Audyssey Laboratories,Inc×麻倉怜士

映画の本場でサラウンドを徹底研究。感動的な成果が家庭劇場に降り注ぐ

麻倉さんを驚かせた音! これぞ小さな巨人だ

South of Market Audio Dock
  • iPhone/iPodオーディオドック
  • South of Market Audio Dock
  • ¥45,000
  • (予価、写真のiPhoneは付属しません)
●型式:2ウェイ4スピーカー・密閉型●ユニット形式:10cmウーファー、1.9mmトゥイーター(×2)●接続端子:アップルドッキングコネクター、ミニフォーン端子、USB端子(iPod連携用)、ブルートゥース(A2DP)●寸法/質量:W130×H230×D230mm/4.1kg(梱包箱含む)●備考:アップルストア専売品●問合せ先:オーディシーラボラトリーズジャパン

 今回の取材でのもうひとつの収穫が、オーディシー初の自社ブランド製品、iPhone/iPod用ドックスピーカー、「South of Market Audio Dock」(サウス・オブ・マーケットとは、サンフランシスコの流行発信地の地名)だ。

 ひじょうに音がよい。低域の安定感、充実度が高く、しっかりとした堅牢な低域に、素直で飾らない中高域が乗る。iPod用スピーカーというと、アーティフィシャル(人工的)な音調の製品が多いが、本機は誠実な音だ。低域が豊かだが、膨満せずに質感がよい。

 オーディシーのコア技術としてマルチEQが鍵となっているのは当然なのだが、歪み感の少なさは次のふたつの技術が効いている。

 ひとつがユニットの挙動を予測し、歪みが出ないぎりぎりの振幅をさせる「BassXT」技術。 もうひとつが小音量時に通常のラウドネス調整のように低域だけ強めるのではなく、同時に中高域もブーストすることで、帯域バランスを整える「DynamicEQ」技術だ。

 このドックスピーカーは、Audyssey DSXと同じく、USCがこれまでの研究で得られた成果を製品にまとめたものだ。学究の徒がつくる音は、まことに真摯だ。



Audyssey DSX, MultEQ, Dynamic EQ, BassXTについて
オーディシー・ラボラトリーズ&麻倉怜士

Audyssey

ーディシー(Audyssey)は、2002年に音響工学での世界的な権威、南カリフォルニア大学(USC)の音響研究室から生れた音響技術開発企業だ。ロサンゼルスの中心部に本拠を置き、クルマで10分程度の距離にあるUSC内に専用研究室を構える。

 USCにおける膨大な研究成果は、まずは音場補正技術「MultEQ」(以下マルチEQ)にまとめあげられ、同社の基礎技術となった。マルチEQは、デノン、オンキヨー、マランツなどのAVセンターにすでに搭載されている。マルチEQは技術分野としては自動音場補正のひとつだが、ワン・アンド・オンリーの要素がふたつある。ひとつは、マルチポジション測定を行ない、周波数とタイムドメイン(時間軸)要素のパラメーターを加味すること。もうひとつは、FIRフィルターで補正を行なうことだ。

 前者は視聴環境全体を「エリア」として把握し、広いポジションでのスイートスポットを構築する狙いからだ。一点測定では、単に「点補正」になり不完全とする。マルチEQは「視聴空間全体」処理である。FIRフィルターは原理的に位相回転が僅少なので、フィルターからの影響も最小になる。補正カーブは、フラットも選べるが、同社はオリジナルのカーブを推奨している。カーブの詳細は非公開だが、USCにおける数多くの研究、特にハリウッドの映画音響のサウンドエンジニアや音楽のミキシングエンジニアとの協力により、開発されたカーブという。映画の音を正確に再現する技術として高く評価され、マルチEQをベースにしたプロ用バージョンは、IMAXシアターにも採用され、その高音質を支えている。

 オーディシーはマルチEQをコア技術として、さまざまな音響関連技術を発展的に開発している。詳しくは別掲のコラムを参照していただきたいが、AVセンターだけではなく、テレビなどに採用例が増えてきている。USCでの膨大な研究成果を新世代の家庭用音場モードとして開発されたのがオーディシーDSX(Dynamic Surround Expansion)だ。マルチEQがあくまでも「サラウンド再生環境の高品位化」を狙うものとすれば、DSXは、ソースの5.1(7.1)chにワイドとハイトの新チャンネルを加えている点が革新的だ。

  • オーディシー特集の前編
USC(南カルフォルニア大学)内のオーディシー本社&ラボ
↑取材は、ロサンゼルスの中心部にあるオーディシーの本社ならびに同社のラボラトリーがあるUSC(南カルフォルニア大学)内で実施。ラボは、実験機能を兼ね備えたふたつのスタジオから構成され、ラージルームではジェネレックのアクティブスピーカーを用いて、フロントワイド&フロントハイト付き10.1chのシステムを装備。そこで取材陣に同社技術の粋を披露してくれた

オーディシーの創立者トムリンソン(トム)・ホルマン
↑オーディシーの創立者のひとり、トムリンソン(トム)・ホルマンさん。かつてルーカス・フィルムでチーフ・エンジニアをつとめ、THXシステムの基礎を開発したことで高名(THXとは、ジョージ・ルーカスのデビュー作『THX1138』と、氏の頭文字に由来している)。現在、オーディシーのチーフ・サイエンティストであるとともに、USCでシネマスクールの教授でもある

Audyssey Laboratories, Inc.
オーディオビジュアル評論家 麻倉怜士さん、AudysseyのCTO クリス・キュリアカキスさん、オーディシー日本事務所 山中幹大さん
↑オーディシーのCTO(最高技術責任者)で、創業者の一人、クリス・キュリアカキスさん。音声信号処理のスペシャリストであり、オーディシーで主要な技術開発におけるリーダー。USC(南カルフォルニア大学)でデジタルオーディオ信号処理のクラスを持つ。写真右は、日本事務所の代表をつとめる山中さん

どう音がホールに響くか実験/測定/解析を重ねる

 DSXはいかに開発されたか。それを知りたくて、私はUSC工学部音響学視聴室にいた。「携帯電話は切りましたか? 視聴途中で鳴ると、意識が乱れますから」とオーディシーの創業者兼技術最高責任者(CTO)にして、 USCの音響学教授のクリス・キュリアカキス氏が言った。そこは完全暗黒であった。明るいと目がスピーカーの位置を見ることで視覚の要素が入るからだ。「ここでは基本の7.1chに加えて前方60度位置にワイドch 、水平30度・上方45度にハイトchを置いています。ではこのボストン郊外の教会で収録した合唱音楽を聴いてみましょう。基本の配置、ワイド、ハイトの順番で再生します」。7.1chにサイドを加えると、合唱の響きがひじょうに濃密になり、色彩感も大幅に増した。さらにハイトを加えると、教会の高い天井にこだまする美しい響きの浮遊感が格段に際立ってきた。

「本物の音場を正確に再現するには、どのようなアプローチをしなければならないか、われわれは長年、実験と研究を重ねてきました。そこでワイドとハイトchがどうしても必要だと分かりました」とクリス氏が言った。重要事は、このふたつの追加チャンネルは、角度は違うがいずれも前方にレイアウトされることだ。従来の5.1から7.1へのチャンネル数増加は、いずれも後方方面の拡充であった。しかしクリス氏に言わせると、それは違うのである。

「聴感では圧倒的に前方の音が重要であることが、研究の結果、分かりました。したがって、サラウンドでは前方の音場を緻密に、充実させることが、何にも増して優先されるべきです。サラウンドバックのような後方位置への追加は、あまり効果がでません」。これは従来からのサラウンドの常識を覆す知見である。本当にそうなのか?