第4回(後編) 東芝 ブラウン管テレビ 29BS100
「画質」のバズーカは
スッピンが美しい
スッピンが美しい
そしていよいよ29BS100の登場である。初代モデル29S12が登場して以来、真摯なクォリティ改善努力が認められ、「バズーカ」シリーズの名は着実にユーザー間に浸透し、大画面ディスプレイの人気ブランドとしてすっかり定着した。発売から2年で100万台の販売はテレビ史上に残る大ヒット(累計)。BS100(34BS100、29BS100)シリーズは言わば100万台突破の記念モデルであり、クォリティ、機能の両面に新世代バズーカの真骨頂とも言える存在であった。
【29BS100の外観】

↑キャビネットの天板と底部には、石目調仕上げ(マーブルサーフェス)が施されている

↑映画再生では、60〜70目盛りが最適とされた当時のバズーカウーファー。小音量でも迫力を失わないバズーカナイト・モードも備えている
このモデルの一番の魅力は補正感の少ないナチュラル指向の映像にある。常々言っていることだが、私はディスプレイをチェックする場合、まず「その映像がカメラのファインダーに再現される画像にどのくらい近いか」に着目する。家庭用のテレビであるからには、ある程度の明るさは必要だし、しっかりとしたコントラスト感も求められる。とくに日差しがさしこむような明るい部屋では、速度変調回路で輪郭を立て、黒レベル伸長で黒をしっかりとホールドしてやる必要があるだろう。
しかし、こういったテレビ側の画質改善努力は、ソフトの鑑賞では往々にして逆効果として働くケースが多い。通常の生活空間で、天気予報やニュースを見るだけならまだいいが、部屋の明かりを落として、映画ソフトをじっくりと楽しむとなると、そのテレビ側の演出が映像にこめられた製作者側の意図を曖昧にしてしまう、いや分からなくしてしまう危険性があるのだ。
カメラマンはピントをどこに合わせるのか、あるいは階調の設定をどうするか、など微妙なタッチの違いによって、映像に表情をもたせている。ここでテレビに最も求められることは、その映像に対する忠実性であろう。ボケるべきところがクッキリとジャストフォーカスで再現されるようでは、製作者の視線がどこに向いているのかが分かりにくくなるし、うすら明かりが差し込むナイトシーンがグッと黒に引き込まれてしまっては、そこで微妙な暗部の情報はプツンと途切れてしまうことになる。つまりテレビ側での映像の演出は、単に画質の傾向が変わるだけではなく、映画のもつ本来の楽しみを変質させてしまう危険性を含んでいるということである。
29BS100の
高画質への歩み
高画質への歩み
入力ソースをあるがままにスッピンで描きだす。けっして難しいことではないように感じるかもしれないが、家庭用テレビでこれができるモデルは当時、数えるほどしかなかった。ソニーのプロフィールPRO、三菱のCZ、そして東芝のバズーカである。ソースに対する忠実性は、ブラウン管の実力に負うところが大きい。速度変調、黒レベル伸長といった各種補正回路に頼ることなくフォーカス感をきちっと確保する必要があるため、やわなブラウン管ではその力の無さが露呈されてしまうという難しさがある。
東芝はブラウン管製造メーカーである強みを生かし、日夜その基本性能を改善し続けていた。例えば、29BS95でLAT電子銃を組み込んだラベンダーマスク管を開発し、BS96でLAT-SP(スペシャル)にバージョンアップ。さらに29BS100では懸案のコンバージェンス精度にも鋭いメスが入り、家庭用としては珍しいくらいの素直な周波数特性を実現していた。
29BS100ではその素性のいいブラウン管を生かしながら、「奥行き感、質感の改善」と「正確な色(特に赤、グリーン)の再現性」に取り組んだ。補正感の少ないナチュラルな画調をベースに、画像の安定感、品位の向上、リアルな色再現にチャレンジしたわけだ。まず奥行き感、質感の改善だが、APL(※1)が変化しても白側がつぶれず、と同時に黒側の情報が多い低APL時でも、黒つぶれを起こさない。しかもAPLの変化に対して、ペデスタルレベル(※2)の変動を起こさないことなどが要求される。また、黒レベル伸長、速度変調などによるコントラストの確保も好ましくないし、周波数特性に極端なピーキングをつけるべきではない。
※1 画面の平均輝度レベル(Average Picture Level)
※2 輝度の基準になる信号レベル
(メディアマーケティング部)
※2 輝度の基準になる信号レベル
(メディアマーケティング部)
そこでビデオゲイン、直流電流量を見直し、さらに「映画1」、「映画2」ポジションでは調整しない状態で速度変調オフ(黒伸長はわずかに効いている)の状態に入るようにした。また周波数特性についても極力フラットに伸ばす方向で仕上げられた。実際、その映像は確かで、穏やかなコントラスト感が得られ、業務用のマスターモニターに近い柔らかな画調が得られている。群遅延特性の追い込みが効いたのか、輪郭の描写が非常に美しく、実に見通しがいい。これだけ緻密で、締まりのある29型画像は、家庭用のテレビとしては初めての体験だったかもしれない。
【背面端子とモードによる色温度変化】

↑S端子を含む3系統のAV入力。デジタル音声出力端子を有する

↑3種類のカラーモードと3種類の画質モードで、計8種類の映像が楽しめる。モノクロ映画には、映画2+モノトーン1が最適だという
そして色再現性の改善についても、赤の色差信号の変調度に対応した補正回路の採用、新ラベンダーマスクの導入、ホワイトバランスの最適化、という3つの対策を講じられた。ご存じのように、赤には非常に多くの情報量が含まれている。一概に赤といっても、朱色がかった赤もあるかと思えば、茜色に近い赤もある。またその部分の輝度信号にもさまざまな情報がある。しかしテレビでこの微妙な赤を忠実に再現することは、当時、かなりハードルの高い問題だった。
29BS100ではこの難題にも果敢にチャレンジした。通常、飽和度の高い赤の場合、往々にして朱色の方向に振られ、その部分の解像感が低下するという問題を伴いやすい。解像感についてはその部分のシャープネスを上げることで克服できるものの、色味の変化は改善できない。ただこれも「赤の飽和度をある程度抑えてやれば解像感も、微妙な色味も改善されるじゃないか−−−」というある技術者の一言で解決される。この言葉をヒントに、赤の変調度がある一定以上になると、青軸に対する赤軸の相対振幅値を下げるという補正回路が新たに開発されたのだ。その効果は一目瞭然、真紅、紅赤、朱色と、赤の表情が豊かになり、色が飽和してぼてっとするような症状も影をひそめたのである。
ホワイトバランスの最適化も画質の安定性、落ちつきの向上に少なからず貢献していた。その内容は、従来の色温度11500K(標準1)、93000K(標準2)に、ハイビジョンスタジオ基準と同じ6500K(映画2)を加えるというもの。またモノトーンで6500Kの設定が可能になったことも新しかった(9300K、4500Kも可)。
「この音、聞こえますか」からスタートし、29BS100というテレビ史上に残る銘機によって、家庭用テレビのハイファイ映像の何たるかを明確に再現してみせた東芝バズーカ。このモデルを最後に、バズーカもフラットブラウン管の領域に入っていったわけだが、予想通り、画質的には苦戦し、結局、29BS100を越えるモデルは登場しなかった。その緻密な階調性といい、派手さよりも忠実さを重視した色使いといい、現在のレグザの最高峰、Zシリーズの映像を見ていると、最後の丸管バズーカの遺伝子をしっかりと受け継いでいるように思えてならない。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐















