第6回(後編) ソニー 液晶プロジェクター VPL-VW10HT&VPL-VW12HT
進化し続ける大ヒットモデルは液晶の限界へと果敢に挑む
2年後、コントラスト、ホワイトバランスを改善したVPL-VW11HTが登場。基本デザインを踏襲したキープコンセプトのモデルチェンジだったが、液晶パネル、光学回路、あるいは電気回路が大幅に見直され、トータルとしての表現力に磨きがかけられた。
黒から中間調、さらにハイライトにかけてのグラデーションの確かさといい、高純度かつニュートラルな色再現といい、液晶プロジェクターとしてはひじょうにレベルが高く、まさに円熟の領域に達しているかのように見えた。その完成度の高い映像を目の当たりにして、私は正直言って、このカタチではもう次のモデルはないだろうと思ったほどだ。
ところがソニーのプロジェクター技術陣は、まだ完全に満足してはいなかった。液晶でさらに上の世界があると確信し、より完成度の高い液晶プロジェクターの開発に日夜取り組んでいた。そしてVW11HTの登場から約1年後、VPL-VW12HTを完成させたのである。
【VPL-VW10HTの映像端子と回路基板】

↑プロジェクターとして初めてDRC-MFを搭載する。白いラインで囲まれた部分がDRCのLSIだ

↑VW10HTの背面端子。コンポーネント/RGB(切替え)入力端子を2系統装備する。コンポーネントは、DVDのプログレッシブ信号にも対応
彼らが目指したのは、何と我々の間で「映像の神様」と讃えられていたマスターモニター、BVMの画質。いくら液晶プロジェクターの表現力が上がったと言っても、BVMの画質を追求するなんて、当時の常識では到底考えられないこと。しかしソニーでは新開発の液晶パネルの供給に目処がつき、「やってみようじゃないか」という機運が高まっていったのだという。
液晶は従来通り、1.35インチのワイドXGAパネルだが、液晶部の基板となるガラス層にマイクロレンズアレイが挿入され、ランプの集光率も大幅に改善された。普通に考えれば、画面全体の明るさが上がるわけだが、VW12HTでは当時としてはまだ珍しかったコントラスト補正フィルム(視野角拡大フィルム)の導入により、光線角度を絞り込むことに成功した。
その結果、光の資源を単なる輝度アップではなく、ダイナミックレンジの拡大に振り分けられるようになり、1000対1という高コントラスト化を実現。当時、一般的な液晶プロジェクターのコントラスト比(700対1前後)からすると、この数値は驚異的と言っていいレベルだった。
独自の4倍密表示技術、DRC-MFをはじめ、輝度ムラ、色ムラを抑える3Dガンマ補正、3次元Y/C分離回路、デジタルNRなどなど、画像処理部分はほぼ従来通り。ただPCによるRGBのガンマ調整、グリーン成分を光学的にカット(約25%)するシネマフィルター(同梱)、あるいは短焦点、長焦点のオプションレンズなどなど、VWシリーズとしての価値を高めるための工夫、アイデアが積極的に導入された。
液晶方式はホームシアター
プロジェクターの主力へ。
ソニーは、SXRDに襷を渡す
プロジェクターの主力へ。
ソニーは、SXRDに襷を渡す
ではVW12HTの画質はどうだったのたか。HiVi視聴室のリファレンススクリーン、HD130(スチュワート)に各種テストチャートを投映して、私はまず、トータルとしてのフォーカスのよさに加えて、ホワイトバランスが丁寧に管理されていることに感心させられた。あくまでも穏やかな画調を保ちながら、解像度もかなりよく伸びているし、輪郭もすっきりして力みがない。またホワイトユニフォミティも丁寧に追い込まれていて、グレーの階調部分にも特別の色が乗らず、実に自然な再現性が得られている。
そして余裕のあるダイナミックレンジと、フォーカス感の向上。これが奥行き方向の空間の描写、生々しい質感描写を可能にして、フィルム素材独得のうま味のようなものをよりダイレクトに感じることができる。このあたりは明らかに新開発の1.35インチのワイドXGAパネルと、一新した光学設計によるところが大きかった。
【製品スペック】
ソニー 液晶プロジェクター VPL-VW12HT
ソニー 液晶プロジェクター VPL-VW12HT


↑同梱のシネマフィルター
私のリファレンスDVD「恋に落ちたシェイクスピア」では安定感のある黒と、艶やかな色使いが印象的だ。グイネス・パウトロウの肌は透き通るほどの透明感で、汚れを感じさせない。ローライトのホワイトバランスも安定していて、色再現はニュートラル。「もう少し深い赤が欲しい」という思いも、付属のシネマフィルターを加えることによって、ほぼ満足するレベルに達していた。
ではBVMモニターにどのくらい近づいたのか。実際に、HiVi視聴室のBVMを横に置いて、両者の映像比較も行なってみたが、グラデーションの見せ方といい、色の見せ方といい、確かによく似ている。もちろん階調のきめ細かさや、色の緻密さ、あるいは細部の描きわけといった部分では同等とは言えないが、トータルとしての映像の見せ方には通じ合うものがある。堂々として、高品位。スクリーンに映し出された落ちつきはらった映像をを目の当たりにして、私は本格的な液晶プロジェクター時代の到来を確信したのである。
2度のモデルチェンジを経て、ホームシアター用プロジェクターとしての完成度を高めた液晶プロジェクター。VPL-VW10HTの開発は、当時ソニーにとって、ホームユースの主力だったブラウン管の“3管式”プロジェクターからの訣別だったわけだが、そこには「これからは“液晶”でいくぞ」というソニー技術の熱い思いが込められていた。
あれから9年の歳月が経過し、液晶プロジェターは日々進化し続け、いまやホームシアターユースの主力へと成長した。今日、VPL-VW60、VW200といった魅力溢れるモデルが存在するのも、あの時のVPL-VW10HTがあればこそ。
確かに黒は浮いていた。が、いろんな意味で、今後、液晶プロジェクターが発展、進化し、近い将来ホームシアターにとってなくてはならないものになるだろう、そんな大きな可能性を感じさせてくれるプロジェクターだった。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐












