
「JBL Professional」から、小規模施設や仮設PAといったシーンに相応しい、手軽なPAサウンド・システムが登場しました。同社では以前からポータブルPAシステムEONシリーズを発売してきました。そのEONシリーズにこの度、新しく加わったのがモノラル・オールインワンPAシステム「EON ONE」です。
Text by 阿尾茂毅
最近の私は主に湘南でライヴハウスやイベントスペースではない、飲食店、雑貨屋、ギャラリー、普通のお宅などさまざまな場所でPAを行なっています。また、アーティストのライヴツアーの同行やギタリスト&コーラスで演奏しつつ、PAも兼ねて参加することもあります。ある程度の広い空間でライヴをする時は、ミキサーやPA用スピーカーシステムを車に積み込んで運び、システム設営とエンジニアリングを行ないます。
その際、基本的にどんな場所であってもスピーカーは2本持って行き、ステレオで音場を作りますが、スピーカー1本でオペレートすることもありました。その経験を通して、狭い場所ではスピーカーを2本設置してステレオにする意味はあるのか? という疑問がありました。
また、いろいろな場所でPAをするとき、私が一番気になるのはスピーカー自体の存在感です。PA用スピーカーは、ごついデザインのものが多いですし、サブウーファーを持ち込める場合はほぼありません。湘南では10人も入ればいっぱいという場所もありますし、30人程度のキャパシティでのライヴが圧倒的に多く、生音だけでも十分な場合がほとんどです。しかし、そういう場所でもPAによって格段にライヴの質が上がりますので、私は必ずPAシステムを作ります。その際、音量の問題が出てきますので、小音量でもしっかり鳴ってくれることがシステム選びの大前提になります。
あまり存在感がなく、しかし小音量でもしっかり鳴るスピーカーがあると良いなと考えていたところ、その用途にぴったりなシステムが「EON ONE」でした。「EON ONE」は10インチのウーファーと2インチ×6を搭載した高域用スピーカー、そしてミキサーが一体型になっており、筐体には高域用スピーカーを収納するスペースもあります。上部には取っ手も付いていて、重量も約20kgと女性でも運べます。
高域用スピーカーは、同寸の連結パーツが2本付いており、3段階に高さを調整することが可能です。ケーブルで接続する必要はありません。ウーファーボックスに差し込むだけで音が出ます。システムを組み上げるのに1〜2分しか掛かりません。いままでのポータブルシステムで最速だと思います。最大音圧は118dBもありますので、手段によっては100人くらいのお店でも使えそうです。ミキサー部はコンボタイプのXLR入力が2つ、フォーン・ジャックによるステレオ入力が1つ、ステレオミニ・ジャックが1つ、さらにBluetoothの入力もあります。リヴァーブも掛けることができます。
さて、「EON ONE」を実際にライヴで使ってみました。テストを兼ねたライヴは、湘南在住のグラフィックアーティストSHOKOさんが展示をしていた稲村ヶ崎にあるギャラリーOMI。そのクロージングパーティです。OMIは住宅街のなかにあるギャラリーで、音量に関して注意が必要な場所です。ライヴは同じく湘南のアーティスト雅紀与(まきよ)さん。私がギター&コーラスでサポートしています。今回のライヴでは2人のギターを私が持っている「AER BINGO」に入れて、アンプ直で鳴らしました。そして、ヴォーカルとコーラスに使った「Shure SM58」を「EON ONE」に接続しました。
ミキサー部にはマスターフェーダーが付いています。そこで、マスターはフルに上げた状態で、ヘッドアンプのレベルを決めていきます。リヴァーブも適度に掛けました。
10インチながらウーファーがしっかり効いているようで安定感があります。そして、音の広がりは上下角50°、水平100°と謳っているだけあり、スピーカー1本で鳴っているとは思えないような広がり方です。まるで音に包まれるような感覚で演奏でき、不思議な感覚でした。
高域用スピーカーはジョイントを2本入れ、最大の高さの状態にしました。リハーサル時にわかったのは、「EON ONE」はかなりハウリングに強いことです。スピーカー前方のかなり近い場所でマイクで声を出してみても起きにくかったです。
一般的に、ライヴの場合、モニタースピーカーも必要になりますが、小さなところではスピーカーを置く場所はなく、モニター無しで演奏する機会も多い。その時に重要になるのがメイン・スピーカーです。小音量でもしっかり聴こえないと演奏自体が難しくなってきます。今回、スペースや見ための関係で、ややミュージシャンから離れたところに設置しました。しかし、この「EON ONE」は、スピーカーの位置に関係なくしっかりと音を届けていました。また、最近よくあるDSP+D級アンプで起きるディレイはほぼ感じませんでした。声とギターアンプという湘南系でありがちなセットでのライヴは成功でした。
ライヴが終わったあと、珍しいことが起きました。多くの方が「素敵な音が聴けました」と言ってくださり、スピーカーも気になったらしく私に質問してくる方がいたのです。その評判の良さにびっくりしました。小さい音量でも解像度が高いので、音量を上げずに済んだので、住居外への音漏れも少なかったようです。
良いことずくめの「EON ONE」でしたが搭載しているリヴァーブは、タイムだけでも変更できると嬉しかったです。あとは、iPadやiPhoneのようなタブレットやスマホで全体の音量をコントロールしたいです。とはいえ、小規模なライヴをしている私には、うってつけの機材だと思いました。
●型式:2ウェイフルレンジ・パワードスピーカー●周波数レンジ:37.5Hz〜18.5kHz(-10dB●指向角度:水平100°×垂直50°●最大音圧レベル:118dB SPL(ピーク)●パワーアンプ:LF250W+HF130W●入力ch数:6●入力端子:CH1&2=XLR+フォーンコンボジャック×2系統、CH3&4=6.3mmフォーン×2ないしRCA×2、CH5&6=3.5mmステレオミニ●モニター出力:RCA×2●寸法/重量:使用時W373×H2,017×498mm/20kg●備考:Bluetooth入力対応。イコライザー(BASS/TREBLE)±12dB、リヴァーブ
■価格:オープンプライス(実勢価格¥98,000前後)
■問合せ先:ヒビノ株式会社 ヒビノプロオーディオセールスDiv. TEL:03-5783-3110

ウーファーボックスには高域用スピーカーを収納できるスペースと取っ手があるので、持ち運びしやすい

ミキサー部。高域と低域の独立したトーンコントロールとリヴァーブを搭載。モニター出力端子が装備され、PAのモニター用システムへの拡張も可能
「EON ONE」の高域用ユニットのカバーを外した写真。2インチのユニットが6基使用されている