

1934年、東京・有楽町の一等地に開場した「東京宝塚劇場」は、2,069席の客席を擁する日本有数の大劇場である。2011年から今年にかけて段階的に導入された新しい音響システムについて、株式会社宝塚舞台の劇場部東京公演課の清山理恵氏に話を訊いた。
─── まずは「東京宝塚劇場」の沿革からおしえていただけますか。
清山 「東京宝塚劇場」は1934年、宝塚歌劇の東京の拠点となる劇場としてオープンしました。その後1998年より建替工事を行ない、2001年に宝塚歌劇専用劇場として新たなスタートをきり、現在に至っています。この劇場では年に9回、宝塚歌劇の公演が行なわれています。1つの公演は約一ヶ月行なわれ、日曜日の千秋楽の後に入れ替え日が4日あり、金曜日に次の公演がスタートするというパターンを年間を通して繰り返しています。兵庫県宝塚市の「宝塚大劇場」で先に行なわれた演目が数週間後に東京で公演されています。
─── 音響担当者は公演中、どのようなオペレーションをされているのですか?
清山 基本的に宝塚歌劇の公演は、音響のオペレートを2人で行なっています。1人がオケのミックスとSEの叩き、もう1人が役者のコーラス・マイクやワイヤレス・マイクのミックスという分担で行なっています。また、これは宝塚歌劇独特だと思うのですがオーケストラが入るピットには、モニター・オペレーターといったスタッフを公演中は基本的に付けていません。つまりモニターに関しては、オペレーター無しで運営しているということですね。長い歴史のある劇場で、オケ・ピットが無いところから始まっていることがモニター・オペレーターを付けていない理由の一つです。東京では公演中は3人体制で、機材をオペレートしない1人はステージにいて、何かあったときにピットまで走ることになっています。
─── モニター・バランスは、リハーサル中に固めてしまうのですか?
清山 宝塚歌劇の公演は約一ヶ月ごとに演目が変わるのですが、稽古の2日間と公演初日の3日間だけはモニター・コンソールに音響スタッフが1人付くようにしています。そして東京の場合、公演ごとにオーケストラのプレーヤーが入れ替わるので、稽古の期間中に各プレーヤーからモニター・バランスの注文を受けて調整を行ないます。公演期間中に注文を受けて、休憩中などに微調整することはありますが、本番中はモニター・オペレーターがいないので、曲ごとのバランスをこちらで調整することはできません。ですので、稽古期間中のモニター・バランスの調整が重要になります。
─── 他の舞台や演劇とは異なる、宝塚歌劇ならではの音作りやマナーなどはありますか?
清山 宝塚歌劇は、出演者がすべて女性で芝居も歌も生で演じています。これは他の舞台や演劇とは大きく異なる点でしょうね。それと返しのレベルをギリギリまで上げ、その中でハウリングを抑えながら調整するということや、メインスピーカーをネットで隠してその前で演者が歌うというのは、宝塚ならではのやり方なのではと思っています。一ヶ月の公演の中で出演者の体調が変わることも多く、公演中に細かな調整が必要になる場合もあります。ギリギリまで頑張っても声が出辛くなる人も稀にいますし、その辺りは音響としてサポートしてあげたいと考えています。
─── この劇場ではどのくらいの頻度で機材を更新しているのでしょうか?
清山 こちらでは、メインのスピーカーやコンソールは大体10年ごとに更新することになっています。2011年にスピーカーとハウス・コンソールを同時に更新し、今年はモニター・コンソールを更新しました。2011年にすべて同時に更新する計画もあったのですが、当時は音響担当者の数が少なく手一杯だったこともあり、モニター・コンソールの更新は後回しにしました。ただ更新すること自体は決定していたので、スピーカーとハウス・コンソールを更新する際に、オーケストラ・ピットまでの配線などは済ませていました。ちなみにモニター・コンソールだけ更新時期をずらしたのは東京だけで、「宝塚大劇場」はすべて同時に更新しています。両劇場のシステムはほとんど同じですね。
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「東京宝塚劇場」の音響調整室 |
─── これまで導入されていた機材についておしえてください。
清山 スピーカーもコンソールも「RAMSA」の製品を使用していました。どちらも約10年間使いましたね。コンソールに関しては不具合もあったのですが、何とか使っていました。
─── 新しいハウス・コンソールの選定ポイントについておしえてください。
清山 普段の公演ではワイヤレス・マイクを25本使っています。宝塚歌劇では芝居が細かいこともあってワイヤレス・マイクがコンソール上に横並びに25本出ている必要があります。そのため、レイヤー機能が操作しやすいことがコンソール選定の一番のポイントでした。また、音響調整室が狭いため、サイズを考慮する必要もありました。そしていろいろなコンソールを検討した結果、「Stagetec」の「Aurus」がいいのではないかということになりました。ただ、「Aurus」は非常に優秀なコンソールなのですが、音響監督さんたちの細かい要望に応えるためにはアウトの数が足りませんでした。その対応を考えた上で、「Meyer Sound」の「D-Mitri」を併用するシステムを構築しました。本来であれば1台の「D-Mitri」でSEと出力系をカバーし、その他の部分を「Aurus」で行なうというシステムで十分なのですが、トラブルが起きたときのことを考えて「D-Mitri」を2台導入し、一方を出力系のマトリックス卓、もう一方をSE卓として使用することにしました。つまりは「Aurus」と2台の「DMitri」、計3台のコンソールを併用している形になりますね。回線のルーティングは、「Aurus」とSE用の「D-Mitri」の出力をマトリクス用の「D-Mitri」に入力して、そこから各スピーカーに出力している流れになっています。公演時のオペレーションとしてはSE卓を舞台に合わせて叩き、マトリクス卓は監督さんの意向に合わせてパターンの切り替えは行なうものの、基本的には固定で使っています。