HOME > レビュー > 4Kスキャンで蘇った「ゴジラ」公開60周年記念で実現した、リマスター作業の全貌とは(3)
清水 ここは小森が実際グレーディング作業を行なったスタジオです。まずは作業前と後が比較できる素材を上映しますので、ご覧下さい。
堀切 確かに違いがよく分かる映像でした。このグレーディングではどんなところに苦労されたんですか?
小森 私の作業では、前段階で傷消し処理までしてもらったものを使いました。今回は4Kスキャンでフィルムの情報を取り込んでいます、今までのテレシネと違い、情報量が多いログという状態でして、画が柔らかく感じられます。しかし、その状態では画として成立してないのでそのスキャニングデータをリニアの状態に変えて、ひとつの形を作りました。
堀切 具体的にはどんな作業をしたんですか?
小森 カットによって明るさやコントラストを変えて、前後のシーンと合わせていくんですが、今回は難しい点もありました。
というのも、カットによってはひとつ前のデータが次のコマにかぶっていることもあったんです。頭のひとコマ、ふたコマだけ明るくて、その後は普通に戻るといったシーンもありました。そのため、カットが変わるたびに明滅して見えるんです。
また当時はワイプやオーバーラップといった技法がはやっており、「ゴジラ」にも多く使われています。その様な技法をスムーズに見られるように修正するのにも神経を使いましたし、時間がかかりました。
仮に「ゴジラ」が2000カットあったとすると、どのカットにも頭のひとコマ、ふたコマは前のデータが入っていましたので、合計4000カット以上は補正をして明るさを合わせないといけませんでした。
堀切 なるほど、そうだったんですか。確かに河内桃子と宝田明が野戦病院の階段を上ってくるシーンなどでは、ワイプした直後の数コマがかなり黒く沈んで見えますね。
小森 このシーンでは元の基準がひじょうに暗かったので、新たに基準となるレベルを設定して明るさを揃えなおしています。またワイプの形に応じてマスクを切って、データをすり替えながらシーンを揃えるといった手間をかけたんです。
シーンによってはリニアの状態では真っ暗になって映像がつぶれてしまいますので、Logデータ(※3)に戻って、つぶれてしまった情報も甦らせるように配慮しました。こういった作業がほぼ全シーンにありましたので、トータルでは1ヵ月以上時間をかけています。
※3 Logデータ:今回使われているARRISCANでフィルムをスキャンした際の出力データ
堀切 特撮シーンは別として、ライブシーンで基準となるコントラストや明るさは、シークェンスの流れの中で判断していくんですか?
小森 そうですね。
清水 小森には、この作業に入る前に「ゴジラ」の上映用プリントを取り寄せて、それを観てもらいました。また東宝とクライテリオンのBDを渡して、「これを超えてくれ」とお願いしたんです。
堀切 凄い! いきなりハードルが高いですね(笑)。
清水 そうそう、先ほどのシーンの変わり目でひとコマ暗くなってしまうという件については、オリジナルネガから上映用プリントを焼く際には、カットごとの明るさを補正する「タイミング」という作業をするのですが、高速でプリントを焼く際にデータがずれていくことがあるんです。そのために上映用プリントにはズレが残っているんです。
「ゴジラ」はオリジナルネガが存在しないので、デュープポジの段階でそのズレが記録されてしまっています。それもあって、スキャンデータの補正をしないと正しい形に戻らないんです。
堀切 そうなんですか。ところで4Kでスキャンした後の修復作業で、フィルムグレイン等を傷として判断してしまうようなことはありますか?
加藤 判別の仕方によりますが、強く処理をかけると傷として認識されることもあります。われわれは、オートで処理をした場合は必ず後から全カット人の目でチェックしています。オリジナルと処理をした後の画像を並べて比較して、やり過ぎている場合はオリジナルの状態に戻しています。
今回のレストレーションでも、その作業にかなり時間がかかりました。「ゴジラ」の皮膚なども光が当たっている部分がゴミや傷と勘違いされてしまうんです。4Kスキャンのように解像度を感じる部分に特に反応しますので、さすがにそこは元に戻さなくてはいけません。今回もひとコマ、ひとコマ確認して元に戻しました。
堀切 先ほどおっしゃっていた、スキャンデータの明るさやコントラストを統一する処理で、例えば「ゴジラ」が登場するシーンなども基準の明るさがまったく違うからたいへんだったんじゃありませんか。
小森 まったく違いますから、情報量が多い分バランスを取るのがたいへんでした。今回は僕の方でその案配を調整して統一感を出しています。これまでのテレシネマスターだとその違いが分かりませんでしたので、これはスキャニングの利点だと思います。
清水 「ゴジラ」は暗いシーンが多いので、どうしても映像がつぶれがちですが、今回小森には、真っ暗なシーンはちゃんと暗くしたうえで、ディテイルは残して下さいとお願いしています。
堀切 先日Stereo Sound ONLINE視聴室で、NHKのエアチェックBDを4Kプロジェクターで110インチ上映しましたが、ダントツで情報量は多かったですよ。黒を締めているところはきちんと沈んでいたし、もうちょっと情報量がほしいなぁと思っていたところは、クライテリオンでも出ていなかったものが見えました。ローキーでありながらきちんと情報が出ていることに驚いたんです。
清水 クライテリオンのBDは僕も大好きですが、少しコントラスト感が強いようにも思っていました。
堀切 海外ではコントラストをはっきり付ける方が好まれますが、邦画だと少し強く感じますよね。放送版「ゴジラ」の画調の柔らかさは、とてもいいと思いました。
清水 小森は劇場映画のグレーディングも多く手がけていますので、今回はそのセンスに任せたんです。
堀切 それはとてもいい結果を生んでいると思います。
清水 また今回は、フィルムの揺れもかなりこだわりました。オリジナルからは相当減らしてありますし、完全に止めることも出来るんですが、止めてしまうと映画っぽくなくなります。
堀切 いや、実にいい案配でしたよ。お見事です。
加藤 試しに止めてみたんですが、そうすると気持ち悪くなってしまったんです。なので、当時の映画らしさを残すようにスタビライズをかけています。
清水 また55分あたりの高射砲の部分で、デュープネガのコマのパーフォレーションがひとつだけずれて、画が上下に切れているカットがあるんです。なぜこうなっているのかは分かりませんでしたが、さすがに意図的ではないだろうということで、ここは修正してあります。ただしLDやクライテリオン版BDなどはそのままになっているようです。
堀切 これはどういう事なんでしょうね。発砲の閃光効果を狙った、なんてことも考えられますよね。
清水 われわれにもまったく分からないんですよ。でもマニアの間では知っている人も多いようですね。
堀切 う〜んファンは凄い。変な汗がでてきそうだ。
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