HOME> Epson EH-TW8100W
映画はスクリーンで楽しみたい……。オーディオビジュアルファンなら誰しも、そうした願望があると思う。その願いを実現するためには、専用シアタールームを持つことが理想的だが、なかなかそうはいかないことも多いだろう。専用ルーム以外では、リビングルームで大画面を行なうことが現実的であるが、そこにも難題がたくさん横たわっている。たとえばスクリーンをどう設置するか。この点を克服して何とかスクリーンを置けたとしても、次にプロジェクターをどこに設置するかで悩むケースが意外と多い。今回リリースされたエプソンのEH - TW8100Wならば、そうしたプロジェクターの設置に関わる難題を苦もなくクリアーしてくれる。
まず本機は、短焦点レンズを採用してるため、投写距離が短い。スクリーンと3mの間隔を確保すれば、100インチの大画面が実現できる。3mの投写距離とは6畳間の長手方向なら余裕で実現できる数値である。
またレンズシフト機能も充実している。上下方向に約3画面分、左右方向にも約2画面分を移動できるので、スクリーンのセンターの延長線上からプロジェクターを投写しなくてよい。レンズシフト時の画質劣化が少ないのもファンにとって嬉しい点だと思う。
さらに吸排気ダクトがプロジェクターの前面にレイアウトされていることも、リビングルームでの使用に便利だ。プロジェクターを壁面ぎりぎりにセットしたり、ラックや本棚に設置したりしても、熱の問題で不安になることがないだろう。
そして、TW8100Wのもうひとつの優れたフィーチャーは、60GHz帯を使ったワイヤレスHD伝送をあげたい。前作から継承されているこの機能は、HDMIケーブルを引きまわす必要がなく、また画質面での劣化がないという点でも大いに歓迎したい。
付属するワイヤレスHD伝送用トランスミッターは、前作から改良され、HDMI端子を5系統に増やして使い勝手を向上させている。またこのトランスミッターに搭載されたUSB端子を使って、付属3Dメガネの充電が可能となった。3Dメガネは液晶シャッターの駆動にRF帯域を用いたブルートゥース伝送を採用することで、他のIR機器との干渉がなくなったことも嬉しい。
画質面においても前作からレベルアップが図られている。とりわけ3D映像は、より豊かな表現力を身につけている。前作のTW8000Wではブライト3Dドライブという8倍速映像表示と、メガネ側の液晶シャッターのスピードを高めて、クロストークの発生を抑え込んでいた。さらに本機EH - TW8100Wでは、光学エンジンを最適化させることで、3D再生時の輝度を従来モデルに比べ最大15%アップ。3D再生時の弱点とされる明るさ不足をクロストークが少ないままに克服し、ホームシアターにおける楽しみの幅を広げたのである。
心臓部の3板式LCDは、前作と同じD9パネルを採用している。光学エンジンの構成そのものは前作と同様だが、前述のように最適化を行なっている。それは3D映像だけではなく、2D映像の再生にも有効に働く。輝度のスペックは同等だがコントラストがアップ(ダイナミックコントラストが20万対1から32万対1へ)。ハイライト部分の輝きは明らかにTW8100Wが明快だ。
進化したTW8100Wの画質をニコタマシアターでチェックした。スクリーンはスチュワートのスノーマット。サウンド仕様の115インチ/シネスコである。視聴はBD - ROM「バトルシップ」で、映像モードはシネマを選択している。ミズーリの甲板で行なわれている各国の部隊が集合するチャプター3は晴天下の日射しを清々しく描き出し、デイライトの表現がしっかりと味わえた。エプソンでは2007年に登場したTW2000でディープブラック回路を採用して以来、ローライト側の階調を大切にした絵づくりを行なってきた。それに加えてTW8100Wでは、ハイライトの表現力も充分な余力を持ちあわせているのである。
このように、シネマモードのデフォルト画質でも、映像再現に対する不満は少ないが、いくぶん優しげな感じにも思うので、シャープネスを3ステップ上げてみた。すると、元々のS/N感が高いこともあって、締った感じですっきりとしてきた。スクリーンとのマッチングもあるので、一概にはいえないが、デフォルトのシネマモードはかなり控えめな印象なので、映像イコライジングは積極的にトライしてみるべきだ。この状態で観る「バトルシップ」のチャプター5は、海上の様子をクリアーに再現するし、イージス艦内の描写も明快である。
次に「ニューイヤーズ・イブ」のBD -ROMを視聴する。ニューヨークのマジソン・スクエアガーデンを描いたシーンでは、深夜の広場に集まったカラフルな服装の人々をていねいに再現する。とりわけ赤色については深く濃いが、けっしてやぼったくはなく、好感が持てる。
ジャッキー・エバンコの音楽BD - ROM「ドリーム・ウィズ・ミー・コンサート」を視聴した。ここでもデイライトのシーンでは鮮やかさが印象的だ。夕方から始まる野外のステージではスムーズで落ち着いた映像が魅力的である。
最後に3D作品「ヒューゴの不思議な発明」を再生してみよう。明るさがアップした3D映像がストレスの少ない立体感を演出する。いっぱんに3D映像の再現には、明るさの点でゲインの高いスクリーンが相性がよいとされている。わが視聴室のスチュワートのスノーマット・サウンド仕様は、ゲインが1・0。明るさの点で本来3D再生には不向きなはずだが、予想に反して本機はS/N感が高くすっきりとして、明るい3D映像をしっかりと描いてみせた。ターミナル駅の線路上に落ちている鍵をヒューゴ少年が夢の中で発見するチャプター9は、SLに蹴散らされる物体の飛び出しをごく自然に表現する。3D嫌いを標榜している私でさえ、この3D映像には大いに感心した。
ところで本機の優れた点として、静音性が高いこともあげられる。ランプモードが「低」となるシネマモードで動作させている限り、何時間経ってもファンノイズがうるさくならない。リビングルームで常用される、明るさを重視した映像モードのナチュラルやリビングでは、ランプモードは「高」となるが、それでもファンノイズの上昇はわずかで、実使用上はあまり気にならないはずだ。
ワイヤレスHD伝送が不要なユーザーにはワイヤードモデルのEH - TW8100も用意されているが、選ぶならTW8100Wがお薦めである。いずれにしてもこの価格帯でこれだけの要求を叶えてくれる製品は他にはない。これから大画面再生を始めたいという入門層から、フルHDモデルに買い替えたいファンにとっては、実に貴重な存在のプロジェクターである。