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羽田空港第2旅客 ターミナル出発ゲート ラウンジに新設された サウンド・インスタレーション
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 ここ数年の間に着々とリニューアルが進む、日本最大の空港である羽田空港(東京国際空港)。昨年から今年にかけて国内線第2旅客ターミナルの増築工事が実施され、航空機に乗降するための固定スポットの数が国内線第1旅客ターミナルと同規模になり、利用客の利便性が一層向上した。本誌読者は日本各地を飛び回っている人も少なくないので、新しいターミナルを利用したという人もきっといるだろう。

 今回の増築工事では、固定スポットの数が増やされただけでなく、飲食店が並ぶ商業エリアも新設された。そして新しいラウンジエリアで、搭乗を待つ人たちの間で人気の場所となっているのが、日本の竹林をモチーフにしたスペースだ。太陽光がふんだんに取り入れられたこのスペースでは、搭乗客はコーヒーを飲んだり、食事をしたりして、待ち時間を快適に過ごすことが可能。空間内には常時環境音楽が流れており、非常に居心地の良い空間になっている。

 そこで本誌では、このスペースのサウンド・インスタレーションの設計を手がけたヒビノ株式会社の技術顧問、宮本宰氏に、そのコンセプトとシステムの詳細について話を訊いた。

取材協力:日本空港ビルデング株式会社、ヒビノ株式会社、ローランド株式会社 写真:辻内真理
「シンフォキャンバス®」をベースとした竹林スピーカー
─── まずは今回、羽田空港のサウンド・インスタレーションのシステム設計に宮本さんが関わられたきっかけからおしえてください。

宮本 今回のサウンド・インスタレーションを中心となってデザインしたのは、アレクサンダー・ゲルマンという世界的に活躍しているクリエイター/デザイナーなんですけど、彼は何度かここ(宮本氏が様々な音響研究を行なっているアトリエ)に遊びに来たことがあったんですよね。そのときに、ここにある「シンフォキャンバス」の音を聴いて、彼は“とてもおもしろい!”と気に入ってくれて。“こんど何かやるときはぜひ手伝ってほしい”と言っていたんですよ。でも、「シンフォキャンバス」に興味を持ってここを訪ねて来て、“おもしろい、今度一緒に何かやりましょう”とか言う人はけっこういらっしゃるんですけど、そのまま何も無いことも多くて(笑)。でも彼は昨年の夏と今年の1月にもここにやって来て、“近々羽田空港の搭乗ロビーに新しいサウンド・インスタレーションを造るので、そこにこの「シンフォキャンバス」の技術を取り入れたい”と相談してきたんです。話をしてみると、4月竣工ということで、ものすごいスケジュールだったんですけど(笑)、ぼく自身も空港のサウンド・インスタレーションというものに興味を持ったので協力してみようと。

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宮本氏のアトリエ。
筒状の無数のスピーカーで構成されるのが「シンフォキャンバス
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ヒビノ株式会社の技術顧問、宮本宰氏
─── 羽田空港のサウンド・インスタレーションの話に入る前に、「シンフォキャンバス」についておしえていただけますか。

宮本 「シンフォキャンバス」というのは、ぼくがかれこれ15年以上試行錯誤しているサウンド・システムなんですけど、その考え方はとてもシンプルで、“たとえば5つの音源を5本のマイクロフォンで録音したら、その音源と相似の位置に置いた5台のスピーカーで再生して、空気で混ぜて聴こう”というものなんです。通常の制作プロセスでは、マルチ・マイクで収録してコンソールでミックスし、ステレオのコンテンツを作成するわけですよね。それを2台のスピーカーで再生して2台のスピーカーの真ん中で聴くと、確かにフルートはほぼ演奏者の位置に定位されているわけですが、それは“その場所から聴こえている”というだけであって、“その場所から音が鳴っている”わけではない。「シンフォキャンバス」はそうではなく、音源フルートはフルート奏者の位置で再生して、複数の音源が織りなすことによって生じる空気の響き、“空気感”を聴こうというものなんです。ここには64台のスピーカーがあるわけですが、スピーカーの音を聴くのではなく、それぞれのスピーカーが織りなす空気の響きを体に感じることなのです。結果、そのサウンドは、パニングで定位させたものとはまったく違う。当然、再生する空間が変われば音は違ってきますし、いまここで聴いている音は、この空間独自の音なんですよ。この倍くらいの部屋で、もっと天井の高い空間で聴けば、全く違った聴こえ方になります。空気で混ぜるのではなく、あらかじめ電気的に混ぜてしまったステレオの音源では、良くも悪くもそういった再生空間による音の変化はあまり得られません。

─── 「シンフォキャンバス」の研究を始められたきっかけは何だったのですか?

宮本  ぼくはもともとロックやポップスの人間で、オーケストラにはあまり興味が無かったんですよ(笑)。しかし娘が小学校のオーケストラに入ったことがきっかけで、何度か生の演奏を聴きに行くうちに、その魅力に一気に引き込まれてしまって。やっぱり60人以上の演奏者による生演奏というのは、実際に体感するとものすごいわけですよ。たとえそれが小学生の上手くない演奏だとしても、60以上の音源の中に身を置くと、本当に鳥肌が立ってくるんです。しかし、そのすばらしい演奏を自宅でも楽しもうと5.1chのSACDを買ってみても、生の演奏のような感動が得られなかったんです。その差について考えてみた結果、やっぱり“そこから音が聴こえる”というのと“そこに音がある”というのは、まったく違うものなんだなと。音源には指向性というものがありますが、定位させてその場所から音が聴こえるようにしただけでは、音源の指向性という概念が無くなってしまうんですよね。繰り返しになってしまいますが、“そこから音が聴こえる”というのと、“そこから音が放射されている”というのは、まったく違うものなんです。

 少し前のことを思い出してもらえればわかると思うんですけど、ホームシアターなどで5.1chサラウンドが出始めたときって、センターにスピーカーを置くことが難しくて、センター・チャンネルをLとRに振り分けてファンタム・センターで鳴らしていた時期がありました。しかし、映画館のようにスクリーン裏のセンターでスピーカーが鳴っているのとでは、まったく音の聴こえ方が違うことに皆気付き始めた。ダイアログとかの音の説得力がまるで違うんです。それでファンタム・センターではなく、画面の上や下にセンター・スピーカーを置くハード・センターになったわけですけど、たった3chでそんなに違うわけですから、オーケストラとかだったらもう雲泥の差なわけですよ。そしてその差は、本来空気中で混合されるべきものを電気的に混ぜてしまうことによって生じているんです。

 たとえばマイクロフォンを2本、別の場所に立てるとしますよね。そしてそのマイクロフォンの出力を、ミキサーなどを用いて電気的に1本の信号にミックスするとします。すると、電気的な足し算を行なった途端に、2本のマイクロフォンの隙間に存在していたはずの空間の情報がすべて失われてしまうんですよ。複数のマイクロフォンは、設置した場所が離れていれば、その隙間には音空間の情報が存在しているんです。それが電気的に混ぜ合わせた瞬間に失われてしまうんですよ。足せば足すほど、どんどん空間の情報は失われていく。音空間の気持ちよさ、心地よさって、その隙間によるところが大きいんですよ。そしてまた、このような電気的な足し算を行なうことによって、コム・フィルターというややこしいものも生じてしまうんです。電気的な足し算ではなく、空間で足し算を行なうと、コム・フィルターは生じないんですよね。もちろん、空間によっては音が干渉して様々な音の変化が生じるわけですけど、それは電気的な処理で生じるコム・フィルターとはまったく違うもので。もっと言うと、電気的に加算してしまったものは、どう頑張っても元の個別の信号に戻すことはできないということです。

 最初は同じスピーカーを16本借りてきて、一人で実験を始めてみたんですよ。もちろん、16chの音楽作品なんて存在しませんから、スコアを買ってきてMIDIシーケンサーで打ち込んで(笑)。そうやって出来たものを聴いてみると、やっぱりおもしろいんですよね。同じ楽曲でも、16本のスピーカーで16種類の音源を鳴らすだけで全然違って聴こえて。当然、音色はMIDI音源なのでそんなに良くないですし、打ち込みの技術もありませんから、ひとつひとつの音はチープなんですけど、16本のスピーカーで鳴らすだけでもすごく楽しい。気持ちがいい。それでスピーカーの数をどんどん増やしていって、心地良い音楽を楽しむためのツールとして、これはいけると確信を持ちました。「シンフォキャンバス」は、“マルチ・チャンネル”ではなく“マルチ・ソース”で音楽を楽しむためのシステムなんです。

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