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HOME > AVID VENUE S6L E-Girls 全国アリーナツアーの枢軸を担う

アナログ方式の製品が主流だった時代から、これまで長くSRに携わってきたが、新製品の登場にはいつも心が揺れた。
スペックや新機能はむろんのこと、最新技術や新規素子の採用で、待ち焦がれていた製品の場合なおさらだった。これで思い描いていたミキシングが容易に実現する、しかしはたして使いこなせるのか否か。実機を目の前に考えに考えて、新しい提案を受け入れようと心は喜びと不安の間を往き来したものだった。
「AVID」社の新しいデジタルコンソール「VENUE S6L」を初めて見たのは昨年、フランクフルトで開催された「Prolight + Sound 2015」でのこと。参考出品されていたのだが、展示だけでなく予約をすれば短時間ではあったが実際に触れることができるというもので、常に人が途切れず人気を見せていた。外観も旧モデルを忘れたかような面立ちを持つ刷新ぶりで、本番で使ってみたい衝動を抱くには充分だった。そして今年、2016年に日本でも顔を見せ、現場で稼働が始まっている。今回は「エムエスアイジャパン東京」の岡本貴則氏および菅原拓也氏、そして「S6L」を扱う「オーディオブレインズ」山下修氏に話を聞いた。
テキスト:半澤公一
撮影:土屋 宏
コンソールに求めること
プロサウンド(以下、PS) 今日は「エムエスアイジャパン東京」、PA6課の岡本さんに「VENUE S6L」についてうかがっていきます。よろしくお願いいたします。
 はじめに岡本さんのプロフィールについて教えてください。生年月日とご出身、またPAとの出逢いを。

岡本 1982年11月29日、出身は愛知県になります。PAとの出逢いは、以前名古屋で設営などスタッフのアルバイトをやっていたときです。コンサート会場にいる、いわゆる「バイト君」ですね。その時、いろいろな音響カンパニーのお手伝いもするわけですが、「エムエスアイ」の方々がとても良くしてくれたのです。そうしたことが後押しにもなってPAという職種を意識しました。

PS なかなか興味深いですね。そこで本格的に目指そうとしたきっかけとはどうしたことだったのでしょうか。

岡本 そのアルバイトでの現場先、つまりライヴ会場で音を聴いていて、音楽をまとめ上げて観客に提供することや、逆に観客からの反応で音が良かった、あるいはすごく楽しかったとキャッチボールできたら良いなと、 そこで決心をしています。

PS 舞台の上で観客から拍手をもらう立場よりも裏方のほうへ目が行ったと。

岡本 そうですね。実を言うともともと報道カメラマンをやりたかったのです。それは分析すると緊張感のあるところ、と言うのでしょうか。最前線にいたいといったイメージと思っていただければ。

岡本貴則氏
岡本貴則氏
PS 特に大きな会場で、何万人という客席のなかで、さあこれから! といった時などまさにそれに通じるものがあるかも知れませんね。キャリアという流れでは「エムエスアイ」さんからのスタートでしょうか。始められてどのくらいに。

岡本 専門学校を出まして、この会社からPAの仕事を開始しています。20歳の頃からですので、かれこれ13年くらいになりますね。

PS これまで印象に残るお仕事と言うことでは。

岡本 今回のE-girlsを含め、ゆず、ドリカムといった、おかげさまで多くの著名なアーティストに携わってくることができましたが、私自身のなかでは小柳ゆきが印象に残っています。会社に入って最初のツアーでしたし、ステージから始まってモニターへと移り、最終的にはハウスミックスまで担当させていただきました。その間およそ10年くらいでしょうか。長いお付き合いがありましたね。

PS ひとりのアーティストですべてのセクションを歴任されるというのは珍しいことではないでしょうか。そうしたなか、岡本さんが普段現場へ出るにあたり大事になさっていることとは。

岡本 やはりその時の立場立場でベストを尽くすことかと思います。ステージ担当の頃はアーティスト本人が映えるようにスタンドを磨く、あるいは収録がある日には全体を見渡して舞台をきれいにしておくなど、そしてミックスをする立場では、良い音を出すことはむろん大前提。加えて明るく元気に(笑)でしょうか。現場は何より楽しくないといけないですね。

PS ではコンソールに話を移したいのですが、「S6L」のことをうかがう前に少し教えてください。岡本さんがミキシングボードを操作する際、コンソールにはどういった条件を求めていらっしゃいますか。

岡本 もちろん音の良さは大事なのですが、やはり操作性を重視したい。ほかにはみなさん同じでしょうが、やはりトラブルは避けたいですね。

PS 岡本さんはミキシングをデジタルコンソールでスタートされた世代になりますか。

岡本 ちょうど切り替わりにかかる狭間でした。したがってアナログコンソールも使っています。「MIDAS Heritage3000」や「ヤマハPM4000」などを多く使いました。その後は「ヤマハPM5D」などでデジタルに移行し、さらに「AVID」製を使うようになりました。

PS お感じになっているデジタルコンソールのメリットなどはいかがでしょうか。

E-Girls とともに全国を巡回した「VENUE S6L」
E-Girls とともに全国を巡回した「VENUE S6L」
岡本 アナログからの移行では思いのほかスムースでしたし、特に難しく感じることもありませんでした。デジタルになってのメリットはやはりどの会場へ行っても毎回同じ環境からスタートできること。シーンの記憶ですね。これは大きいところかと思っています。アナログでは難しいですね。

PS 逆に現状での不満などはいかがでしょうか。

岡本 アナログコンソールは自重があり、仕込みも一仕事でした。デジタルになってこのあたりは改善されたかのように見えたのですが、最近大型になると軽量と呼べるほど軽くはありませんね。今後このあたりは改善されるとうれしいところではあります。

「S6L-32D」は幅1035mmと34フェーダー搭載モデルとしては適度な余裕を持たせたデザイン。重量約70kg。写真はインプットセクションだが、各チャンネルの必要な情報が液晶表示と併せて違和感なく機能的に網羅されている
サーフェス上の表示はカラフルかつ高輝度できわめて視認性が良い。搭載される液晶は日光下でも表示性能が低下しにくいとされる高解像度「OLED」タッチスクリーン。精細な描画能力と相まって、引き締まった表情を演出する
今回使用されたコントロール・サーフェス「S6L-32D」のマスターセクション。さまざまな機能が効率よくまとめられ、前機種よりもスマートに仕上がっている。後発機器だけあって、スペックに現われない進化も見逃せない
今回使用されたコントロール・サーフェス「S6L-32D」のマスターセクション。さまざまな機能が効率よくまとめられ、前機種よりもスマートに仕上がっている。後発機器だけあって、スペックに現われない進化も見逃せない
サーフェス上の表示はカラフルかつ高輝度できわめて視認性が良い。搭載される液晶は日光下でも表示性能が低下しにくいとされる高解像度「OLED」タッチスクリーン。精細な描画能力と相まって、引き締まった表情を演出する
「S6L-32D」は幅1035mmと34フェーダー搭載モデルとしては適度な余裕を持たせたデザイン。重量約70kg。写真はインプットセクションだが、各チャンネルの必要な情報が液晶表示と併せて違和感なく機能的に網羅されている

これは本当にAVID?でも使い始めたらすぐ…
PS それでは「S6L」についてうかがっていきます。山下さん、このモデルが日本に入ってきて、現場で使い出せるようになったのはいつ頃になりますでしょうか。

山下 催しとしましてはE-girlsは極めて早いタイミングなのですが、発表自体は昨年のInter BEEで行なっています。2015年年末のアップデートを経て実際の現場で数日テスト運用を終えいけそうだと。そうした下凖備を整えて今回に臨んでいます。リハーサルのスタートが年明けて間もないタイミングだったと記憶しています。

PS 岡本さんはそのリハーサルで「S6L」と初めての顏合わせなさったのでしょうか。前評判や噂にも勢いがありましたね。

岡本 事前にいろいろと話は聞いていましたが、実物に接したのはリハーサルの直前で、「これは本当にAVID?」といった変貌ぶり…外観がすっかり変わり驚きでした。

PS 新しいコンソールということで、トレーニングなどはどういった方法で行なわれたのでしょうか。

岡本 山下さんのところ(オーディオブレインズ)からスタッフをスタジオへ派遣していただいて対応をお願いしています。

山下 ところが行くには行ったのですが、実際は担当が1日で帰ってきまして(笑)、すぐに使えるようになってしまったと。一週間、予定を組んでいたのですが、すぐに終了した経緯があります。

PS それは何故にまた?

岡本 いざ使い始めてみると、 以前のモデルと中身がほぼ変わらない構成でしたので、 あぁこれなら大丈夫だろうと思いました。

PS 以前のモデルというと「Profile」になりますか。

岡本 そのとおりです。見た目や操作アプローチはすっかり違うのですが、コンソールの考え方や構成要素にほとんど変化がなく、迷うことはありませんでした。

カラフルな盤面色づけのない音質
PS 山下さん、先日の「代々木第一体育館」で現場稼働を初めて拝見したのですが、視認性が良いというのか、とにかくカラフルで盤面が明るいですね。アウトラインを旧モデルから大きくチェンジさせた意図は何かあったのでしょうか。

山下 以前「Profile」がリリースされた時にも派手だと言われたものですが、ここ10年くらいのトレンドと言いますか、他社製コンソールを見ますと、まず画面を多用している点、また中央付近でせり上がるデザインも多いですね。後発と言うことで、そうした流れを睨んで良いところを採り入れた結果かと思います。ただもちろん先にも話が出たとおり、旧「VENUE」シリーズに慣れている方にとっては取っ付きやすい、操作アプローチを引き継いでいることも、またもうひとつの特徴と言えます。

複雑な舞台構造のため、今回のハウスブースはアリーナ面ではなく階上層に設置された。岡本氏と菅原氏はステージを見下ろしながらの作業に
複雑な舞台構造のため、今回のハウスブースはアリーナ面ではなく階上層に設置された。岡本氏と菅原氏はステージを見下ろしながらの作業に
I/Oラック「Stage64」の背面。最大64in/32outの機能を持ち、搭載するカードスロットは12基を備える。ここの性能良否がSRとしての品位の如何を支える。サーフェスに目を奪われがちになるが、影の立役者となる重要なポジション
I/Oラック「Stage64」の背面。
最大64in/32outの機能を持ち、搭載するカードスロットは12基を備える。ここの性能良否がSRとしての品位の如何を支える。サーフェスに目を奪われがちになるが、影の立役者となる重要なポジション
PS 岡本さん、これまでも「AVID」製のコンソールを使ってこられて、どのような印象をお持ちでしょうか。

岡本 大きな特徴は、その音質だと思います。ナチュラルで暖かいサウンド傾向で、原音に忠実と言うのでしょうか、コンソールによって色付けされる傾向は感じませんでした。その上でプラグインを使って好みに仕上げて下さい、といったアプローチであったと認識しています。ただ「S6L」は音については以前とはまったく世界観が違いました。

PS 興味深いですね。そのあたりは後ほどじっくりと教えてください。今回のツアーで「S6L」を使おうとなさったきっかけや決め手となったのは?

岡本 きっかけは当社の機材担当からの薦めでした。不安が無かったわけではありませんが、「AVID」の信頼性を買って使ってみようと。新しく出てきたモデルですし、必ず良い点があるはずという恰好です。
 決め手になったのは、使用するデータが旧モデルと互換性を確保していたことです。データの引き継ぎができますし、もしものことがあっても簡単に旧モデルへも戻れます。

PS それは安心感が大きいですね。それでは大事な部分のひとつとなるサウンド面での印象を聞かせてください。

岡本 フェーダーを上げた瞬間、粒立ちが良いというのでしょうか、音の存在感が明確です。0.5dBというと少々大袈裟かもしれませんが、わずかなフェーダーの動きが如実に識別でき、また今回の代々木会場ではスピーカー・システムに「MLA」を使ったことも関与しているのかも知れませんが、高域の伸びが顕著で、かつきれいな質感であるところが大きな特徴かと思っています。したがって今回の演目で主となるシーケンス系の音源などではローパス・フィルターを使って高域をうまく制御しながらのバランス構築が必要になっています。

舞台側に設置されるI/Oラック「Stage64」。ここでAD変換されたシグナルはオプティカル信号に変換され、コントロール・サーフェスへは変換なくダイレクトに接続される。トラブル要因の回避と、何より高音質が期待できる。今回はサンプリング周波数96kHzで運用
舞台側に設置されるI/Oラック「Stage64」。ここでAD変換されたシグナルはオプティカル信号に変換され、コントロール・サーフェスへは変換なくダイレクトに接続される。トラブル要因の回避と、何より高音質が期待できる。今回はサンプリング周波数96kHzで運用
PS 高域を必要に応じて適度に丸めながらミックスすると。これまでローパスはもちろん使いましたが、多用するほどでも無かったかと思うのですが。

岡本 バンド形式の生楽器を扱うとまた違うのかも知れませんが、少なくとも今回は思いのほか使っていますね。旧「Profile」ではハイパスはありましたが、ローパスは搭載されていませんでした。「S6L」は標準装備になっているのです。

PS ほかに何かサウンド的に、これまでと違う印象を持たれた部分ということでは。

岡本 直接出音には関与しないのですが、 ヘッドフォンアンプがとても良くなりました。 音量を上げてもまったく歪みません。驚きました。

山下 やはり新規設計となりますので、これまでのウィークポイントはすべてクリアされています。

PS やはり「進化した」感触がありますでしょうか。

岡本 むろんです。進化の歩幅が大きくて、ミックスに慣れるまで少々戸惑う部分もあるくらいです。音の分解能や分離度がきわめて高いので、今回のE-girlsにおけるミックスではまだまだアプローチできることが沢山あると感じています。

「代々木第一体育館」公演でのみ急きょ出番となった「MLA」スピーカー・システム。ここでも優れたコントロール能力を遺憾なく発揮
「代々木第一体育館」公演でのみ急きょ出番となった「MLA」スピーカー・システム。ここでも優れたコントロール能力を遺憾なく発揮
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