第7回(前編) サンヨー ビデオカセットレコーダー VZ-S6000B
30年前にも起った
映像方式の覇権争い。
サンヨーが辿り着いたVCRの新境地とは?
映像方式の覇権争い。
サンヨーが辿り着いたVCRの新境地とは?
ブルーレイディスク(BD)とHD DVDの次世代フォーマットの争いは、本格的な普及期に入る前に意外にすんなりと終息したが、70年代の後半から始まった“VHS方式vsベータ方式”の家庭用ビデオ(VCR)主導権争いは、完全に決着がつくまでに約10年もの歳月が費やされた。
今回の主人公、サンヨーのVCRは、当初、ソニー、東芝、NECとともにベータ方式を採用し、FMチューナーの搭載、ミニコンポサイズの実現など、ユニークなモノ作りで存在感を示していた。ところが85年に発売したVTC-HF335というベータハイファイVCRを最後に、ベータ陣営から離脱。VHS陣営加入への準備に入ることになる。
【製品スペック】
サンヨー ビデオカセットレコーダー VZ-S6000B
サンヨー ビデオカセットレコーダー VZ-S6000B

●接続端子:AV入力2系統(S端子付)、AV出力3系統(S端子付)、デ・スクランブラー専用入力、デジタル音声出力(光)、検波入出力、ビットストリーム出力、ほか●特徴:セパレートコンストラクション、センダスト合金ヘッド、3次元デジタル・コムフィルター、ロジカルクロマキャンセラー、アドバンスドDCR、新ピクチャークリエイティブ、DBSチューナー内蔵、ほか●寸法/重量:W460×H154×D402mm/14.8kg
「ベータからVHSへの鞍替えをきっかけに、これまでの家庭用ビデオの常識を打ち破るような画期的なVCRを提案したい」。ビクター、松下電器、日立、三菱電機、シャープといったVHSファミリーに対等に与するには、後発の遅れを跳ね返してしまうようなインパクトの強いフィーチャーが不可欠と考えたわけだ。
最初にその思いを具現化したのが、完全フルローディング化を実現し、ベータVCRを思わせる小気味のいい操作性を手中に収めたSVH-700SD(88年発売)だった。「瞬感メカ」と名付けられたメカシステムは、単にレスポンスが早いだけでなく、早送り/戻し時でもテープをカセット内に戻すことなく、回転ドラムに巻きつけたまま(ローディングしたまま)の制御を実現。これが本当にVHSなのか、と疑いたくなるくらい俊敏な動作を実現し、それまでベータVCRの専売特許だったFRサーチ(早送り、巻き戻し中にサーチ画像が見られる)も可能にしてしまった。
さらに89年の春には、VZ-CS1で世界初のミッドマウントメカニズム(センターメカニズム)を完成。テープ走行メカニズムを本体中央にレイアウトし、システム全体の動作バランス、及び重量改善を図るという技術で、メカニズム自体の振動を分散しやすくなるばかりでなく、外部からの振動の影響も受けにくい。同時に、全面パネルの中央に大きなテープ挿入口が配置されることによるデザイン面の斬新さも大きな話題となった。
実はこのセンターメカには興味深い裏話がある。群馬県太田市に本社を置く東京三洋電機は、当時、北米市場向けにフッシャーブランドのVHSVCRをOEM供給していた。このビデオのメカニズムは、一般的なVHSVCR同様、本体の右側にレイアウトされていた。これに対して大阪府大東市の三洋電機で国内市場向けに生産されるベータVCRのテープ挿入口は左側。特に意識していたわけではないというが、両者のメカニズムレイアウトは真逆の関係にあったわけだ。
それが86年11月、三洋電機と東京三洋電機が合併。ビデオ事業は大阪の三洋電機に集約され、VHSVCRへの参入も決定。新しいサンヨーのビデオのカタチを模索していくなかで、左側と右側に分かれていたメカニズムを、本体の中央にシフトすることで、2つのパワーを1か所に集中させたことをアピールしたらどうか、という発想が生まれる。言わばセンターメカは会社合併の必然であり、サンヨーの新しい時代のVHSVCRの象徴として捉えることができるのである。
グランプリで満票を獲得した
数少ない進化型モデル
細部に渡る真摯なつくり込みで
旗艦機の有終の美を飾る
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以後、レスポンスの優れたセンターメカはS-VHS機を中心に着実に浸透し、サンヨーVCRの顔としてすっかり定着することになる。ただ1年もしないうちに、他メーカーが次々に追随し、最終的にはVHSの盟主、ビクターまでがセンターメカの導入踏み切った。その後、安価なVHSVCRでさえセンターメカを装備するなど、その有り難みは徐々に薄れ、ごく普通の技術として広く浸透していくことになる。
優れた技術として広く認知されたことは間違いないが、当初、サンヨーが目指したセンターメカ、フルローディングメカの本来の狙いとは明らかに違う方向に歩みはじめた。先駆者として、これまでのどんなビデオにも負けない高画質、高音質モデルを開発し、センターメカの明確な優位性を証明する必要がある。「センターメカ=サンヨー」のハイクォリティなイメージをより確かなものにするためにも、圧倒的な存在感を持つフラッグシップモデルの開発が急務となったわけだ。
【VZ-S6000Bのフロントおよびリア画像】

↑カセットドア部にマイクロダンパーを搭載し、スムーズな開閉と遮音性を両立。右に表示されている音声のレベルメーターやテープカウンターの表示は、ON/OFが可能

↑フロントパネル裏に用意されたコックピットスタイルの操作パネル。人間工学に基づいたパネル設計は、CS5000から継承されており、8プログラム自動編集など、機能面での変更はほとんど見られない。ただ、文字表記が日本語からアルファベットに変ったため、だいぶ違った印象を受ける

↑VZ-S6000Bの背面端子。AV入出力のほか、ビットストリーム入出力、検波入出力を装備する。
90年秋、サンヨーのビデオ開発陣の熱い思いに支えられて登場したのがVZ-CS5000である。本体の底に重量級ボトムシャーシを従え、メカデッキを振動吸収材で支えたフローティング構造にするなど、妥協することなくミッドマウント思想を貫いた記念すべきモデルだった。
専用メカの開発により、ジッター特性を追い込むだけでなく、標準/3倍モードとも低域の出力に余裕があり、摺動ノイズ(ヘッドとテープがこすれ合って生じるノイズ)が少ないセンダストヘッドを採用し、さらに現在最も進んだY/C分離回路と言われる3次元処理のデジタルフィルターを導入するなど、サンヨーの最上位機種に相応しい豪華な仕上がりだった。
そしてその翌年、VZ-CS5000で確立した技術をベースにリファインしたフラッグシップモデル、VZ-S6000Bが登場する。低ジッター化を徹底して追求したミッドマウントメカニズムをはじめ、MIG(メタル・イン・ギャップ)タイプのセンダストヘッド、3次元処理のY/C分離回路などなど、主要回路部分はCS5000を踏襲。外観もカラーリングがダーク系のグレーから明るめのシルバーに変わったくらいで、マイナーチェンジの域を越えていない。しかしながら実際は高性能BSチューナーの搭載とともに、クォリティを左右する細かな部分にありったけの贅沢な技術が投入され、VCRの命とも言える画質と音質で確実な進化を果たしていた。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐








