだろうなぁ〜”と想像する程度でしたけど、もし今そんなことがあったら、0.6秒で必ず仕返ししますね。あ……『鉄男 THE BULLET MAN』のテーマは“仕返しをしない”ですけど(笑)。そんな背景もあって、この作品の冒頭で子供が殺される描写も、最初はちょっと手加減していたんです。でも、“それだと意味が伝わらない”という意見もあり、最終的には思いきり残酷なシーンに変えました」

“鉄男スピリット”を体現するために必要な条件

――監督は1人で何役もこなされますが、なぜそこまでなさるんですか?

「“おもろいから”ですよね。監督も撮影も出演も、どれもが面白いんです。最初は中学生のときに8mmフィルムで撮り始めたのですが、そのときはいろいろと兼任するのが当たり前でした。その後、20代も8mm、そのあとは16mm、さらに35mmと変って……今はデジタル。機材は変ったけれど、やっていることはまったく同じなんです。2本目の『ヒルコ 妖怪ハンター』のときは監督と脚本だけでしたが、それでも結構、自分が考えた通りのものができあがる。みなさん、一生懸命やってくださいますしね。でも、ほんの少〜しだけ思い描いたものにはならない部分も出てきて、それをなるべく潰そうとすると、やっぱり自分でやりたくなってしまうんです」

――以前、「HAZE ヘイズ」(2005)で月刊HiVi(2006年4月号)のインタビューにお答えいただいた際、“フィルムにこだわっている”というお話をされていましたが、なぜデジタルでの撮影に変えたのでしょうか?

「まず第一は、製作費が安いということ。そして、カメラが軽いことと、フットワークがいいこと。『鉄男シリーズ』の撮影は、カメラの軽さとフットワークのよさが絶対条件なんです。さらに、編集から仕上げに至るまでのプロセスが、デジタルはすごく便利だから。『HAZE』の頃ぐらいまでは“やっぱりフィルムじゃなきゃ”と思っていたんですが、その後だんだんデジタルのクォリティが上がってきて、今はそれほどフィルムとの差がなくなりました。まぁ、それでもまだフィルムには及んでいないような気はするので、映画の種類によっては、フィルム撮影が必要になりますよね。でも、『鉄男 THE BULLET MAN』はそのタイプの映画ではないので、デジタル撮影にしました」

――特典映像にソニーのカメラで撮影しているシーンが映っていますが、カメラはどうやって選んでいるんですか?

「デジタルの映像が、劇場上映用の35mmフィルムに変換された際、思ったような画調になるか。機動性はどうか、操作性はどうか。そういったことを、綿密なカメラテストを行ないながら決めます。絵は綺麗なのに、カメラを動かすと、ジャラジャラしたビデオっぽさが出てしまうものはだめ。フィルムカメラはズームすると、自分の手に“カチッカチッ”とぴったりシンクロするんですが、デジタルカメラだと少し遅れることがある。『鉄男シリーズ』は“ガン! ガン!”というスピード感が命だから、ほんのわずかな遅れで気持ちがずれてしまうので、それもだめ。そうやって入念にチェックして、最後に残ったのがあのカメラでした。ソニーにこだわっているわけではなく、今回の撮影に必要な条件を満たしたカメラが、たまたまソニーだったんですね」

“パーフェクト・エディション”は、エンディングも完璧!

――今回、塚本作品初のBD化になりますが、どういう経緯で実現したんですか?

「BDの時代だから、『鉄男』もいよいよ! ということですよね」

――“パーフェクト・エディション”という名称ですが、どこがパーフェクトなんでしょうか?

「劇場では公開できなかったものも含めて、2つのバージョンのエンディングが入っている、ということですね。劇場公開のときのエンドロールはナインチ(=ナイン・インチ・ネイルズ)の曲だったんですが、ディスクには(主に塚本作品で音楽を担当している)石川忠さんのバージョンも入っているんですよ。もともとはナインチにエンディング曲を依頼していたんですが、ずいぶん遅れていて。それなら、と石川さんの曲を付けたら、これがすごくいい。その後、ナインチの曲もできあがってきて、それを聴いてみたら、そっちもすごくいい。“これは……どっちにしようか”と本当に悩みに悩んで、最終的にナインチにしたんです。劇場で流すバージョンは1つしか選べないけれど、僕としては両方観てほしい。今回のDVDは2枚組ですが、“本編+ナインチ版エンディング”と“本編+石川版エンディング”の2枚にしてください、と言ったぐらい、重要なんです。“エンディングは切り替えられるから、そこまでしなくても”と、なだめられてしまいましたが(笑)」

――特典映像も拝見しましたが、画期的ですよね。本編の音に合せて、撮影風景やストーリーボードが流されるという。本編・特典とも72分というのも、とても面白かったです

「斬新でしょう? 普通のメイキングじゃ、面白くないですもんね」

――撮影の裏側をかなり赤裸々に映している印象ですが、“手の内をばらしてしまうみたいで嫌だなぁ”という感覚はなかったのでしょうか?

「それはあったし言った……いやいや(笑)。いえね、“あまりお金をかけずにできているのがばれちゃったら困る”と思ったんですが……」

――そこなんですか(笑)。一般の人が観ても面白いですが、特に映像関係の勉強をしている人にとっては、たまらない特典でしょうね

「そうですねー。“頑張れば自分にもできる”って思うんじゃないですか、あれを観れば(笑)。まぁ、安いとはいっても、日本映画の中では決して低い金額ではないのですが。特典映像は最初、“どんなものになるんだろう”と思いましたが、できあがったものを観たら“なるほど”と感心しました。本編の映像と撮影風景などが完全にシンクロしていて、かなり面白いものになったなと思います。この作品は、1ヶ月もかけられない予算のところを、7ヶ月かけて作ったので、当然大勢のスタッフが一気にガーッと集中するような作り方はできない。それではどうするかというと、限られた人数で、きっちりと作っていくことが必要になるんです。スタッフそれぞれが、ていねいに手間隙をかけているということが、受け手の方にも伝わる映像になったのではないでしょうか。特典映像が目当てでこのディスクを購入してくださる方も、きっといらっしゃるのではないかと思います。それぐらい、自信作に仕上がりました」


塚本監督、近々HiVi視聴室に登場!?
“世界のツカモト”と対面するだけに、どれだけ怖い方が現れるのかと、緊張しながら迎えたインタビュー。実際にお会いしてみると、謙虚かつ飄々とした語り口の、とても面白い方だった。そして、「ぜひHiVi視聴室で『鉄男 THE BULLET MAN』のBDを観たいなぁ」とのコメントも! しばらくしたら、HiVi WEBや月刊HiViの誌面で、監督の視聴レポートが読めるかも!? なお、月刊HiVi12月号(11月17日発売)にも、塚本監督のインタビューを掲載。WEBとはまた違った話が登場するので、こちらもお楽しみに!


塚本晋也(つかもと・しんや)
1960年、東京生れ。14歳で8mm映画を撮り始め、1988年、「電柱小僧の冒険」でPFFアワードのグランプリを獲得。翌年「鉄男 TETSUO」で長編映画デビューし、国内外で高い評価を受ける。監督のほか、俳優・製作・脚本・美術・撮影などを兼任することでも有名。代表作は「六月の蛇」「ヴィータール」「悪夢探偵」など。1997年にはヴェネチア国際映画祭の審査員を務めるなど、国際的にも活躍中の、日本を代表する映画監督


<Blu-ray>鉄男 THE BULLET MAN 【パーフェクト・エディション Blu-ray】
発売日:11月4日
品番:BBXJ-2005
価格:¥6,090
音声:英語 ドルビートゥルーHD 5.1ch/英語 ドルビートゥルーHD 5.1ch(アナザーエンドロールVer.)
字幕:日本語
片面2層/HDワイドスクリーン(1.66:1)
発売元:アスミック
販売元:ハピネット

<DVD>鉄男 THE BULLET MAN 【2枚組 パーフェクト・エディション】
発売日:11月4日
品番:BBBJ-8631
価格:¥4,935
音声:英語 ドルビーデジタル5.1ch/英語 ドルビーデジタル5.1ch(アナザーエンドロールVer.)
字幕:日本語字幕
片面1層/16:9 ビスタ スクイーズ収録
発売元:アスミック
販売元:ハピネット

<Blu-ray&DVD 映像特典>
■鉄男 THE BULLET MAN【マルチ・マテリアル・バージョン】(71分)
ストーリーボード、イメージボード、メイキング、シューティング・フォト……あらゆる「マテリアル」を駆使し、本編音声をそのまま活かして再構成。本編と同じ収録時間で編集した、まったく別ビジュアルのバージョン
■石川忠作曲・≪別エンディングテーマ≫バージョン
■予告編

<「鉄男 THE BULLET MAN」作品情報>
監督・脚本・美術・原作・撮影・出演・シニアプロデューサー:塚本晋也
出演:エリック・ボシック/桃生亜希子/中村優子/ステファン・サラザン
撮影:志田貴之、林啓史
脚本:黒木久勝
音楽:石川忠
シニア・プロデューサー:豊島雅郎
プロデューサー:川原伸一、谷島正之
制作プロダクション:海獣シアター
配給:アスミック・エース
2009年/日本/全篇英語/日本語字幕/71分/ビスタ/ドルビーデジタル
(C) TETSUO GROUP 2009


2010年11月2日
(取材・文 鈴木晴子)

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最終更新 11.12.20 15:43

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