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HOME > 前方に音が並び広がる!ヘッドフォンの革新的サウンド

前方に音が並び広がる!ヘッドフォンの革新的サウンド クロスゾーンCZ-1はこうして誕生した インタビュー・構成=小原由夫 Photo=土屋宏
クロスゾーンCZ-1
●型式:密閉型 ●インピーダンス:75Ω ●周波数特性:20Hz〜40kHz ●感度:97dB ●ケーブル長:3.5m(標準プラグ)、1.5m(ステレオミニプラグ+変換アダプター)●質量:約485g ●発売時期:2016年6月
問㈱トライオード ☎ 048(940)3852


 既成のヘッドフォンに不満を感じる人は、主に次の3点に違和感を感じていると思われる。

①サウンド・バランスの不自然さ
②頭内定位の不自然さ
③装着感の不自然さ

 クロスゾーンCZ-1のゴールは、これら3つの不満点をすべてクリアし、室内での一般的なスピーカーリスニングに近似した“自然で疲れない音”の実現である。

 こうしたコンセプトは、どのメーカーも掲げる至極当たり前の内容に私には思える。しかし、すべてにおいて満足できるヘッドフォンは、現実には存在しない。個々の点で独自の創意工夫がされているにせよ、長年に渡って各々のメーカー/ブランドのイメージや方向性がほぼ固定されており、新しい冒険がしにくい状況にあるといえよう。

ワン・アンド・オンリーを目指して開発されたヘッドフォンCZ-1
 クロスゾーンは新規メーカー、失うものは何もない。世界に何百種とあるヘッドフォン市場に新たに打って出るのに、他とは違う尖った部分がなければいけない。スピーカーから再生される音楽を部屋の中で聴いているような自然なヘッドフォン、長時間聴いていてもストレスがなく、リラックスできるヘッドフォンを作ろうと、開発を統括したプロジェクト・リーダー役の亞洲光学㈱商品企画本部の西谷泰浩さんはチームをまとめた。

クロスゾーンCZ-1の開発に携わった方々
亞洲光学(株)
商品企画本部
本部長
西谷泰浩さん
亞洲光学(株)
AHP プロジェクト顧問
大崎博文さん
(株)トライオード
社長
山崎順一さん
クロスゾーンCZ-1の開発に携わった方々
クロスゾーンCZ-1の設計開発及び音作りに携わったスタッフ陣たち。左から浜田博幸さん、今井直史さん、高橋智也さん、唐沢孝行さん、そして大崎博文さん
 「弊社はプロジェクターやカメラのレンズのOEM生産を主な業務とする企業ですが、近年のスマホの躍進などによるデジカメ市場の規模縮小に伴い、新規事業を模索していたところでした。そこでヘッドフォンに取り組むことが決まり、チーム全員でディスカッションを重ねていく中でキーワードとして持ち上がったのが、『自然』という言葉でした。他と同じようなヘッドフォンを作ったところで埋もれてしまう。ワン・アンド・オンリーの独自製品を作りたいという思いを、CZ-1に込めたのです。そして、音響機器専門の会社としてCROSSZONE社を設立しました」

 開発に携わったエンジニアは5人。その中にパイオニア出身のスピーカー技術者が二人居る。浜田博幸さんと大崎博文さんだ。2014年6月から約2年の開発期間を経て誕生したCZ-1は、しかし当初は現在のような形ではなかった。私の目の前にはゆうに10は超える数のヘッドフォンのバラックが並んでいる。2年間で検討された試作品の数々だ。中には既成のヘッドフォンの背面に穴を開け、そこにパイプを糊付けして別ドライバーを固定したものもある。それらの検討を経て、頭外定位の手応えが見えてきたのは、議論を始めてからほぼ半年、2014年の年末頃で、残る1年でそれをいかに自然なサウンド・バランスと掛け心地にするかを試行錯誤した。大崎さんが述懐する。

スピーカーリス二ングを基本に右チャンネルに左チャンネル、左チャンネルに右チャンネルの音成分をそれぞれミックス
「スピーカーで音楽を聴く場合、右の耳には、右のスピーカーからの音も左のスピーカーからの音も入ってきます。しかし、ヘッドフォンでは右の耳には右の音しか入ってこない。ここが双方の一番の、最大の違いです。極論すれば、スピーカーと同じそうした現象をヘッドフォンで実現するのはひじょうに難しいと、CZ-1の開発で痛感しました。浜田はかつてイヤフォンで研究していた頭部伝達関数に活路を見出していましたが、そこに単純にDSP技術を持ち込むことは違和感があったんですね。浜田も私にも、リスニングルームの大切さも知り、スピーカーに長年携わってきた意地がありますから。そこで、著名な研究施設が提供するダミーヘッドでのデータではなく、生身の人間が実際に聴くような状態での頭部伝達関数のデータ採取に臨んだのです。あくまでアコースティックなアプローチで」

 スピーカーリスニングポジションに実際に人がいる場合といない場合とで測定し計算すると、頭部伝達関数がわかる。それを踏まえたドライブシステムを開発すればよい。しかし、別のドライバーを用いて反対チャンネルの音を合成させようという、CZ-1の最終型の技術的発想は、当初なかったという。この『クロスフィード技術』を導入するか否かで大議論が交わされたのだ。

こだわりのパーツ
低音用の40mm径と高音用の23mm径の主音源再生用ドライバーに加え、逆チャンネルの音源を再生するドライバーを組み込んだART(アコースティック・レゾナンス・テクノロジー)を採用し、前方定位を実現している
低音用の40mm径と高音用の23mm径の主音源再生用ドライバーに加え、逆チャンネルの音源を再生するドライバーを組み込んだART(アコースティック・レゾナンス・テクノロジー)を採用し、前方定位を実現している
イヤーカップ内の防塵には岡谷シルクが採用されている
イヤーカップ内の防塵には岡谷シルクが採用されている
ヘッドバンドにはマグネシウムダイキャストを採用。誰が装着しても最適な側圧が得られ、長時間のリスニングでも疲れない工夫が施されている
ヘッドバンドにはマグネシウムダイキャストを採用。誰が装着しても最適な側圧が得られ、長時間のリスニングでも疲れない工夫が施されている
付属の専用ケーブルはツイスト構造。アンプ側のプラグから8芯(4芯×2)構造を起用し、左右のセパレーションを確保している
付属の専用ケーブルはツイスト構造。アンプ側のプラグから8芯(4芯×2)構造を起用し、左右のセパレーションを確保している
専用ケーブルは標準プラグ仕様が引き回しても余裕のある3.5mの長さ
専用ケーブルは標準プラグ仕様が引き回しても余裕のある3.5mの長さ
ポータブルプレーヤーなどとの使用を見越したステレオミニプラグの方は1.5m仕様
ポータブルプレーヤーなどとの使用を見越したステレオミニプラグの方は1.5m仕様
 「単純に合成しても、音としてはまったく使いものにならない。また、ダミーヘッドでの頭部伝達関数のデータを適用したシミュレーションをしても、思う様な効果が得られない。元スピーカー技術者として、右のスピーカーに左の音を入れるというのは、理屈としてはわかっても、当初は音色の変化も大きく精神的に抵抗があったんです。そんなヘッドフォンがいい音を出せるのかと……。それを納得するまでにエネルギーをずいぶん使いましたね。しかし、とにかくトライしてみようという方針で決まってからは、とことんやろうと浜田と団結し“岡谷組”と協力し合い取り組みました。しかし、そこからがまた苦労の連続でね。CZ-1には変数といえるエレメントが5つある。トゥイーター(HF) とウーファー(LF)、逆に取り付けたクロスフィード(CF) 用のドライバーシステム、そして残響成分を付け足すためのトゥイーターとウーファーそれぞれの音響管、合計5つです。これらのパラメーターをどう組み合せるかが、とてつもなく難しい作業でした」

 開発プロセスは、浜田さんと大崎さんの“所沢組” が基本的な音質を練り上げ、長野県岡谷市の亞洲光学開発センターのエンジニア3名が頭外定位のパラメーターを追い込んでいく作業を平行して進めた。最も苦労した部分は、メインのHF、LF用ドライバーとCF用ドライバーの音圧バランスとのこと。分解したハウジングを拝見したが、3つのドライバーユニットは各々のレイアウト、取付け角度がカット&トライで決まったとわかる微妙な位置決めだ。迷路のごとく複雑に曲がる3つの音響管の長さや、内部のスポンジの充填などにもノウハウがある。

最適な側圧が得られるコイルスプリング構造の画期的ヘッドバンド
 こうして方向性が定まったところで各部の材料が決まっていった。ダイアフラムのベリリウム・コーティング、イヤーカップ内の防塵用の“岡谷シルク”の採用などがそうだ。ヘッドバンドも同様と西谷さんはいう。

Sound Impression 小原由夫 巧みにコントロールされたナチュラルな音を奏でる
クロスゾーンCZ-1の音を確認する小原由夫さん
 今回の取材で、CZ-1の音は3つのドライバーと2つの音響フィルターの合成で成立していることがわかった。その複雑な系をここまでまっとうな、自然なサウンド・バランスで完成させたという点にまずは脱帽だ。本機は頭外定位云々を別にしても、ヘッドフォンとしてたいへん優秀な性能だ。広い周波数レンジと高い解像力を有する。加えて低音に関しては、LF用ドライバーはフルレンジで鳴り、同口径のCF用ドライバーとパラレル駆動となって、実質的には約56mm口径ドライバーと見做すことができ、それが低音のしっかりとした骨格につながっている。

 頭外定位は、確かに頭の中に音像/音場が形成されるのではなく、こめかみの少し前辺りにステレオ・イメージが現われる印象だ。それに伴ってヴォーカリストは、ステレオ・スピーカー試聴で聴けるようなフォルム(厚み)を感じさせる。オーケストラも、一般的なヘッドフォンのように楽団が左右に鳴き分かれるのでなく、前方に並んで広がるイメージになるのでまったく違和感がない。

 片側だけでもドライバーが3つ入っているため、イヤーカップ自体にかなり質量があるという。取材時にヘッドバンド単独で持ってみたが、その驚異的な軽量化がもたらす貢献度は図り知れないと想像する。側圧のきつさと全体の質量の相関によって装着感が決まるとすれば、CZ-1のコンセプトは大当たり。こんなにストレスを感じない軽快な掛け心地のヘッドフォンは初めてかもしれない。
 「早い段階でヘッドバンドの研究と試作も開始しています。私個人は、ヘッドフォンの音質よりも、ずっと締め付けられていることが気になる。付け心地にこだわったヘッドフォンを開発するにはどうしたらいいかというアイディアを出しました。ある業界団体のデータによれば、頭の幅は老若男女で千差万別ということがわかり、なおかつ、東洋人と西洋人でも大きく違う。そこで独自に研究を進めました。通常用いられているバネ作用のヘッドバンドは、広げれば広げるほど側圧が強くなる傾向なんですが、CZ-1はヒンジ内にコイルスプリングの加圧構造を採り入れ、誰が掛けても側圧が変わらない機構を考えました。また、マグネシウム合金を多用することで軽量化を達成したり、イヤーパッドに『エクセーヌ』を用いて触感も考えました。8芯ケーブルは、反対側の音も足すこともあってL/Rの区分がないのが特色です」

 CZ-1の販売は、管球アンプメーカー/トライオードのチャンネルを使って全国展開される。同社の山崎順一社長は意気込みを語る。

 「普通の形式のヘッドフォンだったら、まず請け負うことはなかったですね。私も出張が多い身で、ヘッドフォンをよく使いますが、長時間装着していると往々にして疲れる。CZ-1のコンセプトを聞き、試作品を試聴して、ステレオ・イメージが従来と全然違う。これはおもしろい、新しいヘッドフォン・オーディオの核になるんじゃないかというくらいに可能性を感じました」

 従来の常識に捉われないヘッドフォンCZ-1。論より証拠、こればかりは聴いて体験していただくしかない。



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