第8回(3) ビクター ビデオカセットレコーダー HR-20000
情報量を表出させる
透徹で精緻な描写力
透徹で精緻な描写力
次は垂直、水平方向に時間軸方向を加えた3次元信号処理。帯域に余裕のない家庭用ビデオでは、限られた情報を生かしながら、いかにノイズを抑えられるかが高画質化の鍵となる。それには2次元方向の信号処理だけではどうしても限界があり、最終的には、解像度かS/Nかの厳しい選択を強いられる。
高級VCRで3次元処理のY/C分離回路システムが重用されたのは、解像度とS/Nをより高い次元でバランスしやすくなるため。HR-20000ではY/C分離だけでは飽き足らず、アダマールNR、カラーNRにも3次元処理技術を導入した。
【HR-20000のキーパーツ】

↑スーパーソリッドDDメカニズム。リールDD&電気的テンションサーボを搭載する。ガイドローラーは、ボールベアリング入り

↑3次元デジタルアダマールIC

↑ニューAIナチュラルカラーシステムIC
まずY/C分離だが、IC(東芝製の第二世代:YCS2)、基本設計はHR-X1で搭載した内容から大きな変更はない。しかし、そのクォリティを大きく左右する動き検出ソフト、入出力フィルターなどの大幅見直しにより、ディテイルの再現性、S/N感に磨きをかけた。また、動き検出設定の3段階マニュアル調整(高S/N、標準、動画)という新しい試みも取り入れられた。
ビクターが提案した高画質技術は空の星ほど存在するが、その中にあっても一際輝いて見えるのがアダマールNRだ。記録、再生時に輝度信号に付着した微細なノイズ(ほっぺたノイズなど、主にシャドウ部につくノイズ)を低減する画期的な回路だが、HR-20000では3次元デジタルアダマールへと進化させた。
帯域ごとに最適なNR量を設定するというアダマール理論をベースに、ノイズの周波数、レベルをきめ細かく検出し、フレームメモリーによる適応型の信号処理を行なうというもの。動きベクトル検出による動き補正も行なう本格派で、その効果はアナログ処理に比べ飛躍的にアップした。
そして3次元処理の仕上げは、ダイナミックカラープロセッシング。簡単に言ってしまえばフレームメモリーを用いたCNRだが、当時としては珍しい8ビット処理の豪華仕様。静止画、動画の適応処理も入念に行なわれ、不自然なボケの追放にも努力を惜しまなかった。
高画質回路のオンパレード
ベストバイに4年間君臨した
天井知らずの物量投入機
ベストバイに4年間君臨した
天井知らずの物量投入機
AIナチュラルカラーシステム(HR-Z1で搭載)の改良版が実用化されたことも、低レベルの微妙な色の再現性に大きな影響を与えた。元々の発想は、輪郭で色がにじむ、細部の色が出ない、曖昧になるなど、低域変換による色情報不足から発生する問題を、巧みな信号処理によって克服しようというもの。HR-20000では基本アルゴリズムが全面的に見直され、オリジナル信号の忠実を再生に大きく貢献したわけだが、とりわけ細かな濃淡の描きわけに威力を発揮した。
3次元のデジタル信号処理はビデオを確実に高画質化の方向に向けるが、万能ではない。動きのあるシーンでは3次元処理は不可能だし、無理をすれば不自然なボケが生じ、かえって見づらくなってしまう危険性すらある。いわば3次元処理は諸刃の剣なのである。
そこでHR-20000ではAIオート、レンタル、ダビングというプリセットポジションに加え、信号処理の設定値を自分で選択し、メモリーできる(2パターン)ビデオステータス機能を採用することにした。
(1)Y-DSP(4段階)、(2)C-DSP(4段階)、(3)CNR(オート/切り)の3つのパラメーターの変更が可能。(1)は3次元デジタルアダマール、ベクトル追尾シグナルシェイパー(デジタル信号処理特有の残像を抑える)という2つの回路を、(2)についてはデジタルピュアカラーシステム、AIナチュラルカラーシステム、3次元ダイナミックカラープロセッシングという3つの回路をそれぞれ制御する。
各々の設定値によって実際の映像がどの程度変化するものなのか、HiViの特集でチェックした覚えがあるが、予想以上の変りように驚かされた。Y-DSP、C-DSPとも最も弱い設定となる「1」を選択し、CNRを「切り」にすると、ディテイル情報が克明に再現されるようになり、画像のフォーカスもシャープになる印象を受けた。それを「2」、「3」と上げていくと、徐々にソフトフォーカスの方向振られていく。
「究極のS/Nを求めた」(開発担当者)というY-DSP、C-DSPともに「4」、CNRオートの設定では、さすがにかなり甘口の描写で、残像も見える。とは言え、ノイズのざわつきを一掃した汚れのない映像を前に、一瞬、息をのんだ。100インチの大画面映像は、実に清々しく、スクリーンにぴたりと張りついて微動だにしない。
【HR-20000のリモコン】

↑ビデオプラス対応(テレビの操作も可能)の付属リモコン。ジョグ&シャトルダイアルも備えている。左写真は、上のパネルを開いたところ。通常の録画予約はこちらで行なう。
当時話題だったPCM音声記録は技術的にHR-Z1から大きな進化が望めないという事情もあって、見送られた。衛星放送エアチェックカーとしてはちょっと寂しかったが、画質一筋というHR-20000のコンセプトからすると、順当な選択だったのだろう。
しかしハイファイ音声への投資は惜しんでいなかった。帯域的に近いカラー信号とハイファイ信号との干渉(カラーの混変調ノイズ)を低減するために、PCM音声フォーマットの技術でもある高周波バイアス記録を採用したわけだが、HR-20000ではさらに混変調ノイズに対してより高い効果が望めるダイナミックディストーションキャンセラーという技術を開発した。考え方としては、信号の記録波形を逆位相で入れてやるというもので、各信号の干渉が大幅に低減できたという。そのサウンド低域がゆったりと再現され、しっとりとした質感を持ち合わせていた。ただ漲るようなエネルギーを強くアピールするタイプではなく、あくまでも奥ゆかしく、絹ごしの滑らかさが魅力のサウンドだった。
画質、音質ともに、その堂々とした、豊かな表現力は、S-VHSビデオの常識を大きく越えるものだった。
オーディオビジュアル評論家 藤原陽祐








