第3回(後編) ヤマハ AVセンター DSP-A1
フラッグシップ
モデルへの
あくなき挑戦
モデルへの
あくなき挑戦
実際、DSP-A1はホームシネマシステムの核として、いろんな意味で頼りになる製品に仕上がっていた。これまでヤマハが地道に積み上げてきたシネマDSPの技術、ノウハウを存分に投入し、しかもアンプとしての力を底上げする。その正攻法のモノ作りは、シネマDSPのフラッグシップに相応しく、原寸大の立体音場を我々の元に届けてくれたのである。
7chパワーアンプを搭載した一体型モデルながら、音に対するこだわりは半端じゃない。まず巨大なヒートシンク、重量級(約8kg)の電源トランス、そして低倍率箔使用の高音質ケミコンなど、贅沢なパーツを積極的に投入することによってアンプとしての基礎体力を強化した。
【内部構造】

↑シネマDSPとドルビーデジタル、そして当時最新のDTSにいち早く対応した中枢基板。中央の放熱板の下にDTSデコーダーが組込まれている

↑大きな筐体の大部分を7chパワーアンプに割りあてられている。左上には、重量級の電源トランスが配され、右上には、上写真の中枢基板が立てて置かれている
さらにサラウンドの再現性に大きな影響力をもつ音場データに新たな実測音場が加えられ(総計42音場プログラム)、DSPマイクロプログラムの改良も行なわれた。またハイビジョンのサラウンド放送など、外部デコーダーの接続にも対応する6チャンネルの独立音声入力端子を装備したことも見逃せないだろう。
しかし最大の注目点は、やはりDTS音声への対応だった。ラインナップの頂点に位置するA1としては、米国のハイエンドAVファンの間でひそかなブームになりつつあり、近い将来DVDでも採用される予定のDTSを無視することはできない。
DTSはドルビーデジタル同様、高度な情報圧縮技術を採用した5.1チャンネルのサラウンドシステムだが、最大転送レートは、ドルビーデジタル(DVD)の448kbps に対して、DTSは1536kbps(あるいは768kbps )。これはそのまま音質に反映される場合が多く、演奏家や映画制作関係者の間ではその音の良さが広く認められつつあった。
ただ当時としてはDTS音声を収録したメディアは米国版LDのみ。DVDについても米国では翌年春から発売が始まる予定で、日本国内は明確なスケジュールは提示されていない状況だった。しかもLDの場合、DTS音声はPCM音声に取って代わって収録されていて、特別な識別信号もない。
このためDSP-A1では信号を受けたのちに、PCMかDTSかを検出して、最適な処理を行なうという、かなりリスキーな対応をとった。DTS再生中はセレクターは操作できず(誤動作防止策)、いったん主電源を落とすことで、ニュートラルな状態に戻るという仕様は、安全を第一に考えるヤマハ製品では異例のこと。
いまだ日本に上陸していない未知のフォーマットには違いないが、DVDが本格的に普及すると、熱心なAVファンからサラウンドのプレミアムフォーマットとして受け入れられる可能性が高い。一体型AVセンターの最高峰を目指すモデルとしては、多少の危険を侵してでもDTS音声に対応しなければならない。まさにヤマハ技術陣の英断だった。
11.1ch !?
HDオーディオが魅せる
新たなシネマDSP
HDオーディオが魅せる
新たなシネマDSP
まずCDプレーヤーのステレオ音声を聴いてみたが、芯の強さ、密度、自然な質感といったところが、明らかにヤマハのこれまでのAVセンターとは違っていた。ヤマハのアンプと言えば、透き通るような清々しい音という印象が強いが、A1の音には落ちついた大人の風格がある。上質の木綿を思わせる心地よさで、ストレスとは無縁のサウンドだ。
この安定感、制動力はサラウンドでも変わらなかった。「アポロ13」(DTS音声LD)を「DTSノーマル」で再生してみたて、音場の厚さ、つながりの滑らかさに驚き、お馴染みの発射シーンでは、濃密な地響きがドドーと体を揺さぶり、すさまじいほどリアルなサラウンド空間を作り上げた。
私が最も驚いたのは、爆音とも言える効果音を背景に、打ち上げの感動を伝える音楽が雄大に拡がり、アポロの打ち上げのすさまじさと、それに伴う複雑な人間ドラマが凝縮されたかたちで描きだされたことだった。特に音楽の鮮度の高さはこれまで体験したことがないほどで、まるでスクリーン手前のピットでフルオーケストラが演奏しているかのような錯覚を覚えるほどだった。
【DSP-A1のカラー】

↑国内ではゴールドモデルのほか、シルバーモデルも登場

↑こちらは海外向けのブラックモデル
そしてDSP-A1で初採用された「DTS Sci-Fi(サイエンスフィクション)」モードを選択すると、その音場はにわかに引き締まり、スリリングな空間に変わった。音の表情、動きが鮮明になり、フォーカス感が増す。音量が上ていくと、どうしても音場のバランスが崩れるケースが少なくないが、その空間は緻密で、安定感がある。音の動きが鮮明に感じ取れるうえに、1音1音の反応が素早い。解像度の高さと空間の自然な広がりの共演。新鮮な驚きだった。
単なる派手な演出に止まらず、実際の生々しい空間として作り上げる本物の音場創成機の登場。「1時間、2時間待ってでも、A1の音を聴きたい」。イベント会場の外で順番を待つ熱心のAVファンの期待に、充分応えられるだけのパフォーマンスを演じてみせたのである。
DSP-A1の登場からちょうど10年となる今年の秋。ヤマハではドルビーTrueHD、DTS-HDといったHDオーディオに対応したフラッグシップモデルの発売を予定している。
その全貌が明らかになるまでには、もう少し時間が必要だが、A1コンセプトを受け継いだ一体型モデルで、シネマDSPのイフェクトchは基本に立ち返り、初代機DSP-1同様の4ch仕様(前方2ch、後方2ch)になる模様だ。つまり7.1ch の音源に4chのイフェクトを加えた11.1chのサラウンド再生が現実のものとなるわけだ。
HDオーディオとシネマDSP PRO(仮称)の共演。はたしてどんな音場空間が描きだされるのか。いまから楽しみでならない。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐











