HOME > 新製品レビュー > 新製品レビュー ソニーの本気が詰まったヘッドホンアンプTA-ZH1ES
2016年11月4日/木村雅人
今回はソニーのUSB DAC内蔵ヘッドホンアンプ「TA-ZH1ES」を紹介する。本機はソニーでは初めてとなる据置型ヘッドホンアンプで、¥278,000(税別)という価格設定が物語っているように、力の入れ様は相当なもの。まさに満を持してのリリースと言えるだろう。
もはや、オーディオ機器のジャンルのひとつ確立しているヘッドホンアンプ市場に放ったモデルだけあり、後発だからこそできうる、"こだわり"を満載しているのがカタログスペックを見ても明らか。実機を目の前にしても、手の込んだ仕上げが素晴らしく、「聴けばわかる」というメッセージを投げかけられているようにも思える。
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音を聴く前に本機の仕様を確認しよう。ヘッドホン出力端子は本体前面に並んでおり、バランス出力はXLR4ピン、3.5mm×2に加えて今年3月にJEITAが策定した4.4mm5極バランス端子を備える。アンバランス出力は3.5mmステレオミニ、6.3mmフォーンの2系統がそれぞれ用意されている。
本機はUSB DAC&ヘッドホンアンプでありつつ、プリアンプ機能も備えており、入力端子はRCAライン、光デジタル、同軸デジタル、USBタイプB、ウォークマンおよびXperia専用の入力端子を備える。出力端子はボリュウム連動と出力固定で音量を設定できるRCAラインを装備。さらにゲイン切替えスイッチまで用意されているのだから「ヘッドホンアンプとして必要な機能と装備はすべて揃っている」と言えるだろう。
アンプ部には新開発の「D.A.ハイブリッドアンプ」が採用された。これはデジタルアンプでありながらマイナス信号側に、アナログ回路を搭載し、デジタルノイズや大出力時の歪みを改善する技術だ。増幅部はフルデジタルアンプ「S-Master HX」が使われていて、プラス側は最終段までこの回路が担う。いっぽう、マイナス側は「S-Master HX」のプロセッシング部からローパスフィルターを通った後に、先ほどのプラス側の信号と相殺した信号がヘッドホンに出力される仕組みだ。
つまりプラス側は無加工の信号だがマイナス側は誤差成分が除去された信号が、ヘッドホンに入力される事によって最終的に理想信号が再生されるらしい。これにより高インピーダンスヘッドホンを大音量で出力しても、歪みの少ない音質を実現しているとの事だ。
デジタル部は最大でDSD 22.4MHz、PCM 768kHz/32bitまで対応(USBタイプB入力時)。ソニー独自のアップサンプリングDSD変換技術「DSDリマスタリングエンジン」をオンにすることですべての入力信号をDSDの11.2MHz相当にして、DSPへ受け渡すことができる。加えてCD音源や圧縮音源を382kHz/32bit相当にアップスケーリングする技術「DSEE HX」も搭載する。名称こそ同じだが、これまで他のモデルで採用されたものよりも進化したもので、アルゴリズムを「standard」「female vocal」「male vocal」「percussion」「strings」の5種類から選択できる。これらの処理を高速に行なうため、本機ではアナログデバイセズの高精度DSPチップ「SHARC」を2基搭載している。この他にアナログアンプの低音の質感を再現する「DCフェーズリニアライザー」も備えており、適宜オン/オフを切換えて使える。
もちろん高音質パーツも惜しみなく投入されている。抵抗には電極に純銅が使われたファインサウンドレジスターが採用され、トランスには漏洩磁束が少ないRコアトランスを搭載。シャーシは新開発のFBW(Frame/Beam/Wall)シャーシがあてがわれている。これは、側面部をアルミ押し出し材とする事で理想的な剛性を確保し、鉄とアルミによる6層構造の筐体によって共振を分散するという理想的な筐体構造を目指したというもの。同時にインシュレーターにも共振を分散させる偏心タイプが採用されている。他にも目を引く技術や装備があるが、そろそろ皆さまお待ちかねの試聴に移るとしよう。
