HOME > レビュー > 【徹底研究2018冬】超高性能AVプリアンプ、トリノフ・オーディオ「Altitude16」の非凡な立体音場に舌を巻く
2018年の主役モデルを掘り下げる「徹底研究」で、今回紹介したいのが仏トリノフ・オーディオのコントロールAVプリアンプ「Altitude16」だ。チャンネル数が上位機「Altitude32」の最大32chから16chに制限されたものの、高度な音場補正技術はそのまま。それでいて価格は、おおよそ半分と大幅に安いのだ。その真価を探っていく。(編集部)
2003年、プロ向けのオーディオ機器を中心に手がける会社としてフランスに設立されたトリノフ・オーディオ(以下トリノフ)。特に立体音響関連の技術に長け、NHK、BBCといった放送局、フォックスなどの米国ハリウッドの映画スタジオ、さらには英国のアビーロードをはじめとする著名な音楽スタジオにも納入実績がある。
プロ用機器の開発で培った技術、ノウハウを活かし、家庭用としても使える高級コントロールAVプリアンプとして仕上げられたのが、「Altitude32」である。高度なデジタル信号処理や3Dマイクによる音響測定の技術を駆使し、周波数特性の補正にとどまらず、群遅延特性や位相特性、さらには部屋の反射、残響特性なども最適化してしまうというスーパーマシンだ。
ここまでの高度な信号処理が可能なのは、特定のDSPチップに依存せず、インテルのCPUプロセッサー上で走るソフトウェアで各種機能を実現しているため。Auro-3Dのように新たなサラウンド規格が後から登場したとしても、ソフトウェアアップデートで対応可能だ。
常識にとらわれない高度な提案が目白押しだが、もっとも特徴的な技術といえば、設置されたスピーカーに最適化した信号をリアルタイムで創り出す「スピーカーリマッピング」技術で決まりだろう。具体的には入力された音源に対して、制作者が意図しただろう音響空間を、実際に配置されたスピーカーシステムで忠実に再現できるように、電気的にリマッピング(再配置)した信号を作り出すというもの。部屋の音響特性も含めて、スピーカーシステム全体の数やそれぞれの特性を把握して、その場所でもっとも理想的なサラウンド空間を描き上げていくというイメージであり、スピーカーの数は多い方が理想に近い、よりきめ細かなサラウンド空間が描き出せることになる。
また、ドルビーアトモス(Dolby Atmos)とDTS:X、あるいはAuro-3Dの、いわゆるイマーシブオーディオ規格ではそれぞれ推奨しているスピーカー配置が異なるが、ここでもリマッピング技術は有効だ。多彩な音源を基本的には同一のスピーカーシステムで再生するホームシアターにとっては悩ましい問題だが、フォーマットごとのスピーカー配置の考え方の違いをリマッピング処理によって電気的/仮想的に補正し、フォーマットの枠を越えて本来あるべきサラウンド再生を約束するのである。
こうした基本的な考え方は、本機「Altitude16」でもしっかりと受け継がれている。最大の再生チャンネル数は16に制限されるが、そのシステムに対して最適な信号を各スピーカーに送り出し、理想のサラウンド再生を実践する手法はAltitude32とまったく一緒だ。
拡張モジュラー基板用スロットやアナログ7.1ch入力等が廃止され、シンプルな入出力端子の装備となった。それに伴ない本体の高さが25mm低く、奥行が15mm短くなった。HDMI端子はHDCP2.2対応だ
では何が違うのか。下の表の通りだが、要約すると、最大出力が16 ch固定であることと、96kHz/24bitのネイティブプロセッシングであることの2点に尽きる。さらにAltitude32では拡張用基板を入替え可能なモジュール設計として、出力設定が16ch、24ch、32chから選択できたが、今回は最大16ch出力固定で、それ以上の出力数には対応できない。
ただ16chの出力数は現在のホームシアター環境では、不足がないばかりか、思いのほか都合がいい。7.1chベースのサラウンドシステムに、スクリーンサイドに2スピーカー、トップチャンネルとして6スピーカーを加えることが可能(図参照)で、このシステムであれば、ドルビーアトモス(Dolby Atmos)、DTS:X、Auro-3Dのどれもスムーズに対応できる。
また16chまでは必要ないという場合は、最大4ウェイのアクティブクロスオーバー(チャンネルディバイダー)としても活用することが可能。もしスクリーンサイドのワイドchが必要なければ、L/Rchのバイアンプ用クロスオーバーとしても活用できるし、フロントハイトを加えることもできる。16chの活用法は実に多彩だ。
次に192kHz/24bitのネイティブプロセッシングが96kHz/24bitに変更されている点だが、これはひとえにCPUの処理能力/処理速度によるところが大きい。ただ先に述べた3つの最先端のイマーシブオーディオ規格も含めて、サラウンド音声の場合、ほとんどが48kHz/24bitで作られているため、クォリティへの影響はごく一部のコンテンツに限られる。ちなみにAltitude32の16ch出力仕様、「Altitude32-816」の価格は455万円+税。この差をいかに捉えるのか……。Altitude16の割安感を否定する意見は少ないだろう。
シンプルなリモコンも同梱されるが、詳細設定や操作は、本体とPC/タブレット等をLAN接続してVNC(ヴァーチャル・ネットワーク・コンピューティング)という手法で行なう。この仕組みは従来からは変わらない。ウィザード形式で基本設定できる新機軸も導入されている。画面はVNC接続したiPadのもの
実際に本機の輸入元の視聴室に設置された9.1.6構成のスピーカーシステムとの組合せで確認したAltitude16のパフォーマンスだが、音の勢い、躍動、そして空間の構成力と、その非凡さに舌を巻いた。
まずドルビーアトモスのデモ用トレーラーとして広く使われている『リーフ』の再生。1枚の葉っぱが森の中をさまよいながら、水面に落ちていくまでの過程を表現した1分ほどの作品だが、空間を支配する風や虫の音、鳥のさえずりの位置関係が明確で、しかも前後左右に漂い、水面に落ちていく葉っぱの風切り音の動きもなめらか。音の重なりと動きの表現が実に豊かであり、まさにその場に自分自身が引き込まれたかような不思議な感覚で、新鮮だった。
続いて映画『エベレスト』。晴天のエレベレストを突然襲った嵐が織りなす、自然の驚異を描いたシーンだが、ベースキャンプでのテントをなぎ倒す風、山頂での突然の吹雪、そして遠くから徐々に近づき、体を揺さぶるように轟く雷鳴と、迫力のサラウンド空間が立体的に展開されるが、静寂と喧騒のコントラストが実に鮮やかで、呼吸しているかのように伸縮する音場空間が生々しい。
そして私がもっとも感心したのは、その音離れのよさだった。恐怖をあおる風、地面を強く叩く雪、そして空から轟く雷鳴と一体となり、聴き手に襲いかかってくるわけだが、スピーカーの存在は希薄になり、それぞれの音源だけがより明確に感じ取れるのである。これぞリマッピングテクノロジーのなせる技なのか……。
短時間の視聴ではなく、トリノフマジックが織りなすこの空間をもっともっと体験したい。そんなふうに私の気持ちは大きく揺らぎ始めたのだ。
....................................................................................................
CONTROL AV CENTER
TRINNOV AUDIO
Altitude16
¥2,600,000+税
●接続端子:HDMI入力7系統、HDMI出力2系統、アナログ音声入力2系統(RCA、XLR)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、デジタル音声出力2系統(同軸、光)、16chプリ出力1系統(XLR)、LAN2系統(うち1系統はデュアルオーディオネットワーク用端子)、ほか●オプション:測定用専用マイクロフォン(¥130,000+税)●備考:バランス入出力HOT=2番ピン ●寸法/質量:W440×H140×D430mm/11.5kg
【問合せ先】
●問合せ先:ステラ
電話番号:03-3958-9333
>>トリノフ・オーディオのWEBページ
....................................................................................................
●リファレンス機器
プロジェクター:ソニーVPL-VW1100ES
スクリーン:スチュワート スタジオテック130 G3
UHDブルーレイプレーヤー:オッポデジタルUDP-205
パワーアンプ: ベルカントeVo2、eVo4×2、eVo6、ゴールドムンドTelos amp
スピーカーシステム:ヴィヴィッドオーディオ B1 Decade(L/R/Rear Sur L/Rear Sur R)、V1(C)、GIYA G4(Front Wide L/R)、B1(LS/RS)、自作モデル(トップスピーカー×3組、LFE)
●視聴ソフト
BD
『ドルビーアトモス トレーラー』『エベレスト』
『ゲーム・オブ・スローンズ』『ニューイヤー・コンサート2017』他
Interview:CEOに直撃!
「Altitude16は16ch限定ですが品位の点ではAltitude32と同格です」
Altitude16のリリースに合わせてトリノフ・オーディオのCEO、アルノー・ラボリエ(Arnaud Laborie)さんが来日。Altitude16の概要をうかがった。
藤原 まずこの価格が実現できた理由を教えてください。
アルノー やはり気になりますか。電源部やCPUを異なる仕様にしたり、筐体を小型化したり、アンバランスRCA出力端子をなくしたり、あるいはWi-Fi内蔵を止めたり、そんな細かなことの積み重ねで、コストダウンを図りました。ただ価格にもっとも効いているのは出力を16chに絞ったことだと思います。
藤原 でもAltitude32にも出力16ch仕様モデル(Altitude32-816)がありましたが、価格は450万円を超えていました。
アルノー Altitude32では192kHz/24ビットの内部信号処理でしたが、今回はCPUの能力に合わせて、96kHz/24ビット処理に変わっています。192kHzのデジタル信号入力も可能ですが、この場合、内部的に96kHzにダウンサンプリングして処理したのち、192kHzに変換して出力することになります。同じ16ch仕様でもそこが大きく異なります。
藤原 日頃から我々が楽しんでいる映画や音楽のサラウンド音声は、48kHzあるいは96kHz収録の作品が大半ですが、この場合は信号処理に関わる制約は受けないと考えていいのですか。
アルノー もちろんです。独自のオプティマイザーやスピーカーリマッピングといった処理も48kHzや96kHzで行なうことになりますが、48kHz、96kHzで収録された音源の再生クォリティはAlititude32と同等と考えていただいていいと思います。
藤原 では実質上、家庭でのイマーシブオーディオの再生では上級機と遜色はないと?
アルノー その通りです。
藤原 ありがとうございました。
....................................................................................................
上杉研究所 藤原伸夫氏設計・製作 6L6プッシュプル・インテグレーテッドアンプ
Sun Audio SVC-200 管球王国ヴァージョン (プリアンプ)
真空管と採用パーツの変更で音質と安定性の向上を図った限定高音質仕様
エレハモ製6550EHと優れた特性のトランスが活きたパワーアンプ