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HOME > 新時代を切り拓く Roland M-5000C

PROSOUND REVIEW 新時代を切り拓く Roland M-5000C テキスト:市来邦比古
新しい機器との出会い。エンジニアはそわそわする。欲しかった玩具を手に入れた時さながら好奇心が首をもたげワクワクと楽しい気分を味わう一方で、仕事の一片もしくは中枢としてそのマシンをいかに活かすか、そのことに頭を悩ます。プロであるからには、いや、プロであるからこそ、出来る限りのベストな使い方を模索する。目覚ましいとか飛躍的といった仰々しい進化でなくてもいい。現場にとって痒いところを確実につぶしていってくれる信用のおける片腕をプロのエンジニアは求めている。自身の現場導入の準備段階として、彼らはどういったことを考え確かめながら最新機器と向き合うのか。演劇音響の第一線に常に新しいアイデアで挑むサウンド・デザイナー、市来邦比古氏にその過程を綴っていただいた。
理想のタイプに出会ってしまった
市来邦比古 市来邦比古
(いちき・くにひこ)

1970年代小劇場演劇の黎明期から舞台音響家として様々な劇団、演出家、舞踊家と共同作業を行なう。80年代の代表作は第七病棟「ビニールの城」。「世田谷パブリックシアター」音響チーフから技術部長までを長きに渡って務め、その傍らで「まつもと市民芸術館」主催作品など幅広く演劇公演のプランを行なう。代表作は松本修演出作品「アメリカ( 再演時は失踪者)」、「城」、「審判」、永井愛作演出作品「こんにちは母さん」、「歌わせたい男たち」、「書く女」、串田和美演出作品「コーカサスの白墨の輪」、「空中キャバレー」、「スカパン」、コクーン歌舞伎「天日坊」、白井晃演出作品「ヒステリア」等多数。「世田谷パブリックシアター」「長久手町文化の家」「可児市文化創造センター」「北九州芸術劇場」「まつもと市民芸術館」等の建築設計アドバイザーの他、舞台機構調整(音響) 中央技能検定委員、日本舞台音響家協会副理事長等も務める。尚美学園大学非常勤講師。1級舞台機構調整(音響) 技能士
「ローランドO.H.R.C.A M-5000」、一昨年のInterBEEに初お目見えした音響卓である。128chを自由にレイアウトできるという画期的な拡張性と、自由度の高いUSERアサイナブルチャンネルという点が印象に残り、さらに24bitサンプリング周波数96kHzで動作するというのも魅力だった。

 「ローランド」は2007年、REACという独自のデジタル音声伝送方式を使った「V-Mixing System」でプロオーディオ市場に登場したが、私自身の正直な感想を言えば「ローランド」の卓に対する“プロオーディオ機器”という認識は当時とても薄いものだった。とりわけ早いタイミングで「M-48」というパーソナルミキシングシステムを展開した点から見ても、どちらかというと録音スタジオ向けという印象を持っていた。だが近年、生演奏でのミュージカル現場のモニターにも「M-480」や「M-48」による「V-Mixing System」が積極的に採用されていると聞き及び、使用してみたいなという思いが徐々に強まっていった。

 別枠にまとめたように私は劇場のデジタル化とともに歩んできたのだが、ここに来て非常に興味を引かれるコンソールが登場した。それが2014年に発表された「O・H・R・C・A M-5000」である。「ローランド」のプロオーディオ界に対する本気が一気に加速した! 咄嗟にそう受け止めてしまうほどの熱意と意気込みを感じたのと同時に、同年のInterBEEでの評判を聞くにつれて、その勘は正しかったと確信。そして翌年のInterBEEで「M-5000」よりフェーダー数を8本減らした「M-5000C」が発表され、ついに待ち望んでいた卓との初顔合わせが叶ったと思った。

96kHzクオリティ
 ほどなくして、その「M-5000C」をしばらく預けていただける機会を得た。このマシンで何が可能になるのだろうか。すでに現場導入事例は記事として本誌に掲載されているが、今回私は自分の抱えている現場=台詞中心の演劇や生演奏の入る音楽劇でのサウンドプランや、大小さまざまな劇場・ホールの建築設計や運営のアドバイザー双方の視点で「M-5000C」の可能性を探ること、これを今回の命題とし、まずは卓にとって重要となる音質検証から行なってみた。
 試みた試聴環境は次の3通りである。

①96kHzでサンプリングされた音源をパソコンからUSB接続で再生
②同じ設定でクロックを48kHzにして再生
③①と同じ音源をCD化、アナログ接続して再生

 96kHzでの再生は皮膜を何枚もはがした元の姿、音源が本来持っているクオリティを十二分に再現してくれるものだった。芯のある透明な音を聴いていると、いよいよ拡声音響の世界でも96kHzでの情報のやりとりがスタンダードになる時代が始まったと実感した。

「M-5000C」導入シミュレーション
 私が現時点(2015年末)で抱えている現場は、ワイヤレスマイクなしのストレートプレイの演劇である。女性1人で仕込みやバラシを行なえる簡潔な規模で、旅公演は卓周りの入力と出力系統を加えても仕込みスピーカーなど最少機材の持参で済ませ、あとは劇場常設の機材を使用してシステムを構築することが多い。「M-5000C」をそういった現場に投入するのも1つの方法だが、本機の可能性を探るにはさらに高度な要求に応えるシチュエーションを想定しようと思い、持てる性能を遺憾なく発揮できそうな私のプランによる過去の現場に当てはめてみた。

 2012年コクーン歌舞伎、河竹黙阿弥原作、宮藤官九郎作、串田和美演出「天日坊」。この時は音楽から効果音まで下座(げざ)で奏でる通常の歌舞伎スタイルをやめた。音楽を担当したのはトランペッターの平田直樹。楽器はトランペット、EG、EB、ドラム・パーカッション構成の生演奏である。特にトランペットは5人での演奏を基本とし、ラストはこれに俳優2人の演奏が加わり計7本のトランペットとリズム隊で凄惨な立ち回りが見所。さらに山崎徹のキレのある附けが加わり、現代歌舞伎の名作と謳われた。この時は舞台先端に仕込んだ拾いマイクと効果音用の卓と、音楽と舞台中を移動する屋台の仕込みワイヤレスマイク用の卓をそれぞれに操作するツーマンオペレーションのスタイルをとった。

 歌舞伎での台詞はあくまで生が基本。拾いマイクはサポートのみである。この時の演出は、3間(5.4m)×2間(3.6m)以内の可動舞台(屋台)3台が場面ごとに入れ替わる仕立てとなっており、舞台先端マイクと屋台の仕込みマイク計8chが台詞サポートのメインとなった。

 トランペットには専用ワイヤレスマイクを7ch使用し、後の楽器には有線マイクを12ch用いた。冒頭で登場する太鼓にワイヤレスマイクを1ch、附けに1ch、附け位置での効果音用に1ch、楽器FXリターンで3ch、声用FXリターンで3ch、演出用ガナリで2ch、効果音再生用にインターフェイスから8ch、バックアップ用で8ch、CD2ch、smaart測定用に1ch、T.B用に1ch。計58chのインプットを要した。

 一方、ミックスアウトはFOH、効果音再生用、FB合わせて29ch、記録用の2chで計31ch、ミックス作業用にメインとAUXとSUB GROUP合わせて20chほど組むことになるのですべてを加算するとリソースの使用は109chに上るが、「M-5000」なら充分で「M-5000C」でも1台で操作が可能である。恐らくフェーダーバンクのアイソレートを使用すれば、ワンマン操作、ツーマン操作どちらでも可能だと思われる。何しろ「M-5000C」の入出力コネクターはで96kHz時で300入力288出力もある。これだけ自由度の高い選択肢があれば設備設計での工夫のしがいがあるというものだ。
私のデジタル関連機器の体験歴

 1996年「世田谷パブリックシアター」運営財団である世田谷区コミュニティ振興交流財団(現せたがや文化財団)設立とともに同劇場の音響チーフとして運営に携わってきたが、当初導入を決めたコンソールがフルデジタルの「TOA ix3000」だった(1997年4月開館)。20年前でありながら、タッチパネルや舞台袖のリモートI/O、128イン/128アウトを擁するデジタル・コンソールの先駆的なモデル、大型のフルデジタルコンソールはまだ全国に数台という時代である。その開発にあたっては、私も「TOA」本社工場に出向き開発メンバーと討論を重ねたものだった。

 この他にも音響アドバイザーなどとして携わった「可児市文化センター」や「まつもと市民芸術館」にも大小ホールともに最新かつ最適と思われるデジタル・コンソールを導入してきた。

初めてPA用と謳われた卓も発売後すぐに使用する機会があった。

 2005年にツアー巡回した音楽劇の現場だった。タッチパネルを採用した卓も市場に登場した翌2006年にやはり音楽劇の現場で使用した。ほとんどが「ヤマハ」製品であったが、その間にも「Soundcraft」「Midas」「DiGiCo」といった海外発のコンソールが毎年のようにInterBEEや本誌で華やかに発表されるのを見てきた。

 やがて「世田谷パブリックシアター」が開館17年目にあたる2013年に設備更新を行なうことになった。1995年に開発されたフルデジタルコンソール「ix3000」は数世代前のCPU、DSPでありながら、I/Oの更新や部品交換を重ねて、初期性能をバージョンアップさせながら、最後まで完動していた。これがデジタルの良さであることを改めて感じたものだが、その後継機には、開館当初の系統図をほとんど変えることなくシステムの更新ができる「DiGiCo SD10」を採用した。24bit96kHzでの動作が可能となり、さらに上質な音環境が実現した。長距離の接続もある「DiGiCo」の卓周りは光回線(OPTCODE)を用い、外部機器接続用や近距離接続のギガビットCAT5e回線(DANTE)とともに劇場の回線環境は大きく変わり、小劇場の「トラムシアター」にはDANTEネットワークを引いた。

 この少し前の2012年、「東京芸術劇場」リニューアルにあたり私も改修設計のアドバイザーとしてお手伝いをした。同劇場は大ホールと中ホールが各1つずつ、小ホールが2つという大規模な施設で、各回線をデジタルオーディオネットワークで結び、省スペースかつ高機能・高性能化を実現した。多チャンネルのデジタルオーディオネットワークが定着した時期である。
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