HOME > レビュー > 62年前の映像を甦らせた (後) 「七人の侍」4Kレストアは、ひたむきな映画愛の"賜"だった
「七人の侍」4Kリマスターについてのインタビュー取材の最終回をお届けする。今回は、「七人の侍」でもっとも問題とされていた"音"について。聞き取りにくいと言われ続けた本作の台詞を、どうやってあそこまでクリアーに復元できたのか。その詳細をご紹介したい。(月刊HiVi編集部・泉)
清水 さて、お待たせしました。ここから音声レストアについてご紹介します。
堀切 音声については「ゴジラ」の時はお話をうかがっていませんからね。
清水 「ゴジラ」の時はまだソンダーのスキャナーを導入していませんでした。大きな作品で使うのは今回が初めてになります。
小森 劇場公開は「生きる」「キングコング対ゴジラ」が先になりましたが、現場の作業としては「七人の侍」が最初になります。
堀切 ソンダースキャナーの原理についてはStereoSound ONLINEの記事でも紹介していますが、まさかこれほどに違いがあるとは、先日の劇場の音を聞いてびっくりしました。
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石井 今回の音についてはソンダーの恩恵が凄く大きいと思います。今までとはまったく違う考え方で、光学的、アナログ的に音を取り出すのではなく、音ネガを映像で撮って、現像のシミュレーションをして、最適な状態のモジュレーションを作って音を取り出すという方法ですので、それでクォリティは相当上がっていると思います。
堀切 ちなみに元の素材は何を使ったんですか?
石井 1952年、1955年のマスターポジ、1974年と1991年のサウンドネガの4種類がありました。これらのうち1991年のサウンドネガはリニューアル版で、効果音などが足されており、今回の趣旨から外れます。
そこで、残り3種類の素材から音を実際取り込んでチェックしてみました。それぞれ歪み具合や音質、尺の問題などもありましたが、最終的には映像と同じマスターポジを使うという選択に至っています。
堀切 決め手は何だったのでしょう?
石井 全体の音質、ノイズがどれくらいあるか、歪み、フィルムが物理的なダメージがあるか、ワウフラッター(テープ等の回転むらで起きる音のゆらぎ)はどうか、などです。あとは映像とのシンクロ性などを細かく見ていきました。
そこからソンダーでキャプチャーをしました。ソンダーの場合、光学トラックを画像として認識し、同時にデジタル上でガンマ、フィルムの焼き具合を補正しています。さらにプラグインで傷を取るという機能もありますので、それを活用してゴミの少ない状態で波形を作り出していきます。
堀切 やはりマスターポジから音を取り込む方が音質もいいんですか?
石井 そうではありません。マスターポジは、上映用プリントが焼き上がったときに一番いい状態になるように調整しているので、音がきつめになります。フィルムを複写するときに、どうしても甘くなるところ、膨らんだりやせたりするところがあるので、それを計算してマスターポジを作っているわけです。
ソンダーではその工程をデジタル的に処理するので、マスターポジからでもきちんとした音を再現できるのです。
三木 マスターポジから取り込んだ画像を元に、理想的にプリントを起こした状態をシミュレーションして、想定される最高の音質を甦らせるわけです。
堀切 作業としては、音を膨らませるようなことも可能ですよね?
石井 それもできます。最終的には人が試聴して、歪みがなくもっともいい音質に調整していくことになります。
堀切 例えば合戦シーンなどの雨の中で、宮口精二の台詞だけもっと立てようと言ったことはしていないんですか?
石井 やろうと思えばできます。ただ、レベルや音質がわずかに変化しますので、音が硬くなったり、甘くなる可能性は出てきます。
堀切 では今回の作業では、まずノイズなどの成分を取っていって、オリジナルに近いであろうものを取り出したと言うことですね。
石井 第一段階としては、記録されている情報をいい状態で取り出すということを目標にしています。
清水 先ほどご説明したように、ネガのトラックは補正されているので、そのままだと音質が悪くなってしまいます。
そこで「ゴジラ」の時は、音のために一度プリントを作って、そのプリントから音を取り出したんです。映像は直接デジタル化するのに、音のためにプリントを焼くというなんとも不思議な状態でした。
堀切 そう考えると、ソンダーの価値は大きいですね。
清水 ネガから直接音を取り出せるというのは、これまでの常識からすると画期的でした。
堀切 特に光学トラックを使っている旧作には恩恵が大きいでしょう。
石井 もちろんシネテープが残っていればその方がいいこともありますが、「七人の侍」のような年代だとテープが酸化して使えないことも多いんです。
三木 ソンダーは走行系もよく考えられていて、少々フィルムによれが出ていても、それを補正する機能も付いています。もともとアーカイブ用として、音をいかに良好にデジタイズするかに注力して開発されているだけのことはあります。
堀切 個人的には万造役の藤原釜足さんの声に驚きました。オペラ俳優を目指し、舞台演劇の経験も豊かな俳優さんらしく、言葉を発音する口や舌の動きが明確に再現されていたと思います。
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