
デジタル・サウンド・プロジェクターの新製品YSP-4100の発売に先駆けて、開発者 村田 守啓さんとオーディオビジュアル評論家 藤原陽祐さんの対談が実現した。今回は、発売前の製品がテーマになるため、これまでとは若干、趣きが異なる。ヤマハ(東京・港区)のスタジオにて、試作モデルの音を実際に聴きながら、インタビューが行なわれた。ちなみに、今回、撮影した試作モデルは、製品版と本体色が異なる。試作モデルはシルバーだが、製品版はブラックになるのでご注意を。
HDオーディオに対応。5ビーム+ファントム2chで、7.1chサラウンドを実現
村田守啓(以下、村田) 今回は、デジタル・サウンド・プロジエクターの新製品 YSP-4100について、実際に音を聴いていただきながら、お話ができればと思います。よろしくお願いします。
藤原陽祐(以下、藤原) よろしくお願いします。
村田 YSP-4100は、従来機YSP-4000の後継にあたります。最大の進化ポイントは、YSPではじめてHDオーディオに対応したことです。HDオーディオ対応を謳うからには、信号がデコードできるのはもちろんのこと、それだけでは面白くありません。なんとか7chで再生できないものかと考えました。結果として、YSP-4100では、従来の5ビームにファントム技術で創り出した2chを加え、7.1chサラウンドを実現しています。
藤原 7ビームにはできないのですか?
<YSPのビーム軌道>

↑【左図】YSPのリアル5.1chは、ひとつの音源から、部屋の反射を利用して、リスナーに5本のビームを届ける。【右図】ここからさらに2chを加えるには、自分の目の前で2回反射させて側面から音が聴こえるようなビーム(緑線)や天井の反射を利用したビーム(赤線)など、新しいビーム軌道を考えなければならない。緑線の場合、本来右から聴こえるはずの音がひとつ目の反射で左から聴こえてきてしまう危険性がある。赤線は、側面を使って天井へ、天井からリスナーへと反射させた図ではあるが、実現はきわめて困難です。


村田 YSPでは、ビーム化した音をリスナーの耳に届けるために、壁の反射を利用しています。7ビームにするためには、ひとつの音源から、壁で反射する7本の折れ線を描いて、リスニングポジションに到達させなければなりません。われわれは、理想的な条件として、YSPを直方体の部屋で使用すると想定していますが、そのなかで幾何学的に7本の道筋を描くことは困難です。図を描いてみるとわかりやすいのですが……(左下図)
それでは、実際にブルーレイ・ディスク「CHRIS BOTTI: LIVE IN BOSTON」を使って、7.1chサラウンドの効果を確かめてみましょう。
それでは、実際にブルーレイ・ディスク「CHRIS BOTTI: LIVE IN BOSTON」を使って、7.1chサラウンドの効果を確かめてみましょう。
>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー<
藤原 音の広がりは、なかなかですね。ここからさらに、ボディ感や粒だちが出てくれば、もっと迫力やリアリティが出てくると思います。
村田 最近ではテレビの薄型化が進み、音を出す機器も、そのトレンドに合わせる必要性が出てきました。YSP-4100は、薄型テレビとのマッチングを図るため、従来モデルより奥行きを5cm削っています。また、ウーファーの構造にも工夫を凝らしました。その結果、重量が5kgほど軽くなっています。こうした仕様変更に伴い、今ちょうど、開発陣が音質チューニングを施しているところです。今回は、チューニング前の音を聴いていただきましたが、次回お越しいただく時には、きちんと評価していただける音に仕上がっていると思います。
藤原 価格も下がるんですか?
村田 2万円ほど安くなりました。YSP-4100に合わせたラックも開発していまして、合わせて20万円を切るお値段でご提供させていただきます。また、今回はさらに、ユニボリュームと呼ばれる音量の自動調整機能が搭載されました。この機能は、本編とCMの音量差を小さくすることができます。番組は、感動のシーンで静かに幕を閉じたのに、その直後のCMが、ガチャガチャした音を出したのでは、興がそがれてしまいますからね。
デジタル放送では、ユニボリュームは必須の機能
藤原 回路や電源周りに変更はありますか?
村田 いいえ。むしろ、なかに入れるものは変らないのに、本体を薄くしたり、スピーカーキャビネットの容積を少なくするといった目標を克服することの方が、たいへんでした。さらに今回は、FMチューナーを内蔵しています。
藤原 今、日本ではラジオチューナーの行きどころがないですからね。
村田 AVセンターを買ったお客様のなかで、FMチューナーがついていてよかったという声が多かったので、それをYSPにも反映させたのです。
藤原 日本では、チューナーが音質を悪くするという理由から、悪者のように扱われる時期もありました。単体チューナーが少なくなってきた今では、AVセンターに搭載されていると便利だと思うのですが。
村田 たぶん、デジタル系の回路がたくさんあることに対して抵抗感があるのだと思います。
藤原 そうはいっても、現代AVセンターには、DSPや映像回路などのデジタル回路がギッシリ搭載されています。むしろそちらのノイズの方がよっぽど大きい気もしますが。
村田 ユニボリュームに関しても、音質にこだわる方からしたら、何故、音が悪くなるようなことをするのかと批判されそうですが。
藤原 コンプレッションをかけるようなところがありますからね。
村田 アナログ放送の場合は、ダイナミックレンジが狭く、音量差はほとんど気にしたことがありません。一方、デジタル放送の場合は、送られてくる信号のなかに音量の情報が含まれています。民放だと、番組とCMの間で音が変るだけでなく、ドラマとスポーツなど、個々の番組間でも違って聴こえます。そうなると、音をコントロールする製品に、ユニボリュームのような機能が、必須と言わざる得なくなってくるのではないでしょうか。


藤原 音質はもちろんですが、使い勝手のよさというのも、YSPを買われるお客様にとって重要なファクターですよね。
村田 CMがない局や、BD/DVDのようなパッケージメディアの場合には、いい音で聴いてもらいたいので、ユニボリューム機能をOFFにして聴いてもらえればよいと思います。ON/OFFの設定は、東芝のレグザ側に項目が用意されています。
藤原 日立のWoooとは連動しないのですか?
村田 今後、日立とお話を進めさせていただく中で、やっていただけるものと期待しています(笑)。実は、ヤマハ製品のなかで、いち早くCEC機能を取り入れたのも、YSPなのです。CECによる連動機能は、YSPが先に導入してAVセンターが継承した、珍しい例です。
藤原 そうでしたね。YSP-4000がはじめてだったと思います。初めの頃は、AVセンターも普及価格帯のカテゴリーに採用されるだけとお聞きしていましたが、今では中級より上のモデルでも対応し始めています。BDレコーダーなどでは、連携する操作としない操作が複雑に入り交じっていて、使い手が操作を把握しておかないといけなかったりしますが、アンプとの連携は音量や入力切替えなどシンプルな操作ばかりですから、比較的ストレスなくスマートにやり取りができます。
村田 さらに、東芝のレグザと日立のWoooについては、EPG連動でシネマDSPのプログラムを自動で切り替えられるようになりました。EPG情報は、テレビ側から送ってもらい、YSP側で相応しい音場に自動で設定します。双方向のCECを利用しています。
藤原 でも、それはCECの規格外ですよね。
村田 東芝と日立とで、個別にローカルな取り決めを行なっています。
藤原 YSP-4100で、はじめて採用されるようになったのですか?
村田 レグザに関しては、YSP-4100がはじめてです。Woooに関しては、実は2年前、YSP-3000の頃から採用されています。
待機時の消費電力が少ない。エコ時代にマッチしたAV機器
藤原 シネマDSPプログラムの自動切替えを行なうかどうかは、お客様が選べるようになっているのですか?
村田 テレビ側にON/OFFを選択する項目が用意されています。
藤原 AVセンターにその機能は搭載されないのですか?
村田 われわれの間でも、AVセンターに搭載するかどうかの議論はしています。AVセンターの場合、さまざまなAVコンテンツに対応できるよう豊富なシネマDSPプログラムを用意しておりますが、テレビのジャンルコードは比較的シンプルです。例えば、EPG情報で「海外映画」「日本映画」という情報は入手できても、それ以上に詳しいジャンル情報はありませんから、デフォルトでどのシネマDSPプログラムを設定したらいいかの判断が、難しくなります。
藤原 EPG情報があまり頼りにならないなら、音そのものから情報を解析してみてはいかがですか。リアルタイムに最適なシネマDSPプログラムを選んでくれるといいですよね。
村田 確かに、将来的には音を解析して完全自動DSPっていう機能をつくれればいいと思いますが、今対応しているおまかせDSPでは、番組が変ったタイミングで、シネマDSPプログラムが切り替わるようになっています。YSPの厳選したDSPプログラム数なら、このおまかせDSPで充分お楽しみいただけます。HDMIの機能について、さらに細かい話をすれば、今回、リピーター機能が、DeepColorやx.v.Color、オートリップシンクに対応いたしました。
藤原 電源が入っていない時も、リピーター機能は使えますか?
村田 はい。スタンバイ時に、スルーでテレビ側から音を出すことができます。


藤原 HDMIの信号を待っているときは、他社だとかなり消費電力を食いますが、ヤマハのAVセンターは、待機時の消費電力が低いじゃないですか。
村田 そうですね。YSPでも、リピーター機能が使える状態でスタンバイしているときは3Wぐらい、CECも使わないように設定すれば、0.5W以下に抑えられます。
藤原 つくる側としては、苦労したんじゃないですか?
村田 実は、そうでもないのです。弊社のAVセンターやYSPの場合は、はじめから待機時の消費電力を落とすつもりで設計していますので。
藤原 待機用の電源回路を別に持つわけですか?
村田 はい。それがあるから、スタンバイ時に消費電力を下げることができるのです。
藤原 だから、あとから専用の回路を加えようとすると、今までつくりあげてきた回路との整合性に苦労するわけですね。
村田 さらに、YSPの場合は、AVセンターと違って、デジタルアンプ用のスイッチング電源を使用しています。その分、電力を効率よく活用することができます。
藤原 エコの時代に、マッチした提案ですね。とくに、YSPは生活のなかで使われるシーンが多いでしょうから。
村田 タイミングがよかったのだと思います。
YSPは、テレビの下より上に設置した方が音がよい
藤原 iPodとのやり取りも新しくなりましたね。
村田 ヤマハのデスクトップオーディオの分野では、すでにAirWiredという無線技術を使って、iPodとワイヤレスでやり取りできる製品があります。AirWiredの特徴としては、PCMを転送しますので、音に劣化がありません。結果として信号処理時間も短くできます。また、iPod/iPhone そのものがリモコンに変わりますので、使い勝手もよくなります。具体的には、YSPの電源ON/OFFや、YSPの音量調整が操作できます。また、YSP-4100では、以下の3つのことが実現できます。1つ目は、iPod(に取り付けたドングル)とYSP-4100間の通信。2つ目は、YSP-4100とサブウーファー間をAirWiredでつなぐこと。そして3つ目は、iPod、ならびにサブウーファーの同時ワイヤレス接続です。AirWiredの技術では、送信側のiPodひとつに対して、複数の受信側を同時に動作させることができます。ここでは、iPodからYSPとサブウーファーの両方に音楽信号を送っていますが、YSPでは、さらに内部のモジュールを使って、サブウーファーに音を出すタイミングを指示しています。
藤原 信号は両方に送られていて、YSP側でタイミングを調整するわけですね。ちなみに、テレビを楽しんでいる時に、iPodの電源を立ち上げるとどうなりますか?
村田 そのままでは、テレビを楽しんでいる状態と何も変わりません。iPodのプレイボタンを押してはじめて、入力が切り替わります。プレイボタンを押すという行為は、iPodを聴きたいという意志だと解釈します。ふたつの自動化システム、例えばCECとiPodのように、両方から指令が出た時に衝突が起きないよう、調整してあげる必要があります。新機能を加えるときは、お客様の視点に立って、本当に使いやすいかどうかを必ずチェックしています。
藤原 サブウーファーは、どのモデルでもワイヤレス接続できますか?
村田 別売のサブウーファー用ワイヤレスキットをお買い求めいただければ、既存のヤマハ製サブウーファーなら、どの製品でも接続できます。
藤原 最後に、YSPの今後の展開と、使いこなしについてお聞かせください。
村田 今後の展開については、製品がマーケットに流れた後、お客様の声をリサーチして決めていきたいと思います。


お客様に驚いてもらえるような機能を、今後も検討していきたいです。
藤原 ワイヤレスで、YSP本体とのデザインマッチングが取れたプレゼンススピーカーを出しても面白いかもしれませんね。名付けて、YSPキュービックとか(笑)。
村田 今、YSPが横方向に長いのは、おおざっぱにいうとビームを横方向に飛ばしたいからなんです。ビームの飛ばしたい方向にスピーカーユニットを取り付ければ、その方向に飛ぶようになります。つまり、高さを出すには縦方向に大きさを取らなければなりません。
藤原 壁掛けテレビが一般的になれば、テレビの両サイドに縦型スピーカーを置いてもいいですよね。
村田 縦方向のアイデアは面白いのですが、横方向に比べると、対応するコンテンツがまだまだ少ないのが現状です。横方向はコンテンツが充実していて無視できませんから、現状のYSPにさらに縦型スピーカーを追加することになります。ワンバーで設置できるのがYSPの魅力なので、やりすぎるとその魅力が薄れてしまうかもしれません。どちらも魅力的な選択ですから、その時代その時代のお客様のご要望をきちんと分析する必要があると思います。
藤原 YSPの設置位置は、テレビの上でも下でもいいのですか?
村田 はい、構いません。むしろYSPは、テレビの下よりも上に置いてもらった方が、ビームの効果がはっきり表れると思います。一般的には、部屋の下の方にビームを遮るものが、置かれていますので。
藤原 ビームの通りがいいのは、上の方というわけですね。現行モデルを上に置いても構いませんか?
村田 もちろんです。垂直角度調節ができるようになっていますから、壁掛けでテレビの上に置くというケースもアリだと思います。
藤原 上にも置けるYSPユーザーは、これを読んだらすぐに試したくなりますね。今回は、貴重なお話、どうもありがとうございました。
村田 ありがとうございました。
インタビュアー オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐
フォト 河野隆行
フォト 河野隆行
次回予告:第6回 ヤマハAV機器事業部の発明家 野呂正夫さん × 小原由夫さん 2009年11月1日 掲載予定



