試聴環境はいつも通り筆者の部屋で行なっている。音源ファイルを送り出すシステムとしてPCはVAIO Z(バッテリー駆動、再生ソフトはfoobar2000)を利用。TA-ZH1ESに先日レビューしたHAP-Z1ESをUSBケーブルで接続し、LAN経由でハイレゾファイルを再生した。TA-ZH1ES以降のシステム構成はいつも通りパワーアンプはトライゴンモノローグ、スピーカーはダイヤトーンDS-2000ZXの組み合わせだ。ヘッドフォンはベイヤーダイナミックのT5pをアンバランス(6.3mm)、バランス接続(XLR4ピン)で試聴した。なおPC接続には専用ドライバーが必要となる。音源はマリア・カラスのアルバム『Pure』から「ノルマ」(96kHz/24bit、FLAC)とトニー・ベネット/レディー・ガガの『Cheek To Cheek』より表題曲(96kHz/24bit、FLAC)を選択。
TA-ZH1ESのサウンドは見た目や装備内容のイメージとは違い、しなやかかつ耳になじみやすいと感じた。高級機になるとあからさまに高解像度をひけらかし、音楽を解析するようなサウンドに触れる機会が少なくない。もちろん本機の解像度は充分なクォリティを有しているが「音」よりも「音楽」に重点を置いた作りになっているのがいい。
マリア・カラスの「ノルマ」では高音域でもややふくよかなヴォーカルが印象的。ピーキーになりがちなマリア・カラスの高域を程よくリッチに聴かせる所がいい。これは、私がソニーらしいとイメージするキャラクターと言えるだろう。
ヘッドホンでの試聴も音質は同傾向だ。ひとつ特筆したいのが、ヘッドホンのバランス出力で、これは一聴の価値がある。低音のドライブ力が増して「Cheek To Cheek」はベースが力強く、レディー・ガガの鼻から抜ける声の倍音数も増えている印象だ。
本機の音質調整機能も試してみた。筆者の印象を述べると、スピーカーから音を出すのであればDSDリマスタリングはオフ、DSEE HXはスタンダードがいいさじ加減だった。片やヘッドホンではすべてオフが好印象。スピーカーで聴くのに比べて調整による音の変化が大きく、音楽によってはやや味付けの濃いサウンドに感じてしまったからだ。ただ、これは使うヘッドホンやユーザーの求めるサウンドによっても変わってくる。その耳で試していただきたい。なおアナログアンプの低音の質感を再現する「DCフェーズリニアライザー」はすべての試聴でオフとしている。上記3機能は、変化を楽しめる分、最適解を求めるのが大変だ。ぜひとも時間をかけて試聴して「自分のサウンド」を追い求めていただきたい。
最後にHAP-Z1ESとのUSBデジタル接続とPC直結の音質についても触れておきたい。前者と後者、どちらがいいのかと聞かれたら、私は前者と言い切る。HAP-Z1ESと接続した方が音の鮮明さが2枚ぐらい上手で、一聴すれば納得いただけるだろう
TA-ZH1ESはこれ以上ない充実した装備と機能、そしてこだわり抜かれたパーツと、ソニーができうる“全部”が詰まったヘッドホンアンプだ。これで¥278,000(税別)は、むしろ安いと感じられる。それほどエンジニアの魂を感じるモデルだった。
<SPECIFICATIONS>
ソニー TA-ZH1ES ¥278,000(税別)
●定格出力:バランス・1200mW×2(32Ω 1KHz 1%)、アンバランス・300mW×2(32Ω 1KHz 1%)
●対応インピーダンス:8~600Ω
●接続端子:ヘッドホン端子5系統(バランス・XLR4ピン、4.4mm5極、3.5mm×2、アンバランス・3.5mmステレオミニ、6.3mm標準フォーン)入力端子5系統(USBタイプB、同軸、光、ウォークマン/Xperia、RCA)出力端子1系統(RCA)
●寸法/質量:W210×H65×D314mm/4.4kg
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