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新たなる音の地平 エラックから登場した新型JETトゥイーターの革命的進化とは? 麻倉怜士
エラックスピーカーの高音質を支えている、ワン・アンド・オンリーの蛇腹型JETトゥイーターが、10年ぶりにフルモデルチェンジを受けJETⅤになった。早速、新JETを組み込んだ新製品を聴いた私は、驚いた。実に豊かな実体感、空気感、生命力に溢れた音。私を深く感動させるに足る音だった。新しいJETは相当、凄い。それはなぜなのか。そんな問題意識から、新JETの正体を探る旅に出たのである。
エラックの代名詞ともなったJET(JET Emission Transducer)トゥイーター。通常のダイナミック型とは異なる動作原理を備えている、きわめてユニークなユニットである。オスカー・ハイル博士が提唱した「ハイルドライバー」を基本にしている。動作の仕組みは以下の通り。リボン状におりたたまれたカプトン(図のdiaphragm)が振動板で、そこにはボイルコイルパターンが蒸着されている。そのカプトンの背後に配置された磁気回路を通じて、ボイスコイルに電気信号を入力すると、振動板全体が伸縮し、リボンの折り幅の間隔が広がったり狭まったりして、空気を圧縮しながら押し出す(編集部)

エラックの音を形容するなら、「しなやかにして高剛性。情報量の多さと音楽性が見事にバランスし、凋密な描き方で、透明感が高く、音の調和をたいへん上手く再現する」。 

そんな緻密で音楽的なエラックサウンドを支えている独自のJETトゥイーターが、このほどフルモデルチェンジを受け、第五世代になった。エラックの音を日頃から愛好し、2008年には北ドイツは軍港都市キールの静かな住宅地に拠を構えるエラック本社に赴き、JETトゥイーターの製造現場をこの目でみてきた私は、JETがすっかり変ったと聞き、さっそくその正体を確かめたくなったのである。

今回、JETの革新とともに、スピーカーのふたつの新製品群も同時に開発された。ひとつが190ライン。2010年に発表された180ラインのリニューアル版、もうひとつがエラックとしての完全に新シリーズの400ラインだ。それぞれの2モデルに、第五世代のJETトゥイーターが搭載されたのである。トゥイーターも新規、システムも新規なのである。

試聴の前にまずはJETトゥイーターの歴史を振り返ってみよう。原理は1972年に音響学の権威、オスカー・ハイル博士が発明したハイルドライバーだ。通常のスピーカーは、円形のダイヤフラムを前後に高速振動させ、音波を発するが、ハイルドライバーのダイヤフラムは長方形で、ひだ状に細かく折り曲げられ、プリーツスカートのように、細かな山と谷がある。特殊な素材のダイヤフラム(JETではカプトン)に電極をプリントし、マグネットを配置。電極に電流を流すと波状のプリーツが開閉し、谷間で空気を吸排気することで、音波を出すという原理だ。

一般的なドーム型のトゥイーターに比べるとはるかに大きな面積のダイヤフラムから発音し、プリーツ動作で空気の圧縮、加速放射が繰り返され、周辺の空気を強力にドライブする構造から低歪み、優れた過渡特性、拡散性、ワイドな周波数レスポンスというメリットが引き出される。通常の円形ダイヤフラムでは避けられないピストニック・モーションにまつわる歪みとも無縁だ。JETとはJET Emission Transducer。つまりジェットエンジンのように空気の吸入、圧縮、噴出を行なう変換機という意味だ。

エラックの看板技術、それがJETトゥイーター
JET I
↑JETトゥイーターの第一世代「JETI」と第二世代「JETII」は、磁気回路以外は共通。写真のJETⅠは、棒状ネオジウム磁石を8本採用している
JET II
↑JETIIは、棒状ネオジウム磁石を4本使っている。エラックが1998年に日本に再上陸したときのCL310JETで用いられていたユニットである
JET III
↑2003年に登場のJETIII。磁気回路が棒状からプレート状になったことと、振動板の折りひだの高さを6mm→3mmとし、低歪みかつ50kHzまでの高域性能を獲得している
JET IV
↑車載用ユニットとして開発されたのが、JETIV。ボイスコイルをアルミ蒸着から銅蒸着にしたことと、充分な熱対策を施しているのが違い
JET V
JET V↑400ラインで初登場するのが、JETの第5世代であるJETⅤ。ボイスコイル電極の微細化し、振動板面積を約2割向上させたこと、折りひだパターンの変更、ネオジウム磁石の強化、マウント用ハウジングもアルミダイキャストへと変っている

さて、このような刮目のメリットを持つJETトゥイーターが初めて搭載されたスピーカーが、1997年のCL310JETとCL330JET(わが国で最初に紹介されたのがエラックの日本再デビューモデルであるCL310JET)。CL310JETはJETIIが、CL330JETはJETⅠが搭載されていた。JETIとJETIIは、ネオジウム・マグネットの本数が異なる(Iが8本、IIが4本)だけの違いで、カプトン振動板のプリーツの折り数、折りの高さなどは共通であった。これらの2モデルは小さなマイクロスピーカーなのに雄大な低音と、質の高い中高音が得られることから、たちまち高い評価を得た名スピーカーであった。その後、300ラインは何度ものモデルチェンジを経て、エラックのアイコンになった。

大胆な革新を成したのが、第三世代として2003年に登場したJETIIIだ。改良点はまず速く動き易いようにとプリーツの高さを抑え、高域限界を35kHzから50kHzに伸ばすことに成功。磁気回路も改良。ネオジウムは変らないが、それまでの棒状のユニットを板状の積層に替えた。さらに駆動、制動力が増した。

JETIIIは名トゥイーターであった。今日までエラックの看板テクノロジーとして光彩を放ってきた。JETIIIはそれ自体で高性能であるだけでなく、エラックスピーカー全体の音の水準を格段に上げ、さらには、製造力も大幅に向上させた。具体的には、ウーファーの開発を促進させたこと。つまりトゥイーターとしての性能があまりに高いので、それとバランスする(過渡応答特性、周波数特性リニアリティなど)ウーファーやネットワークをいかに実現するかが、重要な開発テーマとなったのである。

アルミと紙のハイブリッド振動板自体の改良、振動板の剛性向上を目的にしたクリスタルライン加工、空芯コイル、底面バスレフポートのボトムエミッション……などの数多い工夫は、いかにJETIIIを活かし、引き立てるスピーカーを総合的な視点からつくるかという課題へのアプローチであった。

開口率をアップさせて性能向上を果した「Ⅴ」

JETIII登場から約10年(JETIVはIIIのカーオーディオ版)。遂に、フルモデルチェンジが敢行され、JETⅤトゥイーターに進化した。

従来との大きな違いは、これまでが製品グレードに関係なく、同じJETトゥイーターが搭載されていたが、今回は190ラインと400ラインで、仕様の異なるふたつのJETⅤに分かれたことだ。190ラインに搭載されたのは普及型のJETⅤエクストラ。400ラインは高級版JETⅤである。ラインナップ展開はJETトゥイーターが新しい次元に入ったことの証左だ。

共通仕様を述べると、まずカプトンにラミネートされたアルミ電極のパターンを細くし、振動板面積を20%拡大。分かりやすくいうと「開口率」の増加である。面積の向上に合せ磁気回路も強化し、振動板を保持する機構も改良した。これらの工夫の結果、共振周波数をより低く設定できた。可聴レンジから遠ざけることにより、さらに歪みを減らすことに成功したのである。

上級のJETⅤは、これらの共通の改良に加え、さまざまな部分での進歩を追求した。JETIIIにあった表面ネジを追放、バッフル/リング部をアルミ⊕樹脂製から、アルミダイキャスト製に変更。見た目でいうと、開口部がJETIIIの5ギャップから4ギャップへ変更されている。放射特性改善のためだ。

190ラインに搭載されているJETⅤエクストラは、内部構造はJETⅤと同等だが、外観をJETIIIとほぼ同じにしているヴァージョンと考えられる。つまりバッフル/リングがアルミニウム⊕樹脂製で、開口部も5ギャップという仕様を採用している。

これぞ、新しいエラックサウンドの誕生

新JETを採用した190ライン(BS192、FS197)と400ライン(BS403、FS407)を試聴し、私は大いなる感動を覚えた。これまでも冒頭のコメントで読めるように緻密で、音楽的色彩に溢れた音がエラックの特徴であったが、その美感がさらに研ぎ澄まされ、音の粒子がさらに練られ、音の色彩感が彩度、色相ともに、従来とは比較にならないほど豊潤になったのである。

例えばBS403。私のメモ帳には「ものすごい実体感、音像の輪郭が鋭く、空気感が濃い。切れ味シャープな光彩感、より高級な透明感。微小信号にヴィヴィッドな生命力。低音のスピード感が実に速い」とある。特に著しい進化が間接音の出方だ。直接音の後に続く間接音の量が格段に多く、質が高い。このディスクにはこれほどの情報が入っていたのかと感嘆するほどの、美しく、厚い響きであり、実に音楽的な空気感再現性だ。

もちろん、こうした素晴らしい音調の背景には他要素との絡みも見逃せない。ウーファーのボイスコイル内径の拡大、ラバーエッジ幅の拡大、クリスタルラインのパターン変更……などの工夫も大いに効いた。これらをベースに、新JETが自在に持ち味を発揮、圧倒的に音楽的で稠密な音を実現したのである。

エラックの新規範の誕生を祝いたい。

●問合せ先:(株)ユキム☎03(5743)6202


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