第7回(後編) サンヨー ビデオカセットレコーダー VZ-S6000B
サンヨーVCRの究極形。
成熟した映像と音に、
要素技術の集大成をみた
成熟した映像と音に、
要素技術の集大成をみた
では何が変ったのか。まずテープ走行の時間軸の揺らぎ、ジッター特性に磨きをかけるために、シリンダーをアモルファス合金薄膜でコーティングするという手法が導入された。これは業務用の世界ではすでに実績のある技術で、シリンダーと磁気テープとの摩擦係数を減少させ、テープ走行の安定化に貢献する。と同時に、アモルファス層が極めて硬質なため、シリンダーの経時変化が減り、ヘッドの磨耗が抑えられるという。
ヘッドについてはCS5000同様、MIG(メタル・イン・ギャップ)タイプのセンダスト仕様だが、ヘッドメーカーの強みを生かし、特性のバラツキを徹底して抑えた。当時、技術部長と一緒にS6000Bの生産ラインを見学したことがあるが、彼は「マグロに例えれば、このヘッドは本マグロのトロ。数百個作ったうちの1つ、2つの選別品です」。正直、にわかに信じがたい話だったが、その約1か月後、ある新聞で「ヘッドの供給が追いつかない」という記事を見かけ、「やっぱり」と納得したのを思い出す。
【VZ-S6000Bの制振対策】

↑重量級のアンダーボトムは、ハニカム構造のカバーで覆われ、ミッドマウントメカニズムを支える

↑サイドパネルは、裏側に音響用のダンピンウグ材を備え、振動の減衰と遮音性に効果を発揮する。
回路面では、色(クロマ)信号関係の回路が大幅に見直された。CS5000では、水平方向への色にじみや色ずれを抑えるDCR(Detected of Chroma Responce)回路や、色S/Nを改善するフィールド相関のデジタルCNRを搭載し、キレのいい安定感のある色を志向していた。
ところが、実際の映像を見ると、大面積部分のノイズはスッキリと抑えられているものの、色の輪郭が黒ずむ、細かい部分の色が抜ける、あるいは色味が回るなどの不自然さが時折感じられ、画像の品位に少なからずダメージを与えていた。そこでS6000Bでは補正回路に頼るのではなく、元の資源を増やすという発想に転換することにした(デジタルCNRはなし)。つまり手先の小細工で体裁を整えるのではなく、色そのものの解像度を向上させようと考えたのである。
サンヨーのビデオは伝統的に、輝度信号処理の巧さには定評があったが、色信号の扱いが上手とは言えなかった。これはソニー、東芝といったベータ陣営全体に言えたことだが、S6000Bがこの常識を見事に覆してしまった。高S/Nの輝度とキレのいい色がうまくバランスし、生々しいディテールに高純度の色がしっかりとしみ込み、実に新鮮で落ち着きのある映像を描き上げてみせたのである。
色信号を広帯域化したためか、低輝度部や広彩度部でわずかに色がナーバスになる傾向が見られるものの、色彩描写は実に豊かで、細部の描写にも不自然さがない。また、DCR回路の微小レベルでの効き具合を改善したため、色輪郭もスッキリと切れていた。色再現性に鋭いメスが入ったことで、前々から定評のあった輝度描写の優位性が最大限に生かせるようになったのである。
画像の安定感は圧倒的!
藤原陽祐のとことんシアターに
組み込まれた納得の逸品
藤原陽祐のとことんシアターに
組み込まれた納得の逸品
画像の安定感も文句のつけようがないほどハイレベルだった。当時、LDや衛星放送の映像に比べると、家庭用VCRの映像はどことなく不安定で、落ち着きのなさを感じることが多かった。これはジッターがなく、バースト、シンク(同期信号)がしっかりと管理されている標準信号と、そのへんが曖昧な非標準信号との違いからくるものだろうが、不思議なことにこのS6000Bにはその危なっかしさがない。恐るべき安定感だった。
これはもちろんメカニズムの良さを証明するものだが、3倍モード専用ヘッドの搭載を拒否し、オーソドックスなDA(ダブルアジマス)4ヘッドの採用に踏み切ったのも大きかった。当時、ジャストトラックヘッドと称して、DA4とは別に19ミクロン幅の再生専用ヘッドを装備するのが高級機の流行りだったが、サンヨーではあえてこれを否定。DA4+ハイファイ音声用ヘッドにフライングイレースヘッドが加わるというシンプルなヘッド構成にこだわった。
「確かに19ミクロンヘッドによるクロストーク軽減効果は認めますが、ヘッドが増えることによるテープ叩きの弊害は避けられない。両者を天秤にかけると、ヘッド数を抑えた方が画質メリットが大きいと考えたわけです」(技術部長)。アモルファス合金薄膜コーティング済みのシリンダーを生かすにも、多ヘッド化はNG。いかにもメカニズムを重要視するサンヨーらしい判断である。
【VZ-S6000Bの付属リモコン】

そのコメントを裏付けるように、S6000Bの映像は100インチでもドッシリとしてびくともしなかった。もともと鮮鋭感の高い、張りのある描写を得意とするVCRだが、画像の揺れを追放することによって、キリッとした締まりのよさが加わる。100インチ以上の大画面になっても、画像がピタリと止まっている。この安定感には度肝を抜かれた。
絵作りとしては見た目の解像感を無理に追求するようなことはしない。絵の張り、コントラスト感で見せるタイプで、あくまでも生成りなタッチで、生地の微妙なテクスチャーや肌のディテールを再現してみせた。基本的には多少のノイズはあろうと、NRに頼ることなく、力感のある、薄化粧の画像を楽しませるという手法が実に新鮮に感じられた。
3倍モードも悪くなかった。ヘッドのトラック幅を22ミクロン前後まで狭くした効果が、エッジ部分の静かさ、色の安定感となって表れていた。高域情報の描写はかなり意欲的だが、全体としてのS/N感とのバランスはしっかりと考慮され、静かで、落ち着きのある映像を描きだしていた。
音質は低域の量感をしっかり出すタイプで、分解能が高い。骨格のしっかりした押し出しのいいサウンドである。ゆったりとした音の出方で、神経質にならず、線がしっかりしている。前作のCS5000で気になったスイッチングノイズの問題も払拭され、見通しのいい音場がスムーズに広がった。
我が“とことんシアター”でも、S6000Bをシステムに組み込み、W-VHS、D-VHS VCRが登場するまでの数年間、ディープな付き合いが続いたわけだが、このVCRから学んだことは多い。特に大きかったのは、画像の安定感の重要性だ。単に画像が微妙に揺れないだけではなく、被写体の輪郭がキリッと締まり、確実さがあるS6000Bの映像は、細部、大面積を問わず、コントラストが力強く、自然な奥行き感がある。ジッターの多少と画質の関係を、このS6000Bから学んだのである。
画質、音質はもとより、編集機能を含めた機能性、俊敏に反応する操作性と、家庭用VCRとしての完成形を示した画期的なモデル。その実力は各方面から高く評価され、第7回HiViグランプリ、金賞の栄誉を射止めた。まさにS-VHS VCRの銘機であった。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐








