第6回(前編) ソニー 液晶プロジェクター VPL-VW10HT&VPL-VW12HT
液晶プロジェクターを
シアター用途に導いた
ソニーの革命機
シアター用途に導いた
ソニーの革命機
1999年の秋、彗星の如く姿を現したソニーの投写型プロジェクター、VPL-VW10HT。アスペクト比16対9のワイド液晶パネル(横1366×縦768)3枚を組み込んだ3板式のホームシアター専用モデルの登場は、熱心なAVファンを中心に歓待の拍手をもって迎えられ、記録的な大ヒットとなった。その後、コントラスト、色再現を改善したVW11HTを経て、さらに製品としての完成度を高めたVW12HTへと進化していく。ここでは今日の投写型プロジェクターに大きな影響を与えたVPL-VW10HTと、その完成形、VPL-VW12HTにスポットを当ててみたい。
【製品スペック】
ソニー 液晶プロジェクター VPL-VW10HT
ソニー 液晶プロジェクター VPL-VW10HT

●投写方式:3LCDパネル、3原色光シャッター方式●LCDパネル:1.35インチポリシリコンTFT(1,049,088画素×3)●レンズ:1.2倍ズーム、F2.2-2.5/f=44.6-53.6mm●投写距離(16対9):2.6〜3.01m(80インチ)、3.27〜3.78m(100インチ)●ランプ:200W UHP●光出力:1000ANSIルーメン(16対9投写時)●カラー方式:NTSC3.58/PAL/SECAM/NTSC4.43/PAL-M(自動/手動切替)●解像度:750TV本(NTSCビデオ入力時)、1100TV本(ハイビジョン入力時)、1,366×768ドット(RGB入力時)●対応走査周波数:水平15〜80kHz、垂直50〜85Hz(RGB)●入出力端子:コンポジットビデオ、Sビデオ、ミニDIN4ピン、コンポーネント/プログレッシブコンポーネント/ハイビジョン(切替え)、RGB、他●消費電力:300W(最大)●寸法/質量:W396×H168×D429mm/約8kg
ソニーのVPL-VW10HTが我々の前に現れたのは、いまから約8年前のこと。当時、液晶プロジェクターと言えば、PCと一緒に使うプレゼン用途が大多数を占め、ホームシアター用モデルといってもそこに映画鑑賞用の映像モードを追加しただけのアレンジ版がほとんどだった。とにかく運びやすさ、設置のしやすさが求められるために、プロジェクターとしての存在感、スマートさよりも、小型・軽量化を優先したものがほとんどで、持ち運び用のハンドルを装備したモデルも珍しくはなかった。
ところがワイドXGAパネルを組み込みこんだVW10HTのモノ作りの発想はまったく違っていた。まずその流麗なデザインに驚かされた。ゆるやかな曲線を生かした柔らかなフォルムがシアター空間に溶け込み、映像を映し出すレンズユニットが力強く迫り出す。そしてその横にはスピーカーのバスレフポートを思わせるような、大きな穴。実はこの穴こそ、VW10HTがホームシアター専用モデルである証だった。
投写型プロジェクターの世界では、画質に加えて、機能性、設置性、扱いやすさなどが問われるが、ホームシアター用となると、動作音の静けさも極めて重要なチェック項目となる。ところが当時の液晶プロジェクターは、PCデータ表示用モデルがベースということもあって、この要望に応えられるモデルは皆無。明るく、大きな映像と一緒に、クーリングファンが豪快に回り、騒音をまき散らかす。映像・音楽作品を鑑賞するための道具としては、とても満足のいく代物とは言えなかった。
静けさ、画質、明るさ
すべてにシアター
クォリティを追求する
すべてにシアター
クォリティを追求する
VW10HTではその核心に、鋭いメスが入った。まず本体の構造だが、冷却ファンと排気口の物理的な距離をより長くするのが、静音設計の常套手段。そこで本体内に風の通り道、クーリングダクトを確保し、熱をファンで押し出してしまうことにした。本体底部には、取り付けられたシロッコファンで、外気を光学ユニット部に力強く押し込む。と同時に、補助のファンによって電源部、パネル部にも風が送られ、本体前面の穴、つまり排気口から温風(熱)が放出されるという仕組みだ。
【VPL-VW10HTのキーパーツ】

↑ワイドXGA(1366×768画素)の液晶パネル。ドライブ電圧の幅を広げることで、黒の再現性を高める

↑200Wの水銀ランプ。明るさ1000ANSIルーメンを出力する
実際、その動作音(ファンノイズ)は大幅に抑えられた。“劇的”とは言えなかったが、当時のレベルからすると、その静けさは感動もの。ファンノイズは残ってはいたが、遠くで緩やかに駆動させている印象で、耳ざわりにならない。エアダクトの前に手をかざした時の、指の間を通り抜けていく柔らかな温風が何と心地よかったことか。この穴がホーム用プロジェクターにとって不可欠なことを、実感することができた瞬間だ。
液晶パネルはワイドVGAから、ワイドXGAへと高解像度化を果たし、同時に、ユニフォミティ(白の均一性)の改善やゴーストの低減など、パネルとしての基本性能に磨きがかけられた。そして、当時、液晶プロジェクターの悩みの種だった“黒浮き”の問題に対して、オフ状態で黒が沈む低電圧駆動技術が導入された。実際のコントラストはけっして褒められるレベルではなかったが、いまにして思えば、液晶の高コントラスト化への取組みは、まさにこの時がスタート点。実際、その後、低電圧駆動という手法はプロジェクター用の液晶パネルに広く採用され、確かな成果をもたらすことになる。
ここで見逃せないのは、200Wという比較的な強力なUHPランプを使用していたのに関わらず、750ANSIルーメンという明るさに抑えられたことだ。これは明らかにPC用途で優先される輝度よりも、シアター用としての画質を優先したため。明るさ最優先というPC用プロジェクターの発想から抜け出し、RGBの色バランス、黒の締まり、あるいは均一な明るさを重要視し、シアター専用モデルとしてのクォリティを追求した結果だったのである。
【VPL-VW10HTの内部構造】

↑光学ブロック。レンズ後方では、3枚のLCDパネルが、プリズムを囲むようにマウントされている

↑冷却に利用する排気ダクト。ホームシアター専用モデルとして、ファンノイズの低減につとめる
画像処理には、当時、プロフィールPROでも採用され、高い評価を得ていた独自の倍速度表示技術、DRC-MF(デジタル・リアリティ・クリエーション−マルチファンクション)が投じられた。480iの映像信号が入力されると、まずDRC処理で960i(1440×960)の信号に変換され、そこから画素変換によって、1366×768(ワイドXGAの画素)が導きだされるという仕組み。液晶画素以上の情報を確保した後に、ダウンコンバートするため、無理のない画素変換が可能。なおSD映像(480i/p)入力限定で導入された「スルーモード/リアル画素表示」、いわゆるドット・バイ・ドット表示の搭載も大きな話題となった。
あくまでも当時のインプレッションだが、勢いのある清々しい映像のインパクトは強烈だった。S/N感、ホワイトバランス(緑が強い)、あるいは黒の締まりなど、画質的にはまだまだ詰めの甘さはあったが、画像の実在感、彫りの深さに新鮮な驚きを覚え、「とうとう、液晶もここまできたか」と素直に感じたことを、いまでも鮮明に覚えている。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐












