HOME > レビュー > 本日公開! ハードSFアニメ劇場版『BLAME!』の音響はここで体感したい!! 川崎チネチッタ「東亜重音7.1ch LIVE ZOUND上映」の音響監修の現場をリポート
2017年5月20日/鳥居一豊
本日5月20日より劇場公開がスタートするハードSFアニメ『BLAME!』(ブラム)。制作はポリゴン・ピクチュアズで、監督は瀬下寛之、音響監督は岩浪美和という強力なスタッフが参加した話題作だ。
『BLAME!』については、すでに世界最速試写会レポート、監督インタビューなどを掲載しているが、弐瓶勉の原作コミックを3DCGでアニメ化した作品で、無限に拡張を続ける階層都市を3DCGでリアルに映像化している。
しかも、本作は音の点でも話題がいっぱいだ。その音は「東亜重音」と銘打たれ、劇場によってドルビーアトモス上映や7.1chのいわゆる爆音上映が行われる。ファンならは、その両方とも足を運びたいところだろう。
今回は、「東亜重音7.1ch LIVE ZOUND上映」を行なう川崎チネチッタで行われた、岩浪音響監督による音響監修の様子をリポートする。
まず、川崎チネチッタの「CINE 8」(8番シアター)について紹介しよう。フロントおよびセンタースピーカーは、d&b audiotechnik社のラインアレイ・スピーカーが各チャンネル4アレイ。サラウンド(側面)およびサラウンドバック(後方)に、同じくd&b audiotechnik社のxS-series 10Sをサラウンドに左右各8台、サラウンドバックに6台設置。サブウーファーは18インチドライバーを前方に2基、後方に1基内蔵したJ-SUB POWERを2台配置した7.1ch構成となっている。
これらにスピーカーは映画館用というよりは、コンサートなどのSR(サウンドリインフォースメント)用として使われるもの。これにLake社のデジタルオーディオプロセッサー、DSP内蔵のパワーアンプD80によって駆動している。
「CINE 8」は元々THXシアターとして設計されており、静粛性や音響特性もかなり高いレベルの性能を持っている。監修をした岩浪音響監督自身も「500人規模のシアターとしては抜群に特性が良く、調整しやすいシアターです」と絶賛する。ちなみに、ここでの岩浪音響監督による監修は、『ガールズ・アンド・パンツァー劇場版』、『劇場版ソード・アート・オンライン -オーディナル・スケール-』に続く3回目。シアターの特性もよくわかっており、その実力をフルに活かした音響に仕上がっている。
岩浪音響監督による音響チェックは、すべての上映が終了した深夜0時にスタート。「CINE 8」に足を踏み入れると、ほとんど人の居ないシアター内は驚くほど静かで不要な反響もほとんどない。自宅でホームシアターを実現しているなど、音響に関心のある人は早めに場内に入って、その静かさや優れた音響特性を確認してみるといいだろう。
音響チェックは、まずは各チャンネルからピンクノイズを出し、レベルチェックと調整からスタートした(ちなみに調整のための機材や測定マイクが設置されていたのは、席番号M14および15)。レベルチェック後に、岩浪音響監督がぼそりと呟いた。「6本と数が少ないサラウンドバックが一番厳しいね。スピーカーを壊さないように気をつけて」(岩浪音響監督による爆音上映ではいくつかの劇場で上映中にスピーカーが壊れてしまうアクシデントが発生している)。
レベルチェックが完了したところで、本格的な音響チェックに突入。「ソースは7.1ch爆音ミックスを使ってください」の一言が!!。『BLAME!』は制作時点でドルビーアトモス用の音声と7.1ch、5.1ch用の音声が制作されているが、7.1ch音声は「爆音ミックス」と呼ばれる音声も制作している。これが「爆音7.1ch」で使われる音声だ。
その音声で映画の冒頭部分をテスト上映。迫力たっぷりの冒頭のモノローグがややコモり気味の不鮮明な感じになっている。これから、こうしたダイアローグや音楽、効果音の聴こえ方を調整して、最適なバランスに仕上げていくわけだ。
各チャンネルのスピーカーから出る音をイコライザーで調整を繰り返していく。興味深いのは、思った以上に低音の量を減らしていること。フロントスピーカーについてはかなり大胆に低音を減らしていた。爆音上映なのにこれは意外だった。
そのおかげで、冒頭のモノローグがどんどんクリアな声になっていく。爆音の迫力はそのままで、どんどん音が明瞭で聴きやすくなっていくのだ。
続いて、エンディングのスタッフロール部分を上映し、主題歌の音をチェック。最終的にはクライマックスのアクション場面など、作品の要所をチェックしていった。
調整がある程度仕上がってきた頃、岩浪監督が席を離れ、劇場内を歩き回りはじめた。前方はもちろん、 後方の席での聴こえ方を確認しているのだ。中央の席だけでなく、劇場内のすべての席できちんと狙い通りの音になっていることを確認して、チェックは完了。
ここで、最終的に仕上がった音の印象を簡単に紹介しよう。ドルビーアトモスは天井のスピーカーが加わることで音場が立体的になり、空間のつながりもスムーズな印象。これに比べると「爆音7.1ch」は実体感たっぷりの音で迫力重視のバランスと感じた。ドルビーアトモスも重低音の迫力は十分なレベルだったが、実体感のある音のせいか迫力では「爆音7.1ch」が上だと感じた。特に重力子放射線射出装置(主人公の霧亥が持つ大きめの拳銃のような武器。尋常でない威力を誇る)を撃ったときの音は劇場内の空気が震えるような感じになる。最前列のサブウーファーの前だと風を感じるレベル。この迫力は病みつきになること請け合いだ。
最後に、岩浪音響監督に音響監修のポイントについて伺った。
「このシアターは音響特性も優秀で空間が広く、響きも優れています。そして、スピーカーもドイツ製らしい密度の高い音が楽しめます。耳をつんざくような音ではなく、聴きやすい疲れない音です。ただし、映画館用のスピーカーではないので、映画と音楽の音の表現で少し違う部分がありますので、そこを映画の音に近づけるようにしています。特に低音域の出方を細かく調整し、エンディングの主題歌でバスドラムやベースが前に出すぎないようにバランスを取っています」(岩浪音響監督)
爆音上映では低音が大きめになることで、音楽を聴くとバランスが崩れてしまいやすとのこと。7.1ch爆音ミックスでも、本編とエンディングの音楽は異なるミックスとして、低音のバランスを調整してあるという。これらが意図通りに再現されるように微調整を行ったわけだ。
「そして、映画の基本でもありますが、声をきれいに出すことも爆音上映の大きなテーマです」(岩浪音響監督)
女性も見に来ることを意識して、声を大事にしつつ、迫力ある音に仕上げることが基本だという。大胆に低音を下げていったのも、声や音楽を聴きやすくするためのものだったのだ。
「この劇場でのポイントとしては、響きの良さを活かして、空間の広がりが出ることを意識しています。今年の2月にサラウンドスピーカーがd&b audiotechnik社のものになったので、サラウンド空間のつながりの良さも向上していますね」(岩浪音響監督)
ドルビーアトモスと比べると、天井のスピーカーがないぶん、空間の再現には違いがあるが、爆音7.1chでも劇場の中央付近の良い席では高さを感じられるようにしているとか。また、ラインアレイ・スピーカーを使っているメリットとして、音が遠くまで減衰せずに伝わるので、後ろの方の席もなかなか良好だとか。
なお、川崎チネチッタでは、5月28日(日)に監督や主要キャストの面々が登壇する公開記念舞台挨拶が決定(5月28日 14:05の上映回)。2週間の限定上映だが、上映期間の延長も検討しているという。熱心なファンの間では、土日を使って川崎チネチッタを含めた音響の良い映画館巡りをするというくらい、大きな盛り上がりを見せている『BLAME!』その入念に設計された音をぜひとも存分に楽しんでほしい。
【作品情報】
5月20日(土)より全国公開(2週間限定)
<キャスト>
霧亥:櫻井孝宏/シボ:花澤香菜/づる:雨宮天/おやっさん:山路和弘/捨造:宮野真守/タエ:洲崎綾/フサタ:島﨑信長/アツジ:梶裕貴/統治局:豊崎愛生/サナカン:早見沙織
<スタッフ>
原作:弐瓶勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
総監修:弐瓶勉
監督:瀬下寛之
副監督/CGスーパーバイザー:吉平"Tady"直弘
脚本:村井さだゆき
プロダクションデザイナー:田中直哉
キャラクターデザイナー:森山佑樹
ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
美術監督:滝口比呂志
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
主題歌:angela「Calling you」 音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:クロックワークス
製作:東亜重工動画制作局
<SNS>
公式HP:http://www.blame.jp
公式Twitter:@BLAME_anime
公式Facebook:https://www.facebook.com/BLAME.anime
(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
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