HOME > レビュー > 【石英ガラスCDプロジェクト第2弾】『ゴールドベルク変奏曲/グレン・グールド』制作リポート:その3
なぜレベルが低いのか?
音的に決定版と位置づけられるマスターテープが見つかったものの、録音レベルが低く、その理由が不明であったことから、採用に踏み切れなかったところまでを記したのが、リポートその2までです。ところが選定作業の翌日、その謎はあっけなく解けたのです。テープのラベルに記されたエンジニアの名が三浦先生の知る方だったからです。以下はステレオサウンド184号に掲載された三浦孝仁先生の原稿からの引用です。
38DC35用のデジタルマスターであるDCJ235は、実はDC113(アナログディスクに使ったデジタルマスターテープ)をもとにリマスタリングして作られていたのだ。デジタル録音の黎明期はデジタルのマイナス20デシベルをVUメーターの0レベルと決めていたらしく、録音レベルは概ね低くなっていた。アナログディスクのカッティングではその場でレベル調整するから問題は生じないけれども、CDマスターとしてはレベルが低すぎる......。そこで、エンジニア氏は米国CBSから送られてきたデジタルマスターテープ、つまりDC113をD/AコンバーターのPCM1600を通して英国ニーヴのアナログコンソールに入力し、そこでレベル調整を施した出力をPCM1610のA/Dコンバーターを経由させてCD用デジタルマスターを制作したのだという。
おわかりいただけたでしょうか。つまりDC113は1980年代のデジタル録音黎明期の基準で記録されていたために、現代の基準ではもちろんのこと、当時としても実際の制作現場ではレベルが低すぎて、そのままではCD化(38DC35)不可と判断されたのです。そこで、一度アナログに変換して適正値までレベルを上げ、その後再びデジタル化して、CDマスターの制作を行なっていたのです。それがDC113のレベルが低い理由であり、38DC35の元となったデジタルマスター(DCJ235)とDC113にレベル差が生じている理由でもあったのです。
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では、なぜ一度アナログに戻す必要があったのでしょうか? デジタルのままでレベルアップできなかったのでしょうか?
当時の担当エンジニアによると、1980年前半のデジタル技術では、デジタルのままである程度以上レベルを上げると、聴感上、どうしても音が硬く感じられるようになってしまい、作り手としてはとても納得できる音にならなかったそうです。これは現代でも使用する機器によって、同様のことが起きる可能性は大いにあるそうです。
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そして、そのレベルの低さから、DC113からダイレクトに作られたデジタルディスクはこれまでに1枚もないことがわかりました。さらにテープの来歴調査を進めたところ、DC113は米国CBSより送られた正真正銘のマスターであることもわかりました。
こうして疑問は払拭され、晴れて石英ガラスCDのマスターにDC113を採用することが決定できました。さて、そこで問題となったのが、このレベルの低さをどうするのか? ということです。
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