HOME > レビュー > 【石英ガラスCDプロジェクト第2弾】『ゴールドベルク変奏曲/グレン・グールド』制作リポート:その2
その音を聴いたわれわれは、あまりの生々しさに驚きの声をあげる結果になってしまったのです。これまで聴いたことのない「ゴールドベルク」が聴けたのですから。DC-113は明らかに他のどのマスターとも音が異なっていたのです。
もっとも異なると感じられたのはピアノの音色で、コツンといった響きが、頭でイメージするヤマハのグランドピアノの音そのものなのです。他にも、左手と右手のバランス、フェルト感、グールドのハミングの生々しさ、驚嘆した部分を挙げていったらキリがありません。
DC-113の音を聴いてしまうと、あれほど惚れ込んでいた「38DC35」でさえ、ピアノの音が微妙に甘くなっているのでは? と感じられるようになってしまい、録音された当時のニューヨークのスタジオ内では、本当はDC-113の音が鳴っていたのでは? と思わせるほどの説得力があるのです。
いっぽうで、数値的なものやデジタル技術の進化からするとアドバンテージがあるであろう、SACDやDSDマスタリングされたマスターは、「38DC35」に惚れ込んだ耳で聴くかぎり、どこか別物という感じがぬぐえず、綺麗に整えられたように聴こえてしまうのです。これはマスターでも、それを元に作られた市販のディスクでも同じ結果でした(逆に、近年のディスクは驚くほどマスターの音に近い音で制作されているという、製造技術の進歩に驚かされる結果となりました)。
DC-113のたったひとつの難点
ただし、DC-113には難点がひとつだけありました。記録されているレベルがあまりに低いのです。石英ガラスCDがオーディオファイルに対象を絞っているので、「ラウドネス・ウォー」の影響を受けることなく制作できるといっても、いくらなんでも、そのままのレベルでは商品化はできません。なぜ、これほどレベルが低いのだろう? その理由はわかりませんでした。
「38DC35」のマスター(これもUマチックで管理番号はDCJ-235)では、そのようなことはなく、現代の水準からするとやや低くはあるものの、おおむね標準と言っていいレベルです。補足しておくと、このDCJ-235の音もやはり素晴らしく、聴き慣れたCDの「38DC35」は、これまで発売された『ゴールドベルク変奏曲』の中ではベストだと改めて実感しました(なので、お持ちの方はぜひ大切にしてください)。
用意されたすべてのマスターを聴き終えた時点で、DC-113かDCJ-235のどちらかを使いたいと、制作チームの意見は一致したのですが、最終的にそのどちらを使うかを決めることはできませんでした。結局、マスター選定の初日は結論を出せずに解散となったのです。
こちらは1982年に世界で初めてCD化された際の『ゴールドベルク変奏曲』。規格番号は38DC35で、各変奏はインデックスで分割されており、総トラックは1。現行盤とはロゴの位置など、ジャケットが微妙に異なっている。
上杉研究所 藤原伸夫氏設計・製作 6L6プッシュプル・インテグレーテッドアンプ
Sun Audio SVC-200 管球王国ヴァージョン (プリアンプ)
真空管と採用パーツの変更で音質と安定性の向上を図った限定高音質仕様
エレハモ製6550EHと優れた特性のトランスが活きたパワーアンプ