第4回(前編) 東芝 ブラウン管テレビ 29BS100
東芝REGZAに受け継がれる
「丸管」バズーカのフィロソフィ
「丸管」バズーカのフィロソフィ
無闇にコントラストを追求することはせずに、限られたダイナミックレンジのなかで、精細感と階調性を追求しながら高品位な映像を描き上げる東芝レグザ。微妙な色彩の描きわけ、暗がりでの色再現、あるいは明るい部分の陰影描写などなど、液晶の弱点の克服にも意欲的に取り組み、レグザは頼れる大画面液晶として画質にこだわるAVファイルからも根強い支持を得ている。
【製品スペック】
東芝 ブラウン管テレビ 29BS100
東芝 ブラウン管テレビ 29BS100

●ブラウン管:29型ラベンダーマスク●接続端子:AV入力3系統4端子、AV出力1系統、オーディオ出力、デ・スクランブラー専用入力、検波入出力、ビットストリーム入出力、AFC入力、デジタル音声出力(光)、ほか●音声出力:メイン10W×2ch、サブウーファー13W●寸法/質量:W736×H583×D498mm/約43.0kg
この堂々とした画質は如何にして完成したのだろうか。私には、かつて一斉を風靡した東芝のブラウン管テレビ、バズーカの存在が少なからず影響をしているように思えてならない。徹底して階調性にこだわりながら、フォーカス性、色彩描写、S/N感といったディスプレイとしての基本性能を高めていくという発想は、まさにバズーカの絵作りコンセプトそのものだし、ボケ感を生かしながら3次元的な奥行き感を表現するという考え方も一緒だ。
そしてレグザへの影響力の大きさということでは、1991年秋に登場した29BS100が最右翼だろう。このモデル、管面に丸みのあるブラウン管、言わば“丸管”を搭載した最後の高級大型テレビであり、そのしっとりとした温かな風合いの画質は各方面から高い評価を受け、第7回HiViグランプリ(91年度)でも直視型ディスプレイ部門賞の栄誉を射止めている。ここではブラウン管テレビの銘機、29BS100にスポットを当ててみたい。
重低音バズーカから
「画質」のバズーカへ
「画質」のバズーカへ
まずここで29BS100登場に至るまでの、バズーカが歩んできた軌跡を振り返ってみることにしよう。東芝バズーカストーリーは89年春、田村正和が「この音、聞こえますか」と視聴者に問いかけるテレビコマーシャルで大きな話題となった29S12からスタートする。100Hz以下の重低音を専用に再現する「バズーカ・ウーファー」搭載し、その音のよさを印象づけるために作られた挑発的なコマーシャルだったが、実はこのディスプレイ、画質がひじょうによかった。
当時東芝のテレビといえば、フォーカス性能に優れ、キリッと締まりのある映像を描きだすという評価が定着していたが、その一方でS/N感に不安がある、質感がザラツクという声も少なくなかった。この29S12ではその危なっかさを見事に払拭し、鋭いフォーカス性と滑らかさを両立して見せたのである。テレビコマーシャルの影響もあって、発売当初は“重低音”目当ての購入者がほとんどだったようだが、時間の経過とともに画質のよさが認知されるようになり、「画質のバズーカ」の評価が確立されたのである。
29S12の絵作りは、どちらかと言えばテレビ番組を楽しむという前提で、明るく、抜けのいい映像を志向していたが、同年秋に登場した29D700では「シアター」ポジションというコンセプトを取り入れ、これまで手つかずだった映画ソフトの鑑賞という領域にチャレンジすることになる。
【内部構造】

↑フラットテレビになる前の最後のブラウン管。フィルター特性を改善した29型新ラベンダーマスクを採用する。

↑13Wの出力、約55Hzまでのびる重低音。バズーカ―ウーファーの断面図
「シアター」ポジションの狙いは、フィルムの特性に近い映像をブラウン管上に描きだし、スクリーンに描きだされる微妙な風合いをあるがままに表現すること。このため速度変調、直流伝送量、色温度などユーザーがコントロールできる領域外の特性にまで踏み込み、これまでの家庭用テレビの常識を越えた極めて巧妙な絵作りを行なっていた。
ボタン一つでソフト鑑賞に適した映像が楽しめるという手軽さも手伝って、その提案は映画好きのAVファイルを中心に着実に受け入れられていく。以後、「標準2」、あるいは「映画1」、「映画2」といった映画鑑賞用の映像ポジションへと発展し、バズーカの大きな特徴として語られるようになったわけだ。
しかし、90年の春に登場した29BS90で、その考え方は後退する。このモデルでは「標準1」、「標準2」という映像ポジションを設け、前者はとにかく明るく、鮮やかなダイナミックモード、後者がシアターポジションという位置づけで仕上げられていた。店頭展示用の画質も、映画鑑賞用の画質もどちらも大切ですよ、という考え方だったわけだが、「標準2」の絵作りが「標準1」の影響を受けてしまい、従来のシアターポジションとはかなりニュアンスが違う。どちらかと言えばクッキリ、シャッキリ見せる画調で、フィルム映像独特の滑らかさ、柔らかさを素直に感じられる絵作りとは言い難かった。
「他メーカーに先駆け、いち早くBSチューナーを内蔵したモデルということで、店頭での再現性を必要以上に重要視してしまった」。29BS90の発売から約1年後、開発担当者から聞き出したコメントである。
シアターポジション本来の考え方は、90年秋の主力モデル29BS95で見事に復活を果たす。「標準2」という扱いには変わりはなかったが、その映像には自然なタッチ、質感を大切にしようという意図が感じられるようになり、基本的なS/N感、滑らかさも大幅に改善された。LAT(Large Aperture on Thick metal )電子銃を組み込んだ新開発ブラウン管をはじめ、広帯域IQ復調(復調軸は95度)、2CCDコムフィルター(ロジカル・コムフィルター)など、注目すべき高度な技術も意欲的に投入しており、ここでバズーカの高画質ストーリーの基礎が確立されたといっても過言ではないだろう。
翌年春登場した29BS96は、完全なBS95のマイナーチェンジ版。新製品ごとに、画質向上のための新しい技術、工夫を取り入れるのがバズーカの手法だったが、このモデルばかりは例外だったようだ。しかしそこはハイファイ映像を目指す人気ディスプレイ、ころんでもタダでは起き上がらない。地味ながら映画ファンをその気にさせる提案を盛り込んできた。そう、白黒映画を最良の状態で再現するというモノトーン機能である。
その中身だが、表向きには色信号処理回路を停止して、クロスカラーを抑えるのが狙いだったが、担当技術者はそれでは満足しなかった。色回路、速度変調回路を完全オフとし、ガンマ補正回路、WPS(ホワイト・ピーク・サプレッサー)回路、ブライトネスについては動作点の変更、及び調整を行なう(「標準2」ポジションからの変更箇所)。フィルムの雰囲気を生かすために輪郭の補正を極力弱め、影の部分の階調をナチュラルに見せる。さらに白黒画像で際立ちやすい白ピークを抑え、と同時に全体的な明るさも丁寧にコントロールするという極めて複雑な画像処理を導入したのである。
また通常のカラー画像では速度変調の完全オフを実現(標準2設定時)。当時、速度変調は高画質回路の代表的な技術だったわけだが、自然なボケ感を生かしたハイファイ映像を追求した絵作りでは、必ずしも画質にいい回路とは言えない。速度変調の完全オフはまさに東芝技術陣の英断であり、これでようやく、高性能ブラウン管を生かした補正感の少ない映像が楽しめるようになったといっても過言ではない。軽く見られることの多いBS96だが、個人的には、バズーカを趣味の領域へ引き込んだ記念すべきモデルという思いが強い。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐















