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HOME > 新演出の渋谷・コクーン歌舞伎『四谷怪談』のサウンド・デザイン 〜稽古から千秋楽までを追う〜

新演出の渋谷・コクーン歌舞伎『四谷怪談』のサウンド・デザイン 〜稽古から千秋楽までを追う〜
「SK5212-II L-JP」送信機
「EM3732-II」受信機
「ゼンハイザー」のワイヤレスシステム。「SK5212-II L-JP」送信機(左)と「EM3732-II」受信機
 歌舞伎は音楽劇というイメージが濃いが、現代劇としての音楽劇ではセリフをワイヤレスマイクでSR(拡声)するかPA(補助)するのが一般的である。対して歌舞伎のセリフは生声が一般的でマイクの装着は基本的に行なわないのだが、明瞭度を上げるために拾いマイクでPAすることもある。今回もそのパターンに則り、いつも私が使う手法を取り入れた(図1参照)。舞台前のL・C・Rに「ISOMAX」を床スレスレのところに設置(余計な床振動を拾わないように注意)、「ISOMAX」 のL/Rで収音した音は、舞台先端のラインをだいぶ越えたバルコニー席のパイプ部分に吊った「メイヤーサウンドUPM-1P」を客席全体に向けて出力する。マイク至近でセリフや足音がある場合はすぐにレベルを下げなければならないが、音楽などでセリフの明瞭度が下がるときは逆にセリフのフェーダーを上げていく。音楽SRとは違ったアプローチで、常に細かな注意と集中力が求められる仕事であるためSEオペレーターが専任することが多い。

 再生SEについて今回はそれほど多くないが、『四谷怪談』に必須とされる効果音がいくつか登場する。例えば序幕、伊右衛門浪宅の場でお岩が乳飲み子をあやしているときの赤ん坊の泣き声。伝統的な『四谷怪談』では「赤子笛」が使われることが多く、誇張された音色となっている。今回は通常使われる録音された赤ん坊の泣き声によるリアルさより、場面にあったタイミング、音の強さ、高さ、起伏、泣き声に込められた感情が重要と捉え、最終的に私の声音を録音し加工したものを用いた。ほかにススキの原に吹く風音、かじか、カンタン、コオロギ、遠くのカラスの鳴き声などを稽古に合わせて製作した。

稽古風景その2 マイクロフォンアレンジ
 稽古初日から1週間ほど経った頃から少しずつ音楽(スコア)が上がってきた。楽師たちは手元に届いたスコア分から稽古に合わせて演奏を重ねていく。これを繰り返す内に段々と演奏の方向性が見えてきて、この時点でIEMの必須を確信し、「テックトラスト」社取り扱いの「Wisycom」社製デュアル・トランスミッター「MTK952」およびレシーバー「MPR30-IEM」を、楽師5名とオペレーター検聴用の計6台分を手配した。

張り出し舞台の縁に取り付けられた「ISOMAX」
張り出し舞台の縁に取り付けられた「ISOMAX」


 マイクロフォンアレンジは本番で使用するワイヤレスシステムを用いて、楽器別に工夫を凝らしながら作り込んでいった。例えば馬頭琴(イギル)は本来イスに座って演奏する楽器だが、これを動き回れるよう膝に保持する押さえ具を舞台スタッフが試作、チェロ用マイクロフォン「DPA4099C」を馬頭琴の弦に挟み鳴らしてみたところ効果あり! これは良いアイデアだった。

 ホーメイは耳かけの「MKE2」で対応。アコーディオンは両手側から音が出るので「DPA4060」をショルダー沿いに這わせてアコーディオン本体の両側にテープで留めた。トランペット、バイオリン、サックスには共に専用のマイクロフォンを選択。楽器の持ち替え時には楽師自身の手でマイクも付け替えてもらうことにした。

 また、歌舞伎には附け(つけ)打ちと呼ばれる仕事がある。バタバタ、パタパタ、バッタリ、パタリといった音とリズムを舞台袖で打ち鳴らし、芝居を面白く分かりやすくする歌舞伎界のいわば効果音技師であるが、役者の動きとの一体化が求められる姿見えぬ演技者でなければならない、非常に難しい職人技が求められる。最近のコクーン歌舞伎では山崎 徹氏がこの職を務めており、いつも役者の身体の動きや心理と絶妙に絡む音を発してくれる。とても重要な存在なだけに附けの位置決めは慎重になったが舞台上手の劇場本舞台際に決定し、このエリア全体を拾うマイクは「MD441」を使用した。「水琴窟のしずくの音をお岩の場面で使いたい」という山崎氏からの提案には壺の中に「ISOMAX」を仕込んで対応。お岩の心臓音をイメージした箱を叩く音は別立ての「SM57」で収音した。その他にも山崎氏は鐘音、蛙、戸の開け閉めといった効果音から心情を表すイメージ音まで、舞台のあちこちで様々な音を芝居に当てていくため、氏の黒の作業服のような衣装の中にワイヤレスの2ピースマイクを仕込んだ。中でも時間経過を表す鐘音は『四谷怪談』においてとても重要な役割を担う。時の流れだけではなく、場面の飛躍、情景、情感などをごく自然に的確に観客へ伝えなければならないからである。これは生音でなければ表現しきれないもの、その仕事に応えたいと拾うマイクの仕込みにもつい力が入る。

「ISOMAX」が仕込まれた水琴窟
「ISOMAX」が仕込まれた水琴窟
山崎氏の附け打ち場。全体の収音には「MD441」を使用。左端がお岩の心臓音を表現する箱
山崎氏の附け打ち場。全体の収音には「MD441」を使用。左端がお岩の心臓音を表現する箱

 さて、この辺りからチーフオペレーター福留氏が担当する音楽SRのインプット状況が見えてきたので、稽古3週目に入った5月23日に「M-5000」を稽古場に搬入、すでに稽古入りしていた牧野氏に続き福留氏も稽古に合流した。音楽もあらかたできあがり、IEMの送受信機やワイヤレスマイクの運用も順調で、劇場入りへ向かう体制が整ってきた。まだ詳細が決まりきらない点もあったが、翌24日に仕込み図、回線表を持って劇場サイドとの打ち合わせを行なった。

スピーカー・プランニング
●メインスピーカー・システム
 「M-5000C/M-5000」のインプットプランが固まりつつある中、徐々にスピーカープランのアウトラインが浮かんできた。「シアターコクーン」における私の基本仕込みでは、プロセニアム前に吊ったトラスに「d&b audiotechnik」社の小型ラインアレイ「T10」をメインスピーカーとしてフライングする。今回はさらに「T-SUB」2本をつけ加えその下に5本の「T10」をつなげ、このアレイシステムで2階席から中通路までをカバーしている(写真1)。
ミキシングブースから舞台を臨む
ミキシングブースから舞台を臨む
次にポータルブリッジ(インナープロセニアム)から中通路をねらってポイントソースの「メイヤーUPJ-1P」を文字幕から覗く程度の高さにフライングした。これはPAのディレイの時間軸の原点となるターゲットスピーカーとして使用する(写真2)。中通路より前列は「T10」をポイントソース使いにしてカラム前のバルコニーからフォローし(写真3)、曲によって劇場カラムスピーカーの「メイヤーH700P」サブウーファーを加味することで低域の表現力を増大させた。主に持ち込み機材のみで対応するコンサートSRと違って、演劇音響では劇場のシステムをフルに活用する。

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