HOME > レビュー > 御法川裕三のIFA散策2016(13) ベルリン・フィルはやはり凄い。計算された収録の業に感心する
今年のIFAにおいては、パナソニックとベルリン・フィルが協業することが発表された。すでに麻倉怜士さんが詳しく報告されているので、ご存知のことかと思う。
9月2日にはパナソニックとベルリン・フィルの共同記者会見がベルリン・フィルハーモニーで行なわれたわけだが、その取材には不肖私も末席を汚していた。この時の模様も麻倉さんが詳細に解説しているのだが、ぼくの方でも気がついたことをひとつ。
ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールの制作において、映像スタジオでは7台の固定カメラをひとりでオペレートしているという。これには驚いたものである。そんなことが可能なのか。
例えば、以前にNHK「ヤング・ミュージック・ショウ」(70年代から80年代にかけて、NHK総合でオンエアされていた音楽番組)のディレクターであった波田野紘一郎氏に話を聞いたことがあったが、当時の映像収録において、次のようなことを語ってくれた(出典:beatleg Magazine vol,159)。
「KISSの武道館公演収録については(1977年5月7日放送)、スタジオライブではない生のステージを収録する初めてのことだったよ。僕らは音楽芸能部ではない青少年部なんだから、収録を行なうために潤沢にカメラを使うことが出来なかったんだ。多くて五台とか。そうすると固定が二台で、動けるカメラは三台、その中でショウを通じて間違いのないカメラ割りをしなくてはならなかったからね」
まずはカメラの台数に制限がある。そうした状況下で氏はステージ台本を作り、それを使ってスタッフ内で情報を共有させる。
「カメラがステージ前に三台あったとして、それぞれが同じような絵をとっても仕様がないんだから。なので、どんな曲をやるのかと先方に問い合わせて、収録の一ヶ月前とかにレコードを聴きながら、曲を解析してイメージをしていくわけ。その後に、収録前の生ステージを見て、台本に照らし合わせながら確認、または微調整をして本番に臨むというのが段取りだったかな。
自分だけではなく、カメラマンも連れていったりして。その時には、ステージを俯瞰するカメラで簡単に収録もしておいて、その映像を見ながらまた確認をしたりね。それで念を入れるのなら、もう一度ライブに出向くね。それが無理であったら、ランスルーのリハーサルを見て、そこで見直したりして、スタッフ全員で微調整をする。それで完璧を期するんだけれど、それでも、本番ではいろいろな事が起きるからね」
以上の手筈をもって本番に臨み、映像を収録させるというのがこれまでの常であった。現代は小型のカメラがリモートになったという利便性があり、そうした収録形態はベルリン・フィルのみならずのデフォルトになっている。
しかし、ベルリン・フィルの特徴としては、前段においてその日の演目の譜面を確認し、譜面上でカメラ割を行ない、それを前もってプリセットすることで収録を進めるというのがトピックとなる。それはいわゆる、詳細な譜面の存在しないロック/ポピュラー・コンサートとは異なる。
基本的に、譜面通りに進行が進む「クラッシック」なコンサートであるからこその手法でもあるだろう。ベルリン・フィルがデジタル・コンサートホールとして、コンテンツを増産できるのは、こうしたスタイルが充分に確立されているからである。
音声収録においても同じことが言える。「ヤング・ミュージック・ショウ」のKISS公演においては、エディ・クレーマーが来日をしてミックスを行なっていたというし、1982年7月24日に放送されたTOTO公演に至っては、収録後にスティーヴ・ルカサーらメンバーがNHKを訪れ、独自のミックスを指示したという逸話も残っている。
一方、ベルリン・フィルにおいてはクリストフ・フランケ氏がレコーディング・プロデューサーとして常駐をしているし、マイクのセッティングもプリセット、またはメモリーが可能なので、容易に仕事に取りかかれるというアクセシビリティがあるのだ。
現在のデジタル・コンサートホールはHDでの収録となっているが、早ければ来年の夏から、パナソニックとのコラボレーションのもと、4K/ハイレゾで収録し、配信が行なわれることになる。
以上のバックストーリーを鑑みれば、ベルリン・フィル、デジタル・コンサートホールのコンテンツが更に充実すること、当然至極と言えようか。
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