第8回(1) ビクター ビデオカセットレコーダー HR-20000
VHSの盟主ビクターが放つ
脅威の高S/N VCR
脅威の高S/N VCR
とにかくその傑出した表現力には度肝を抜かれた。映像の鼓動、息づかいがそのまま伝わってきそうなほど鮮度が高く、人肌もゾクッとするほどリアルに描きだす。
しかも目障りなノイズがほとんど見えない。空、大地といった平坦部、被写体を形作る輪郭、そして明から暗に移るシャドウ部など、ノイズが絡みやすい部分も、何もなかったかのように、涼しい顔ですっきりと再現している。
その滑らかさ、質感の高さといったら、これまでの家庭用ビデオに到底期待できるレベルのものではなかった。その落ちつきはらった映像の様子は、業務用VTR、D2フォーマットの絵に通ずるような印象さえ覚えた。
【製品スペック】
ビクター ビデオカセットレコーダー HR-20000
ビクター ビデオカセットレコーダー HR-20000

●接続端子:AV入力3系統(S端子付、前面1系統出力との切替え式)、AV出力3系統(S端子付、前面1系統出力との切替え式)、デ・スクランブラー専用入力(ビデオ2との切替え式)、検波入出力、ビットストリーム入出力、AFC入力、デジタル音声出力(同軸)、他●特徴:スーパーソリッドDDメカニズム、スーパークリスタル・プロヘッド(標準)、19μmセンダストHDヘッド(3倍)、デジタルTBC、3次元デジタル・コムフィルター、AIオートキャリブレーション、他●消費電力:59W●寸法/重量:W445×H170×D462mm/15.3kg
この空前の高画質は、いったいどんなふうに実現し得たのか。HR-20000とのつきあいは、こんな素朴な疑問を抱いたところから始まった。
当時、この型を聞いた時、すぐに思い浮かんだのがHR-S10000。3ライン処理のロジカル・コムフィルター(2次元処理の高性能Y/C分離回路)をいち早く搭載するなど、高度な画質改善技術を意欲的に投入したS-VHSビデオだったが、『編集マスター』としての基本コンセプトを明確にしていた。その流れからするとHR-20000も編集機能を充実させた高級S-VHSビデオということになるが、その予想は見事に外れた。
技術資料では「細部にいたる圧倒的な情報量とざわつきのない極限の低ノイズの両立を図った業界最高の高性能プレステージモデル」と謳われ、「高品位映像の高次元の画質は、各々の特性のトレードオフによってではなく、利用されていなかった新しい技術的資源を引き出すことによって達成される」と続く。そして最後は「HR-20000の誕生は、迫りくるホームシアター時代を一層加速させるばかりでなく、21世紀にわたるS-VHSの可能性を示すものと確信している」と結んでいた。
この内容からもお分かりのように、HR-20000は大画面再生に求められる画質、音質を徹底的に追求したモデルであり、編集マスターとして高い評価を得たHR-S10000とはまったく異質のものなのだったのである。
リールDD方式の採用で、
駆動ノイズを低減
安定したテープ走行を可能に
駆動ノイズを低減
安定したテープ走行を可能に
HR-20000の技術ストーリーは極めて明確だった。メカニズム、ヘッドといった磁気記録再生の要所となるアナログ要素開発に始まり、これに時間軸方向での自由な信号処理が可能で、基本的な特性改善が望めるデジタル要素開発を加えることよって、S-VHSの持てる可能性を広げるというもの。平たく言ってしまえば、当時、考えうる技術を存分に盛り込み、究極のS-VHSビデオを作り上げること。つまりこれがS-VHSの画質だ、音質だ、と断言できる家庭用ビデオをHR-20000に求めたのである。
ではこのスーパーマシンはいかに誕生したのか。まずテープを駆動するメカニズムだが、HR-X1で実績のあったスーパーソリッドメカをダイレクトドライブ(DD、※1)版へと発展させた。X1でもメインデッキの剛性及びテープパスの改善を図り、素早い応答性と安定したテープ走行を両立させていたが、HR-20000ではさらにその上をいく特性を求めたわけだ。
※1 ダイレクトドライブ(DD)とは、一般的に、モーターの回転力を間接的機構(ギアボックスなど)に頼らず、直接、駆動対象に伝達する方式。間接的機構を介さない分、低騒音で高効率。しかしながら、常にモーターの回転速度を一定に保つ工夫が必要となる。精度の高い高品質なモーターを使用したり、センサーを取付けて回転数を制御するなど。ここでいうリールDD方式では、リールモーターなど主要部分をDD駆動とし、他のドラムモーターなどはベルトやギアで駆動させている模様(メディアマーケティング部)
【HR-20000のフロントおよびリア画像】

↑シーリングパネル内には、画質や録音レベルの調整用ダイヤルがある。左のビデオ3端子は、入出力切替え式
↑シーリングパネルの裏面に、各種スイッチが備えられている。中央が、録画、停止、早送り/巻き戻しなどの基本的な操作ボタン。そのすぐ左には、オートキャリブレーションスイッチが用意されている。ワンボタンでテープ性能に応じた記録電流が、自動設定される。

↑背面には、2系統のAV入出力端子を装備する。また、デ・スクランブラーやMUSE/NTSCコンバーターのリターン入力はビデオ入力2と切り替えて使用する
従来の方式に比べ、どんなところが改善されるのか。まずリールDD方式はギア列で発生する振動外乱が抑えられ、応答性でも有利になる(早送り、巻き戻しサーチの切り換えが0.2秒、従来0.6秒)。さらに電気的テンションサーボの採用(※2)によって、供給側のリールとバンドブレーキ間との振動問題が解消され、テープのテンション変化を大幅に低減することができた。
※2 ビデオデッキにおいて、巻取りリール側にテープを巻き取る場合、適当なテープテンションを保つ必要がある。その為に、多くのビデオデッキでは、リール台にバンドブレーキが備わっていて、このリール台とバンド間に発生する摩擦力により、リール台の回転を制動している。ここでは、電気的にテンション制御する手法が用いられており、摩擦による振動が発生しない(メディアマーケティング部)
実際、テープ走行の安定化とともに、ゆっくり揺れる低域ジッターを約5dB改善。またリールDD方式ではテープ駆動時にギアから発するノイズがないため、高速走行と低騒音を両立しやすいという副産物も生まれた。ちなみに早送り、巻き戻しのスピードが約85倍(標準モード時)、T120のテープを約85秒で巻き戻す。速さとしては平凡だが、ほとんど音をたてずに立ち上がり、シュと止まる、その精密機器独得のスマートさに感動したものである。
同時に、629デジタルTBCの助けをかりて、標準モード33倍速(3倍モード100倍速)のハイパーストロボサーチ、画像の乱れの少ないスキューレスファインサーチ(標準:11倍速、3倍:33倍速)、早送り、巻き戻し中にサーチ画像が見られるハイスピードオープンサーチ(いわゆるFRサーチ)など、多彩なサーチシステムを確立した。また、テープをアンロード(カセット内にしまう)し、超高速で巻き戻すNF(ネクストファンクション)スーパーリワイド機能の搭載も、実際の操作性に大きなメリットをもたらしたのである(T120のテープを1分弱で巻き戻した)。
とにかくその静かさ、レスポンスの良さはずば抜けていた。当時の高級機、HR-X1が耳障りなノイズを発生したテープ挿入時、モード変換時などでも、ノイズレベルは低く、しかも安っぽくない。ここまで落ちついて、堂々とした佇まいを感じさせる家庭用VCRは初めてだった。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐








