第3回(前編) ヤマハ AVセンター DSP-A1
シネマDSPと最新オーディオ
フォーマットを結実させた
ヤマハAVセンターの金字塔
フォーマットを結実させた
ヤマハAVセンターの金字塔
AVシステムの核として極めて重要な役割を果たすAVセンター。製品としての基本形態はメーカー、グレードを問わずほとんど変わらないが、マルチチャンネル再生(特にムービーサウンド)に対する考え方は大きく2つのグループに分けることができる。ディスクに収められた情報をそのまま再現するというハイファイ再生タイプと、そこに独自の音場処理を加えて、より大きなサラウンド空間を構築しようというタイプだ。
明確な線引きは難しいが、後者の代表は間違いなく“シネマDSP”というオリジナルの音場創成技術を誇るヤマハである。一般的にAVセンターのDSPというと、ドルビー・サラウンド再生に適度な響きを加えて、自然な拡がりを演出する技術という印象が強いが、シネマDSPの発想はまったく違っていた。
【製品スペック】
ヤマハ AVセンター DSP-A1
ヤマハ AVセンター DSP-A1


↑7chのスピーカー端子に加え、マルチチャンネル入力端子まで備える
●定格出力:110W×5(L、C、R、LS、RS)35W×2(フロントL、フロントR)●S/N:102dB●接続端子:AV入力3系統(3系統S端子付)、VCR入出力3系統(3系統S端子付)、オーディオ入力3系統、テープ入出力2系統、モニター出力(S端子付)ドルビーデジタルRF入力、ドルビーデジタル入力/デジタル音声入力(光3、同軸5)、ほか●寸法/質量:W473×H190.5×D476.5mm/25kg
映画の製作者が意図する音場の正確な再現を本意とし、マルチチャンネルの本来の空間を正確に追い求めていくというもの。前方3ch、後方1ch、計4chの情報しかないプロロジック再生であろうと、高度なDSP処理により、磁気記録による6chディスクリート音声を売り物にする70mmフィルムの音を追い求めていったのである。
映画製作では、台詞に音楽、効果音を加えるわけだが、それぞれの空間的な演出の関係を明確にしている。奥行き方向で見ると、まず台詞はスクリーン上にしっかりと定位させることが大原則。スクリーンに映っている人の口から言葉が発せられ、効果音はスクリーンの奥から、音楽はさらにその奥から聞こえる。奥行き方向に重層的に配置され、サラウンドは視聴者を後方から文字通り取り囲むように展開するのが、映画の音の基本だ。
映画館ではこの音を巨大な空間と、多数のスピーカーによって再現しているわけだが、一般の家庭で同等のスペースを確保するのは不可能に近いし、スピーカーの数も制限される。ヤマハの技術陣は、シネマDSPによってこうしたホームシアターの制約を取り除き、家庭で「映画そのものの世界」を再現しようと考えたのである。
DVDの登場により
シネマDSPの
新世界が開かれる
シネマDSPの
新世界が開かれる
具体的には、実測音場データをプログラム毎に最適化することによって、部屋の大きさや響きを理想的な音場空間として描きだし、セリフ、効果音、音楽を製作者が意図する通りに配置する。その狙いは単なる映画館の音の模倣ではなく、あくまでもソフトの製作者が考えたサウンドデザインを忠実に再現することだったという。
いまから約10年前、DVDの登場によって5ch + 0.1chという劇場用映画の音源が個人レベルで手軽に入手できる時代が到来した。各チャンネル間の干渉から開放され、しかもサラウンドチャンネルが明確な音源として定位するドルビーデジタルは、まさにシネマDSPが追求し続けてきた理想の音場だったと言えるだろう。
【デジタル基板のダイアグラム】

↑ドルビーデジタルとプロ・ロジックを処理するYSS-249、DTSをデコードするモトローラのDSPI56009、シネマDSPを演算するYSS-214。これら3つのICで構成される音場処理ブロック。D/Aコンバーターも24ビットタイプを採用
5.1ch独立の贅沢なサラウンド再生の誕生を歓迎するかのようにヤマハが提案したのが、3音場処理のシネマDSPだ。これはサラウンド情報についても視聴者へ直接音を正確に伝えることを重要視し、サラウンド情報も左右独立してDSP音場処理を行なうというもの。視聴者を包み込むように拡散音場に、明確な音源として像を定位させようという考え方だ。
この技術はDSP-A3090(95年12月発売)に初搭載されて以来、DSP-A1092、DSP-R992といったドルビーデジタル対応のAVセンターに積極的に採用され、よりリアルな臨場感を求めるAVファンから圧倒的ともいえる支持を獲得した。
そしてDSP-A1の登場。97年9月の発表以来、ヤマハではDTS(Digital Theater System)サラウンドの紹介も兼ねて、DSP-A1のお披露目イベントを各地で精力的に展開した。東京・池袋のサンシャインシティで行なわれたオーディオフェア会場でも、ディズニーランドの人気アトラクション並の待ち時間にも関わらず、DSP-A1のイベント会場は常時長蛇の列。それもA1の音が体験できることの喜びからなのか、彼らの多くはその待ち時間を楽しんでいるかのように見えたほどだ。
当時、AVセンターという音響機器が登場してすでに10年以上経過していたが、かつてここまでAVファンの注目を集めた製品はなかったように記憶している。未知のサラウンド規格、DTSへの関心の高さもあろうが、一体型AVセンターがこれほどの吸引力をもつのか。DSP-A1の登場にはそれだけのインパクトがあったのである。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐











