HOME > レビュー > アステル&ケルン「AK300」は、想像以上のコスパを誇る"最初のAK"に相応しいモデル
アステル&ケルン(Astell&Kern)のハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤー「AK300」が発売された。その概要はニュースとしてお伝えしているが、ここではひと足早く借りることができたデモ機のインプレッションをお届けしたい。AKシリーズの第3世代AK380/AK320の弟分であるこのモデル、結論から言ってしまうと上位機種の美味しいところをちゃっかり継承した、恐ろしくコストパフォーマンスの高い製品に仕上がっている。
シングルDAC構成でAK320からのコストダウンを実現
AKシリーズの直販価格は、AK380が¥499,980、AK320が¥249,980、AK300が¥129,980(すべて税込)。AK380とAK320、およびAK320とAK300の間にはそれぞれ倍ほどの価格差があるが、下記の表を見ていただければ分かるように、"できること/できないこと"、"あるもの/ないもの"を単純に見比べると、AK320とAK300の違いはAK380とAK320のそれよりもずっと少ない。DACチップ(旭化成のVERITA AK4490)がデュアル構成からシングル構成に、内蔵メモリーが128Gバイトから64Gバイトに変更されている以外はほぼ同一だ。
リニアPCMは192kHz/24bitまでのネイティブ再生に対応、5.6MHzまでのDSDは176.4kHz/24bitのPCM変換で対応、という点は変わらないし、VCXO(電圧制御型水晶発振器)により200Femto/秒という低ジッター化を実現するFemto Clockや、パラメトリックイコライザーなども同じように搭載する。背面にゴリラガラスをあしらったアルミニウム仕上げの外観もほぼ共通しているが、ボリュウム調節用ジョグダイヤルの表面の仕上げとボディカラーは変更されている(AK320はガンメタル、AK300はミッドナイトブラック)。AK380/AK320用オプションとして用意されているAK380 AMP/AK CD-RIPPER/Cradle/AK Recorderなどとの連携もできる。
つまりAK320とAK300の二択で購入を迷っている人の場合、DACチップの数と内蔵メモリーの違い、とりわけ前者がシングル構成かデュアル構成かによる音質の違いがどこまで感じられるのかが選択の決め手になるはずだ。
AK320(左)とAK300(右)。AK320はW75.2×H112.4×D16.5mm/約217gと厚さがわずかに異なるが、ディスプレイを含む基本デザインはほぼ同一。ボディカラーはAK320がガンメタル、AK300がミッドナイトブラック
AKユーザーの方はよくご存知だと思うが、同社の製品は“光と影”というデザインコンセプトを掲げている。第3世代となるAK380/AK320/AK300の3モデルに共通して採用されているデザインも、スクエアをベースに鋭角的かつ非対称なカット処理を施した斬新なものだが、手に取ってみるとこれが単に奇をてらったものでないことが実感できる。長辺が緩やかに左側に傾斜しているのは、右手で持った時に操作しやすい角度で本体を手のひらにフィットさせるためだ。
また、AK320で採用され、AK300でも引き続き採用となったボリュウム調節用ジョグダイヤルのレイアウトは、第1~2世代のAK100/200シリーズおよびAK380に用いられていたツマミ型のダイヤル(AK Jrは除く)では難しかった片手(右手)だけの操作を可能にする。何てことのないデザイン変更に思えるが、これはかなり気が利いている。実際に外で歩きながら使ってみたが、見た目のゴツさに反して思いのほか持ちやすく、右手だけで難なく起動/選曲/ボリュウム調節などの操作をこなすことができた。
というわけで、ここからは音のインプレッション。今回はAK300と一緒にAK320も借りることができたので、これに手持ちのAK120IIを加えていくつかの音源を聴き比べてみた。イヤホンは日頃リファレンスにしているシュアSE535で、これにonsoの3.5mm3極/MMCX仕様リケーブルを組み合わせている。
先ほど述べたように、AK300とAK320のスペック上の大きな違いは、DACチップAK4490が1基か2基かという点。音質的に影響のある仕様の差は、ほぼその1点のみと言っていい。デュアル構成のAK320に比べて、シングル構成のAK300は「コンパクトでスリムなサウンドになっているのだろう」と何となく思いながら聴いたのだが、その差は予想よりもずっと小さく、一聴すると「ほとんど同じ?」とさえ感じられるものだった。
先日ステレオサウンドストアからリリースされたばかりの『アーリー大瀧詠一』(通常のCDとハイレゾを収録したDVD-ROMの2枚組)から「指切り」(192kHz/24bit、WAV)を聴いてみると、緩やかなグルーヴに乗ったリラックスしたヴォーカルの息づかいまでしっかりと感じられる。細かく聴き比べれば右chの女性コーラスの明瞭さや、左chのフルートの音の消え際のニュアンスなどにそれなりの差はあるものの、だからと言ってそれが不満にはつながらない。いっぽう、AK120IIで同じ音源を聴くといくらか情報量が少なくなり、女性コーラスの分離が曖昧に感じられる(AK120IIのDACチップはシーラスロジックのCS4398)。
デヴィッド・ボウイ『★』のタイトル曲(96kHz/24bit、FLAC)では、透明度の高い低域をていねいに再現し、不穏な空気の広がり感も充分に伝わってくる。ただ、スネアドラムがややエッジーで耳に刺激が強く、バスドラムにもう少し沈み込みがほしいと感じたのだが、イヤホンのケーブルをonsoの2.5mm4極/MMCX仕様リケーブルに交換してバランス接続を試してみたところ、それらがいい具合に解消されると同時に音場の見通しのよさもさらに増した。同じく「指切り」を再聴すると、左右chの分離がより明瞭になり、ヌケがよく安定感もアップ。イメージとしてはAK320のアンバランス接続に近いサウンドを聴くことができた。
バランス接続でさらに高品位なサウンドに
バランス接続によってS/Nや分離感が向上し、高域の刺激的な音も聴きやすくなるという結果は、大貫妙子『Pure Acoustic』の「新しいシャツ」(96kHz/24bit、FLAC)でもやはり同じように感じられる。ピアノと弦楽カルテットをバックにしたこの楽曲の繊細な響きを隅々までのぞき込むような聴き方を楽しめた。AK120IIでもAK380でもバランス接続による恩恵は同様に感じられるが、AK300の質感の向上ぶりは特に目覚ましく、弦楽器の艷やかな質感やピアノの程よく柔らかな響き、そしてヴォーカルの薄皮を1枚めくったような鮮度の高さには思わず「うぉっ!」と声を上げてしまった。
ヘッドホン/イヤホンのバランス接続は現在さまざまな規格が乱立し、気軽に始められるとは言い難い状況だ。しかしこの分野で人気のAKシリーズに採用されたことで、2.5mm4極のリケーブルは比較的多くのメーカーが発売しており、ラインナップも豊富。もしAK300を導入するなら、音質アップの第一歩としてまずは2.5mm4極によるバランス接続を試すことをお薦めしたい。
AKシリーズ第3世代、AK300/AK320/AK380のラインナップは、エントリー/ミドル/トップエンドと価格的にはバランスよく棲み分けられているが、AK300とAK320のクォリティの差は価格の差に比べて驚くほど小さい、というのが今回両モデルを聴き比べてまず思ったこと。「いつかはAKシリーズを手に入れたい」と考えていた人にとっては間違いなく待望の1台となるはずだ。
だからと言ってAK300がAK320の存在を脅かすというわけではなく、屋内で腰を据えて聴いた時の奥行感と深みのあるサウンドにはデュアルDACの恩恵が確かに感じられる。加えてAK300は、ハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーとしてはオンキヨーDP-X1などに次いでリーズナブルな価格帯のバランス接続対応モデルでもある。リケーブルやヘッドホン/イヤホンの組合せによって、いかようにも自分なりの味つけが楽しめそうだ。
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